古い飲食店を価値化した「絶メシ」
廣澤:「企画で枠を超えていく」というセッションです。今日は2人の“企画屋”に来ていただきました。あえて企画屋と呼ばせてください。
廣澤:本セッションの目的は、お2人の経験と思想を伺うことで「こんな考え方があるんだな」という気付きや、持つべき心構えについて学んでいただくことだと思っています。とはいえ「お2人が正解を提示してくれる」ということではありません。お話の中から「こういうところは取り入れられるかもしれない」というエッセンスを自分なりに吸収していただくと良いのではないでしょうか。
まずは畑中さんのプロフィールとあわせて、ご自身の代表的なワークをご紹介ください。
畑中:dea代表の畑中です。13年間勤めた博報堂を退職し、昨年独立をしました。社名の由来はまさに「Idea=企画」です。博報堂に入社した当時はプロモーション部に配属され、小さなイベントやWebの企画からキャリアの全てが始まりました。
畑中:現在はマス領域からデジタル、プロモーション領域まで幅広い仕事を手掛けています。代表的なワークは「絶メシ」という地域創生プロジェクト。時代とともに消えゆく個人飲食店の絶品グルメを「絶滅」に掛けて名付けたものです。元々は群馬県高崎市のシティプロモーションに端を発しています。
畑中:この先なくなってしまうかもしれない地元の古い飲食店を「今すぐ食べに行くべき貴重なお店」として価値化。絶メシを紹介する「食べログ」のようなサイトを作ったところ、その取り組みが連日全国メディアに取り上げられるなど、大きな話題を呼びました。
1つのシティプロモーションから始まった絶メシですが、現在は15以上の事業・コンテンツに展開しています。ここがまさに「企画で枠を超えていく」というテーマにリンクするポイントではないでしょうか。
共有体験の濃い企画は枠を超える
畑中:たとえば、テレビ東京では絶メシを原案とした連続ドラマ「絶メシロード」が放送されました。ドラマ化にあたっては自主プレゼンを行い、実在するお店のエピソードから物語を制作。放送終了後はファンによる聖地巡礼のような動きが数多く見られただけでなく、現在はNetflixでアジア全圏に配信されており、1つのシティプロモーションがアジアで人気を博すコンテンツにまで発展しました。
畑中:絶メシは飲食事業にも展開しています。フードベンチャーの企業と組んで「絶メシ食堂」という常設の飲食店を新橋にオープン。全国の絶メシのレシピを再現し、1食ごとに地域のお店へ売上が還元される仕組みです。そのほか書籍や商業施設とのコラボなど、この4年間で30以上の企業と提携しながら企画の枠を越えてきました。
廣澤:今回のAdvertising Week Asiaのテーマの1つに「熱狂」があります。絶メシはコンテンツ自体の面白さや「食べてみたい」という好奇心から多くの人に支持されているとは思いつつ、これだけの関係者を巻き込んで経済効果100億円規模の企画になったということは、畑中さんだけでなく一緒に取り組む仲間同士が熱狂していたからではないでしょうか。
畑中:企画を作る時は「共有体験の濃さ」を大事にしています。絶メシは高崎市で始まった企画ですが、恐らく皆さんの家の近くや地元にも絶メシはあるはずなんです。自分の身の回りの出来事のように感じてもらえる企画は、共有体験が濃いと言えます。企画をPRしてくださるメディアさんにも「そういう体験が自分にもあったな」と思って記事にしてもらえるので、すごく広がりやすかったですね。
廣澤:イベントの企画を中心に担当されてきた畑中さんが、ドラマのプロデュースや飲食事業にまで領域をはみ出すことができたきっかけは、やはりこの絶メシだったのでしょうか。
畑中:そうですね。絶メシを通じて「企画ができればどの領域でも成立させられる」という自信がついた気はします。枠を超える怖さは感じませんでしたが、自分が元々持っていた「広告」というコマンドを一度置いておく感覚はありました。広告という分野をより研ぎ澄ませようと思っていたら、今のような展開はできていなかったと思います。既にあるコマンドを一旦横に置いておいて「ドラマ」や「飲食業」という新たなコマンドを習得しようと意識していました。