この記事は、日本マーケティング学会発行の『マーケティングジャーナル Vol.42, No.1』の巻頭言を、加筆・修正したものです。
マーケティングとデータ解析
マーケティングに携わる私たちにとって、データ解析は得意分野だと言えるでしょう。確かに、どんな分野の実務家、研究者にとっても、データ解析は重要です。けれど、マーケティングは、相手の情動や行動を把握して最適化されるべき行動なのですから、特に重要です。
読者諸氏の中には、実際、データ解析の実践、あるいは、その結果の活用に携っている方々が、数多くいらっしゃることと思いますし、そういった諸氏は、周辺領域の方々よりも巧妙に、そうしていらっしゃるはずです。
けれども、データ解析には、極めて深刻な技術制約があります。
データ解析技法の呪縛
ほんの一例ですが、回帰分析は、たとえば、「変数X1(ブランド力)と、変数X2(安さ)と、変数X3(製品品質)が高水準ならば、変数Y(販売数量)も高水準になりうる」といった主張を実証するツールですが、現実に主張し実証したいのは、それよりも複雑な言明であることのほうが多いはずです。具体的には、こうです。
「変数X1(ブランド力)が高水準ならば、それだけで変数Y(販売数量)も高水準になりうるが、たとえ変数X1(ブランド力)が低水準でも、変数X2(安さ)と変数X3(製品品質)が高水準ならば、変数Y(販売数量)も高水準になりうる。ただし、変数X2(安さ)だけが高水準で変数X3(製品品質)が低水準だったり、逆に変数X2(安さ)が低水準で変数X3(製品品質)だけが高水準だったりしたならば、変数Y(販売数量)は高水準にはなりえない。」
どうでしょうか。このような複雑な言明に対応したデータ解析技法は、かつては存在していませんでした。そのため、私たちは長らく、こうした複雑な言明を対象としたデータ解析を諦めてきました。場合によっては、そのような複雑な言明をアイデアとして主張すること自体を、検証不可能という理由で諦めてしまっていました。
ただし、それは質的比較分析(QCA)が登場するまでは、の話です。