SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

マーケター必読!論文のすすめ

データ解析技法の呪縛を解き放つ、マーケティングの質的比較分析(QCA)を知る【論文紹介】

市場シェアや流通チャネル戦略の探究

広告における視覚的メタファーの設計

 竹内亮介先生と王珏先生の論文「広告における視覚的メタファーの設計」(PDF)は、マーケティングの中でも広告、しかも、その視覚的メタファーに専門特化した論文です。両先生は、様々なメタファーを5次元で捉え直した上で、質的比較分析を駆使して、どのような組み合わせが有効かを論じられました。

 具体的には、「視覚的構造の複雑性」が高く「概念的類似性」が低く「言語メッセージの明示性」が低く「認知的欲求」が高いメタファーが、精緻化を促進するのに対して、「視覚的構造の複雑性」が低く「概念的類似性」が高く「顕在性」が高く「言語メッセージの明示性」が高いメタファーが、理解を促進する、と主張されました。

市場シェアの拡大/縮小につながる製品導入行動の採用傾向

 中村世名先生の論文「市場シェアの拡大/縮小に繋がる製品導入行動の採用傾向」(PDF)は、マーケティングのなかでも製品、しかも、積極的競争行動としての製品導入行動に専門特化した論文です。中村先生は、競争ダイナミクス研究が識別してきた行動3次元と、市場シェアの差の拡大/縮小との間の複雑的な関係を探究するために、質的比較分析を駆使。

 その結果、「複雑性」と「競争異質性」の2次元が高くても低くても「行動量」が高いことが、追いすがるライバルとの差の拡大に帰着し、他方、「行動量」が低いことに加えて「競争的異質性」も低いこと、また、シェアが僅差の場合には同じく「行動量」が低いことに加えて「複雑性」が高いことが、追いすがるライバルとの差の縮小に帰着してしまう、と主張されました。

高収益を生み出す流通チャネル戦略の探究

 石井隆太先生の論文「高収益を生み出す流通チャネル戦略の探究」(PDF)は、商業学の古典理論に登場する各種チャネル戦術の組み合わせに焦点を合わせた論文です。石井先生は、別個に扱われる傾向にあった戦術の、効果的な組み合わせを模索するために、質的比較分析を駆使。

 その結果、統合チャネルを単独利用するメーカーが収益性を向上させるには、「チャネルパワー」と「関係特定的投資」が必要であり、独立チャネルを単独利用するメーカーには、それに加えて「(ある程度の)コンフリクト」も必要であると言います。

 その一方で、これらのメーカーは共通して「コミュニケーション」を控えるべきであり、また、統合チャネルと独立チャネルの両方を利用するメーカーのうち、前者に力点を置くメーカーが収益性を向上させるには、「関係特定的投資」と「(ある程度の)コンフリクト」が必要とのこと。さらには、後者に力点を置くメーカーには、「コンフリクト」が解消されるべきである一方、これらのメーカーは共通して「コミュニケーション」が必要である、と主張されました。

分析データの一般公開

 いかがでしたでしょうか? 質的比較分析は、様々なトピックスに関する実証分析に活用することで、以前より圧倒的に複雑な知見を生み出すことのできるポテンシャルをもっています。そういうことを5篇の論文によって直感いただけたかと思います。

 最後にアナウンスがあります。『マーケティングジャーナル』は、以前から、掲載論文を広く一般公開してきましたが、本号から、分析に使用されたデータもまた、論文著者による選択式で、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営するウェブサイトJ-Stage Dataにて一般公開していくことになりました。

 その先駆として、本号の特集論文のデータはすべて、著者許諾の上、一般公開の対象となっています。読者諸氏は、質的比較分析の練習のために著者と同じ分析を行ってみたり、まったく別の分析を試してみたりするために、クリエイティブコモンズCC BY 4.0国際ライセンスの許諾範囲内でデータをご活用いただけます。

 『マーケティングジャーナル』では、今後も順次、データを一般公開していきますので、ぜひご活用ください。

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
マーケター必読!論文のすすめ連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

小野 晃典(オノ アキノリ)

慶應義塾大学商学部教授。1995年 慶應義塾大学商学部卒業、同大学院商学研究科修士課程・後期博士課程修了。博士(商学)。慶應義塾大学商学部助手、専任講師、助教授、准教授を経て2010年より現職。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2022/08/02 09:00 https://markezine.jp/article/detail/39545

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング