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リアル接客重視だからこそLINE STAFF START導入 販売力の底上げを目指す田中興産のDX

 ヨーロッパ9カ国・100以上のブランドの洋服を取り扱い、国内47拠点でインポートセレクトショップ「armoire caprice(アーモワールカプリス)」等を展開している田中興産。創業50年を迎えた同社は、これまで顧客中心の販促活動を展開しており、特に店舗での接客を重視してきた。2021年11月には、LINE公式アカウントを通じて店舗スタッフと顧客がつながる新サービス「LINE STAFF START」を導入。リアル接客に定評がある同社が、オンライン接客ソリューションを導入した狙いとは。経緯と導入効果について、田中興産 中川裕氏と店舗スタッフの佐々木萌衣氏、そして同社のサポートに当たっているLINE 折原彩香氏に聞いた。

リアル接客を大事にしている老舗アパレル企業

MarkeZine編集部(以下、MZ):ここ数年、コロナ禍の影響もあってアパレル業界のデジタル化が進んでいるといわれています。田中興産さんは店舗やリアル接客を重視しているとのことですが、デジタル化の流れをどのようにお考えですか?

中川:今、小売業界でECの売上が10%を超えてきたといわれていますが、実は当社はECに関してかなり後発なんです。現場のお客様との関係性構築を重視し、そこで頑張ってきた企業なので、デジタルシフトが本当に難しいんですね。具体例を挙げると、商品情報を届けるといえば、まず紙でカタログを制作して送付したり、DMを郵送したりという手法が当たり前で、目に見えないデジタル分野への理解や投資がなかなか得られないという状況でした。

田中興産株式会社 絵里奈事業部 販売計画 マネージャー 中川裕氏
田中興産株式会社 絵里奈事業部 販売促進室 マネージャー 中川裕氏

中川:ですがコロナ禍になり、店舗営業ができなくなったことで社内でもECの重要性が徐々に認知されるようになりました。しかし、インスタグラムの活用やSNSのインフルエンサーを使った販促といっても、これまでの顧客層にはあまり馴染みがなく……デジタル化には課題が多いという現状です。

 やはりスタッフとお客様が会話をしながら洋服を選んでいくという、リアル接客が強みなので、一気にデジタル化というのは難しい面もありました。

接客体験を上げ、店舗の魅力を伝えるためにLINE STAFF STARTを導入

MZ:一気にデジタル化へ舵を取ることが難しいなか、今回「LINE STAFF START」を導入しました。まず折原さんに伺いますが、LINE STAFF STARTとはどのようなサービスなのでしょうか?

折原:店舗スタッフの接客業務をDX化するバニッシュ・スタンダード社の「STAFF START」と、LINEが提供する「LINE公式アカウント」の良いとこ取りをした新サービスで、2021年11月に本格提供を開始しました。

LINE株式会社 広告・法人事業部 DX事業部 CX推進チーム 折原彩香氏
LINE株式会社 広告・法人事業部 DX事業部 LINE STAFF STARTチーム 折原彩香氏

折原:具体的には、LINE公式アカウントを通して店舗スタッフが友だち追加したお客様に対し、メッセージを配信したり、キャンペーンやセールの情報を送ることができます。また、「STAFF START」で作成したコーディネート情報や商品情報をチャットで紹介するなど、お客様1人ひとりにあった提案や接客をLINE上で行うことができるサービスです。LINE STAFF STARTを経由したスタッフ個人の売上を集計・可視化できるという特長もあります。

折原:一般的なLINE公式アカウントは、企業やブランド、店舗単位で活用されることが多いのですが、LINE STAFF STARTは1人ひとりの店舗スタッフがお客様と直接コミュニケーションできる点が特長です。接客や店舗での体験を向上することで、店舗スタッフのファンを増やし、売上につながるサイクルが構築できると考えています。

MZ:田中興産さんとして導入したきっかけを教えてください。

中川:デジタル化の重要性は強く感じていました。会社にとっても、お客様にとっても、第一段階としてやはり売り場を最優先にしながらオンラインと共存することが必要だと考えました。そこで、まずは試験的に2021年3月、当社のLINE公式アカウントを開設しました。

 すると、LINE公式アカウントへのお客様の反応が非常に良かったんです。現在、友だち数は2万3,000人ほど。予想以上の勢いだったので、LINEを軸に販促施策を展開できないかと考えました。

 そのタイミングでSTAFF STARTの存在を知りました。将来的にLINEとも連携するという話を伺ったので、まずは先行してSTAFF STARTを導入し、その後LINE STAFF STARTを導入したというのが経緯になります。

出勤スケジュールを公開し顧客の来店を促進

MZ:実際、店舗ではLINE STAFF STARTをどのように活用なさっているのでしょうか。

佐々木:店舗での接客でコミュニケーションが取れたお客様には、QRコードが載っているカードをお渡しして、友だち追加いただくようご案内しています。個人ではなく仕事用のアカウントであること、そして、友だち追加後にその場で使える1,000円クーポンなどについてご説明することで、お客様も気軽に追加してくださる方が多いです。友だち追加後は、セールやキャンペーン、または出勤スケジュールなどのご案内を定期的にしています。

田中興産株式会社 店舗スタッフ 佐々木**氏
田中興産株式会社 armoire caprice 溝口丸井店 佐々木萌衣氏

中川:LINE STAFF STARTではECへ誘導することもできますが、実際の店舗でも活用できるんです。今、最も活用しているのが出勤スケジュールで、LINE STAFF STARTでは2週間先の出勤スケジュールを公開しています。

 当社はスタッフとお客様の信頼関係が深いため、お客様も「購入するのなら、担当のスタッフさんから購入したい」と考えてくださる方が多く、アンケートでも「自分の気に入ったスタッフがいないと購買意欲が落ちる」などのご回答をいただいています。

 だからといって「××さんは今日いますか?」と店舗に電話するのはなかなか心理的なハードルが高いものです。こうしてLINEで手軽に出勤スケジュールを確認することができ、自分の好みやファッションをわかっているスタッフの出勤状況が確認できるということは、それだけで来店動機になります

 逆にスタッフ側も、出勤スケジュールを公開したことで、自分が担当するお客様の来店タイミングが予想できますし、そのための準備もできます。これが最も活用している機能ですね。

MZ:お客様との関係性ができているからこそ、友だち追加してもらいやすいという点もありますか?

中川:当社は美容室のように、それぞれのお客様に担当が付いている形なので、やはり導入しやすかった面はあります。以前はそれこそ、スタッフ個人のアカウントとつながっていたお客様もいらっしゃいました。ただ、そうなると責任感の強いスタッフであれば休日や勤務時間以外でも対応してしまうといった弊害が発生します。

 LINE STAFF STARTでは、営業時間外のコミュニケーションに関してはAIの自動応答で対応しており、また、やり取りは本部で確認できるので、何か問題が発生しそうな場合はすぐにフォローできます

 お客様との関係性ということでいえばもう1つ、特に入社して日の浅い新人や新卒のスタッフにとっては、自分の個人的なコミュニケーションチャネルを仕事で活用することにためらいを感じる場合もあると思います。今回LINE STAFF STARTを導入したことで、新人スタッフも心理的負荷なく使うことができる点も大きいですね。

MZ:来店促進が多い印象ですが、ECへの誘導はいかがでしょうか。

佐々木:オンラインでも良いのですが、私とLINEで友だちになってくれたお客様には、なるべくお店に来てほしいなと思っています。実際にお店に来店され、ブランドを気に入ってくれた方とは、やはり直接お話しして接客したいですね。

中川:今はスタッフ1人当たり10人の友だちを持つことを目標にしていて、本部側ではそうしたスタッフを100人にすることを目指しています。友だち数が増加すれば、おそらく「ブランドに共感し、店舗で買い物を楽しみたい方」「衝動買い的に1点購入するのが好きで、店舗に依存しない方」というように層が分かれていくと思います。そこで、セグメント配信などを展開すれば、事業貢献という意味での可能性はさらに広がっていくと考えています。

 また、お客様のなかには「スタッフの売上にならないのなら、ECでは購入しない」という方もいらっしゃいます。LINE STAFF STARTでは、スタッフ個人経由からのEC売上も個人売上として集計できるので、しっかりお客様にご説明して購買体験を広げていただきたいですね。

店舗を知ってもらう機会が増え、既存顧客とのつながりも強化

MZ:元々リアル店舗と顧客中心のカルチャーだった社内にオンライン接客を浸透させていくうえで、どのような難しさがありましたか?

中川:最初は店舗のスタッフに対して「オンライン接客に興味のある方はいませんか」といったアンケートを実施しました。その際、スタッフがイメージしたのは店内を撮影しながらビデオ通話で接客するというスタイルで、「店舗にいるのに、そんな時間取れません」「自分のスマホを使いたくない」という声が圧倒的だったんです。

 それを少しずつ紐解いていくために、1店舗ごとに電話をし、不安や疑問点を解消していきました。佐々木も初期から参加していて、周囲にも広めてもらうことで徐々に浸透させていった形です。今だと「自分のスマホを使いたくない」という意見は少なくなっています。

 あとは成功事例を共有したり、LINEさんと協力して友だち追加応援キャンペーンを展開したりと、スタッフのモチベーションアップにも努めています

MZ:一方、店舗スタッフとしては、オンライン接客に乗り出すことに対してどのように感じましたか?

佐々木:お客様とお話しする機会が多いということで入社したので、LINEでも接客してほしいといわれた時は正直びっくりしました。「お客様とお話しする機会が減るのかな」と不安にもなりました。

 ただ使ってみると、お店を知ってもらえるきっかけが増えたという実感がありました。これでお店に来てくれる機会が増えるのならば、少しずついろんな点を改善し、発展させていけばいいかなと考えています。スタッフ個人とつながることに抵抗があるお客様も、「これは私の仕事用のアカウントです」と説明することで、スムーズにつながりやすくなったと思います。

中川:コロナ禍による休業要請のようにお店に来られなくなる状態が続いたり、お客様自身の意識のうえで来店しづらい状況が続いたりすると、こうしてLINEでつながっているということが、やはり大きな力になると思います。

 同じことはスタッフに対しても当てはまります。たとえば、育児中のスタッフや時短でしか働けないスタッフでも、このLINE STAFF STARTを使うことでお客様への接客ができますし、お客様とつながって関係性を維持できる点も導入して良かったことの1つです。

MZ:おっしゃるとおりですね。そのほか運用面で工夫していることはありますか?

中川:細かい使い方の取り決めはありません。本部ではあいさつメッセージを設定したり、または「雨の日クーポン」や「誕生日クーポン」のようにスタッフが任意で使えるクーポンを設定したり、「こういう使い方ができる」という企画を作って提案したりしています。

顧客体験も従業員体験も変えるLINE STAFF STARTの可能性

MZ:今回のLINE STAFF STARTの運用に際し、LINEではどのようなサポートを行っているでしょうか?

折原:店舗と本部の2軸でサポートを行っています。店舗サポートでは実際に店舗に伺って、LINE STAFF STARTをご利用いただいているスタッフの方の疑問に答えたり、使い方のレクチャーを行ったりしています。たとえば、いきなりOne to Oneでコミュニケーションを取ることに躊躇する方も多いのですが、まず一斉配信をして、そのなかから反応のあるお客様に対してOne to Oneを展開するというやり方を提案するといったことですね。

折原:本部側に対しては、スタッフさんの使用状況などの数値をお伝えしつつ、先ほどあったように「友だち数10人のアカウントを100つくりましょう」という目標設定を行い、そこに向けて戦略を考えたり、LINE STAFF STARTからの売上増加に関する施策を考えたりなど、定期的にお話ししています。

中川:一斉配信ではなく、条件に合った人だけにメッセージを配信する方法など、知らない機能を教えていただき、助かっています。

折原:使い方によっては、従業員体験を向上させることもできると思います。たとえば、オフラインの接客時に問い合わせ電話が入り、両方同時に対応できなくて困ること、またはお客様に提案したコーディネートを忘れてしまうといったことも考えられます。

 LINE STAFF STARTであれば、空き時間に効率的に接客できたり、チャット機能でお客様ごとのコーディネート案を蓄積したりなど、より便利な使い方ができると思いますし、それによってより接客が向上するサイクルも期待できます。

 私も実際に現場の方からのリアルな声を聞くことで勉強にもなりますし、より良い提案につなげたいと考えています。

スタッフの販売力を活かすLINE STAFF START

MZ:最後に、LINE STAFF STARTについて今後期待すること、これからの展開について教えてください。

中川:これまで販促といえば、本社からお店へ「これをやってください」というスタイルでしたが、1人ひとりのスタッフが自分の強みを活かしてお客様とつながり、配信し、販促できるようになれば、それが当社の強みになると思います。スタッフが100人、200人、お客様も3万人、4万人といるなか、同一の提案を一斉配信といっても今の時代に合わないですし、むしろスタッフをより活かせるようにすることが、当社の良さにつながってくると考えています。

 女性の多い職場で、先ほど話したように産休などで現場を離れることもあります。そうした時期でも、せっかくの接客スキルをもっと活かす方法があると思いますし、それが当社の資産なので、こうした仕組みを使ってスタッフをより輝かせるようにすることが今後の目標ですね。

折原:中川さんのおっしゃったことは、LINE STAFF STARTで実現できると思いますし、私もそこに向けて全力でサポートさせていただきます。

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2022/05/25 10:00 https://markezine.jp/article/detail/38789