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人間の普遍的な感性に訴える感動の再現性が名曲を作る
高橋飛翔(以下、高橋):チャンスを無駄にしない行動力と積極的な売り込みでプロの作曲家になられたとのことですが、売り込みをしていたときとプロになってからで、曲作りに違いはありますか?
杉山勝彦(すぎやま・かつひこ)
1982年、埼玉県生まれ。作詞、作曲、編曲家として乃木坂46、中島美嘉、家入レオなど数多のアーティストへ楽曲を提供。作詞・作曲・共編曲を手掛けた家入レオの「ずっと、ふたりで」では『第59回輝く!日本レコード大賞』作曲賞を受賞している。フォークデュオ「TANEBI」としても活動中。
杉山勝彦さん(以下、杉山):売り込むための曲はそのときの思いで自由に作れますが、プロとしていただく依頼は、全体の幸せの最大値を目指す必要があると感じています。
たとえば、アニメやドラマの主題歌なら、その物語の世界観や主人公のキャラクターを大切にするために原作や台本は全部読みますし、オンエアされる時間帯や、曲が流れる尺も意識して曲と歌詞を考えます。そこに、自分ならではの表現や、視聴者にこういう気持ちになってほしいという思いを乗せる感じです。
それと、制作側はスケジュールに沿って進行しているわけだから、やり直しが生じない曲を作ることも必要ですね。アーティストやタイアップなどが存在する中で曲を提案するには、携わるみんながハッピーになるものを探さないといけないと思います。
高橋:誰が歌うのか、どのようなテーマでどの時間帯に放映されるのか、そういったコンテクストにハマるところを刺しに行く感じなんですね。
杉山さんは過去のインタビューで「感動の再現性の有無が、プロとアマチュアの違い」という話をされていたのですが、そこに通じると思いました。
杉山:音にはメジャーコードとマイナーコードがあるのですが、誰がどう聞いても、メジャーコードは明るく、マイナーコードは悲しく聞こえるんです。これって、人間が持って生まれた感性で、普遍的なものなんですね。感動の再現性は、そうした人間の反応に最適な音をあてることだと思います。
そのための一番の参考書は、時代に淘汰されることなく残っているクラシックです。今最も人気があるアーティストの曲でも、300年後に聞かれている可能性は限りなくゼロに近いけど、ベートーベンは300年後でも聞かれていると思います。それは、時代は変わっても人間の本質はそれほど変わらないからです。
僕は、そうした人間の普遍性にあてられる要素を自分の中に引き出しとして持っていて、どう感じてほしいかとか、どう表現したいかといったことに合わせて、使い分けたり組み合わせたりしています。
杉山さんが最も感動を再現できた曲とは?
高橋:人間の感情にあてはまる音やそこへ導くのに最適な音を自分の中である程度体系化してストックしている。それをプロとして人間の普遍的な感性にあてはめていく。すごくおもしろいです。
ビジネスにおいても、顧客のニーズやその奥にあるインサイト(人を動かす隠れた心理)を探っていくことが求められますが、音楽と同じで人の根本的な欲求や心理は時代が変わっても変化しない普遍性を持っています。成功したビジネスを深掘りしていくと、こうした人間の欲求や心理の普遍性を見事に突いている、「成功するべくして成功している」ビジネスであることが多いです。
逆に言えば、何度もビジネスをヒットさせている人は、普遍的な人間の欲求や心理への理解が深く、狙って成功させているケースが多い。杉山さんの楽曲作りとの共通点を感じますね。
ちなみに、杉山さんご自身が感動の再現性が一番「ハマった」と思ったのは、どの曲ですか?
杉山:家入レオさんの「ずっと、ふたりで」ですかね。あの曲は7~8年前に作った曲だったのですが、たまたま家入さんのアルバム収録曲を依頼された際に、ドラマ主題歌のコンペをやっているとお聞きして、「良かったらこの曲を聞いてもらえませんか?」と売り込んだ曲だったんです。
その曲で『第59回輝く!日本レコード大賞』作曲賞も受賞しています。いろいろなラッキーが重なったという運の要素も強かったですが、無理してドラマに合わせていなかったのが良かったのかなって思います。
マーケあり!ポイント
・すべての人には、持って生まれた普遍的な音楽に対する感性があります。杉山さんは、こうした感性を揺さぶる音の在り方について、いくつもの引き出しを持ち、使い分けたり組み合わせたりすることで、数多くの楽曲において再現性高く人を感動させる音楽を生み出すことができています。
・「人間の変わらない感性」を学び、再現性高くヒットを生み出し続ける杉山さんの姿勢は、「変わらない人の欲求や心理」を学び、何度もビジネスをヒットさせる凄腕マーケターと共通するようにも感じられます。