「ヒット商品を作ること」がCFLのミッション
2016年に設立された「Calbee Future Labo(以下、CFL)」は「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」に続くヒット商品を開発すべく結成されたチームだ。カルビー社内の研究開発部門とは異なるアプローチで、商品開発を行っている。CFLの独自性はいくつかあるが、1つは初期メンバーの3人とも食品業界での新規事業立ち上げは未経験だったという点だ。
樋口氏自身も大学時代は栄養学を専攻し、新卒でカルビーに入社。商品開発部を経てCFLに配属されたという。
樋口氏はまず、CFLの立ち上げ経緯を紹介。カルビーでは2010年以降、大きなヒット商品が生み出せずに苦戦していたという。
「『嗜好性やライフスタイルの多様化が進んだ今は、以前よりもヒット商品が生まれにくくなっている』『このまま従来と同じ開発手法を採っていても、またこの先10年同じ状況が続いてしまう』そう考えた経営層が、新たな試みを始めるべくCFLを設立しました」(樋口氏)
カルビーはCFLの立ち上げにあたり「ヒット商品を作ること」というミッションのみを設定し、具体的な進め方は初期メンバーの判断に委ねた。自社工場を使う必要もなければ「製菓」という枠組みすら取り払ってもよく、とにかくこれからの時代に受け入れられる商品を作ることに徹してほしい──そんなリクエストを受けた初期メンバーの3人は、ほぼゼロベースの状態で話し合った。
「話し合った結果『自分たちだけで作ろうとするのはやめよう』と決めました。3人しかメンバーがいないので、外に頼るしかなかったのです。とにかく生活者の声を聞いて何が求められているのかを知り、他社の視点や技術を織り交ぜながらニーズに応えるための解決策を探る。そうすれば、これまでのカルビーの延長線上では生まれないような発想を持てるのではないかと考えました」(樋口氏)
食に対する姿勢の深掘りでインサイトが浮き彫りに
一般的に、食品開発を進める場合は企画・試作・製造・広告販売まですべてのプロセスを社内で完結するが、CFLはすべての工程で生活者や他社と共創する方針を打ち出した。
「社内の常識に縛られず、自由に発想してほしい」という経営層の思惑から、CFLはカルビーの本社がある東京・丸の内から物理的に離れ、同社創業の地である広島にオフィスを構えた。
第1弾の取り組みとして、生活者2,000人に対し「食」に関するインタビューを実施。当初は一人ひとりに直近1週間で食べたものをヒアリングしていたが「昨日はこれを食べた」「今日の朝はあれを食べた」という情報からは、新しいアイデアにつながる手応えが得られなかったと樋口氏は振り返る。
「『空腹を満たすもの』『生活を豊かにするもの』など、人によって食の捉え方はそれぞれです。その人の食に対する姿勢を知ることで『なぜその食事を選んだのか』がわかる。そこにアイデアのヒントがあると気付きました。そこからは、対象者の1週間の“生活の記録”を基に、生活行動についてのインタビューを実施しました」(樋口氏)
インタビューの方針を変えたところ「赤ちゃんが生まれたばかりなので、自分の食事はスピードを優先している」「最近肌荒れが気になるので意識的に特定の食材を食べている」など、食だけにフォーカスしていた時は見えてこなかった部分がどんどん出てきた。