マッチングサービスの宿命「ユーザーの卒業」にはメリットも
米原:転職市場のニーズと求職者数は全く釣り合っていないですね。たとえば、建築技術者の求人倍率は非常に高い一方、該当する求職者の数がかなり少ないんです。求職者の母数が少ない職種を集めるためにマーケティング予算を割くと全体の獲得数が減ってしまいますし、数を重視してジャンルを問わずに広く集めた結果、意外と欲しい職種を獲得できるケースもあります。市場ニーズと求職者ニーズのマッチングは「できる時もあればできない時もある」というのが現実です。
米原:一方で、全ての働く人がユーザーになり得るとも考えています。働く人のクラスターやペルソナを分類しながら仮説を立ててクリエイティブを検証すると、急に数倍のユーザー数を獲得できることもあるんです。そういう瞬間は「ユーザーに良い機会を提供できた」という達成感を覚えますね。
MZ:「企業と求職者」「男性と女性」という対象の違いはあるものの、マイナビ転職とタップルにはどのような共通項があるとお考えですか。
米原:マッチングサービスには必ず「ユーザーの卒業」がありますよね。マイナビ転職でも転職先が決まったユーザーは卒業していくので、新規ユーザー獲得のための予算が確保されていて、色々な施策を試しやすい点はマーケターにとってアドバンテージと言えるのではないでしょうか。
髙橋:卒業に関してはジレンマも少し感じています。長く利用してもらう方がビジネスにとってはプラスですが、ユーザーは早く相手を見つけて退会したいはずです。継続利用をしてもらいたい運営都合の不自然な工作は、今の時代ユーザーに支持されなくなってしまうので、ユーザーの立場に立って真摯にサービスをやるしかないと思っています。
USPを出しづらい人材サービスは広告の訴求方法で差別化を図る
MZ:マッチングサービス業界にはどのような課題があるのでしょうか。
髙橋:弊社が感じている足元の課題は、マッチングアプリに対するネガティブイメージです。一昔前に比べると市民権を得てきたものの「利用していることを人に言いたくない」と感じるユーザーはまだまだ多く、ポジティブな情報が拡散されにくい構造を呈しています。実は、私がタップルに異動した目的の1つが「マッチングアプリのイメージ改革」なんです。世の中の受け取り方を変える取り組み自体には楽しさややりがいを感じています。
米原:求人情報サービスは「USP(Unique Selling Proposition)」を出しづらいため、どのサービスも同じに見えてしまうという課題があります。画期的な機能を開発したところで他社から簡単に真似されてしまうので、いかにクリエイティブで突出するかという点を意識しながら広告を運用しています。
たとえば、多くの企業が「年収●●万円」「休日●日」という引きになりそうな条件を組み合わせてクリエイティブを作っていますが、それだと独自性は出せません。そこで「こういう風に使うとあなたの転職活動に役立ちますよ」という機能訴求の動画広告をメインに配信したところ、獲得増加につながりました。
髙橋:我々はプロモーションに加えてプロダクトの中身でも差別化を図っていますね。幸い私はプロダクトの設計にも関わることができるので、プロダクトアイデアを作った上で、広告などを中心にコミュニケーションアイデアを考えるようにしています。