Web広告からプライシングサービスの着想を得る
今回紹介する書籍は『新しい「価格」の教科書 値づけの基本からプライステックの最前線まで』。著者はハルモニアで企業へのコンサルティング/ビジョンメイキングを行う松村大貴氏です。
松村氏はヤフーで米国企業との事業開発やブランディングに携わったほか、東日本大震災の復興支援プロジェクトなどに従事。2015年のハルモニア創業以来、インターネット広告から着想を得てダイナミック・プライシングサービスを立ち上げるなど、プライシングというテーマに取り組み続けている人物です。
本書は経済学的なアプローチで値付けや価格を論じる本ではありません。「直接的に価格決定に関わる人だけでなく、全てのビジネスパーソンに向けて新しい考え方や捉え方を共有することに重きを置いて書いた」と松村氏は前書きで述べています。
前半では「価格」と「プライシング」を定義した上で、現代に至るまでの“価格史”を商習慣やテクノロジーの変遷とともに振り返り。後半では「変動価格の時代」に分類される現代において、企業がプライシングでビジネスを成長させるための実践的なヒントを提示しています。
人々の価値観が多様化し、商品やサービスの価値も買い手の価値観や状況によって相対的に決まるとされる昨今。変化が激しく不確実性の高い現代において、企業はプライシングにどう向き合えば良いのでしょうか。
規模への制約を価格で乗り越える
そもそも変動価格とは何なのでしょうか。松村氏は変動価格について「季節や日によって需要が異なる上、提供数に限りがあるような商材に使われる」と説明しており、具体例として航空券の価格やホテルの宿泊料金を挙げています。このように限られた条件や一部の業界で使われているようにも見える変動価格ですが、松村氏によると近年では変動価格の導入を検討する業界が増えつつあるというのです。その背景には、日本における人口減少やコロナ禍によるキャパシティの抑制など、規模的な成長への制約があると松村氏。企業の売上が「価格×販売数」で決まる以上、販売数が伸ばせないのであれば価格を変える必要があるのだといいます。
一方で松村氏は、マーケティング・ミックスの4大要素である「プロダクト」「プレイス」「プロモーション」と比べ「プライス」における戦略や技術の成熟が大きく遅れているとも指摘。プライシングは企業・商品・時期によって異なる戦略が必要となり、その個別性の高さやフレームワークの多様さが難易度を上げていたからだと遅れの理由を分析しています。
動的な時代に求められる「モデル型戦略」
では、変動価格を取り入れる際にどのような考え方が必要となるのでしょうか。松村氏は一律価格でビジネスを行ってきた企業の視点から、変動価格の持つ性質を直感的に表現しています。
価格が変動するということは、これまでビジネス構造の中で固定されていた重要な足場の一つがふわふわと動き出すようなことだ。(p.80)
このように、変動価格を扱うには従来の戦略が通用しないことを示し、相対的な価格や価値をマネジメントしていくために、企業は戦略を静的なものから動的なものへとシフトする必要があると松村氏。調査や検討を重ね、上層部へのプレゼンを経て意思決定に至る「パワーポイント型戦略」よりも、外部環境の可変性を前提に、アウトプット自体を決めるのではなく数式=モデルを考える「モデル型戦略」が適しているのだといいます。そして、本書の後半で詳しく扱う「ダイナミック・プライシング」という手法こそ、モデル型の価格戦略だというのです。
本書の後半ではダイナミック・プライシングの特徴や浸透しやすい業界のほか、顧客・従業員へのインパクトなどを解説。「プライシング成功への6ステップ」を提示し、読者が自社でダイナミック・プライシングを行うシミュレーションもできるようになっています。これまでマーケターとしてプライシングに向き合ってこなかったという方や、ビジネスの成長に向けた突破口をお探しの方は、手に取ってみてはいかがでしょうか。
本記事はダイヤモンド社からの献本に基づいて作成しています