担当者の当事者意識こそアイデアの源泉
CFLでは販売促進についても社内で完結させることはない。クラウドファンディングで顧客の声を集めたり、集めた声を反映した商品を発売したりする際、テレビCMなどのほかに顧客主導でプロモーション動画を作成してもらうキャンペーンを企画したという。

このように生活者を巻き込んだ販促企画の土台となっているのがCFLの「サポーター制度」だ。登録は無料で、インタビューに答える・商品アイデアを伝える・試食会に参加するなど、開発に深く携わることができる。現在約1,700名が参加しており、CFLでは一人ひとりと対話を重ねているという。
生活者が抱える課題をより深く理解し、商品に落とし込む工程を経験してきた樋口氏。インサイトを理解するのはもちろん重要だが「ただ理解するだけでは意味がない」とも語った。
「商品開発において、生活者を理解することは大前提です。そこに加えて、課題を解決するための手段である素材や技術への理解と、当事者意識が必要だと感じています。『生活者の課題は何か』『解決するための手段として何が最適解か』を、熱量を持って考え抜くためには当事者意識がなければできません」(樋口氏)
樋口氏によると、睡眠の質を高める成分が含まれた可食性フィルム「にゅ~みん」も、担当者の強い当事者意識があったからこそ生まれたのだという。生活者へのインタビューを通じ「寝付きが悪い」「眠りが浅い気がする」など、睡眠に関する課題が多く挙がり、CFLでは課題への最適解を考え続けた。

「噛まなければいけないものだと歯を磨かなくてはなりませんし、容器が大きいとベッドサイドに置くのは邪魔です。なかなか答えが見つからずにいると、ひょんなことから可食性フィルムの存在を知り『これだ』と思いました。口の中で溶けるので歯を使う必要はなく、置き場所にも困りません。薄いフィルムに睡眠の質を高める天然成分『クロセチン』を組み合わせたところ、寝る前にも水なしで気軽に食べることができ、心地よいオレンジのアロマを楽しみながら眠りにつける商品が生まれました」(樋口氏)
フィルムを知ったのは偶然だったが「知った時に単なる情報として受け止めるか、アイデアとして商品に取り込めるかどうかは、普段からどれだけアンテナを張っているかによる」と樋口氏。「アンテナを張れるかどうかは、当事者意識の有無で決まる」とも語った。
食品と自社の価値を問い直し続ける
CFLでは常に「食品の価値は味だけなのか」を議論し続けているという。メンバー間では「味に逃げるな」「栄養機能性に逃げるな」というメッセージが発されることも。使い勝手や見た目、開発ストーリーなど、様々な価値を提供できるのではないか──そんな問いを基に商品開発へ取り組んでいる。
カルビーは創立当初「キャラメルを製造する会社」として知られていた。現在は顧客に健やかなくらしを提供することを目指し、未利用の食糧資源の活用や、健康に役立つ食品作りに取り組んでいる。食品の価値だけでなく自社のあるべき姿を問い直すことで、キャラメル製造会社からの飛躍を遂げたのだ。樋口氏は講演の最後を次のような言葉で締めた。
「CFLはこれまで出会ってきた企業関係者約3,000名とサポーター約1,700名で、大きな“バーチャルチーム”を形成しているとも言えます。バーチャルチームを活性化しながら生活者と丁寧に向き合い、世の中を良くする商品開発に邁進していきたいです。将来的には『カルビーって元々ポテトチップスの会社だったの?』と驚かれるくらい変革を起こしたいですね」(樋口氏)