検索は“ググる”より“タグる”時代へ
まず井上氏は「ユーザーのインターネット体験や消費行動にビジュアルデータが重要になってきている」と説明。Googleのデータによると、ネットショッピングユーザーの50%が、意志決定にビジュアル情報が役に立つと回答。また、メタ社が発表した2021年の発表では、日本Instagramユーザーにおいて、ハッシュタグで検索する回数が、グローバル平均の5倍に膨れ上がっているというデータ見られた。
このようにインターネット検索やインターネットショッピングといった消費行動にて、視覚的にネットサーフィンする人が増えている。中でも今は「ググるよりタグる」という検索行動に注目が集まっている。
「ネットで検索したときに現れる結果は、リアルタイムな情報かというとそうではありません。しかしタグで検索すると、ほんの1秒前、つまりリアルタイムな情報が見られます。情報の鮮度、検索から望む結果にたどり着くまでのスピード感を求めるユーザーが、ググるよりタグるという考え方で、TwitterやInstagramを回遊しているのです」(井上氏)
またInstagramの発見タブを使っている人は非常に多くいるという。SAKIYOMIの調査によると、Instagramで一番使う機能は、発見タブと答えた人の割合が、ホームやハッシュタグ検索よりも多かったという結果もあった。「発見タブの中で、自分に合った情報はないかということを探すユーザーが増えているのです」と井上氏。
発見タブでパーソナライズされる顧客体験は、ユーザー自身のライフスタイルに合ったビジュアルに出合えるという期待値があり、ユーザーは回遊している。この傾向はInstagramに限ったことではなく、TikTokやTwitter、LINEと様々なSNSでも同様の機能が搭載されおり、「それぞれのチャンネルでユーザーは発見できるという顧客体験をしています」と井上氏は語る。
企業はSNSを頑張ればいい、という時代ではない。
ファンとなった企業やブランドを知ったきっかけがSNSだと答えた人は、テレビCMと答えた人数に匹敵するほど、SNSの影響力は拡大している。ビジュアルが多様化し、ユーザーに大きな影響を与えるようになってきたが、SNSの運用だけに力を入れればいいというわけではないと井上氏は指摘した。
「Criteoさんが発表したデータでは、商品購入の意思決定に企業やブランドの公式Webサイトが影響したと答えているのは5人に1人。これはコロナ禍以前の2倍になります。また、Adobeのデータでは、デジタルの体験は対面の体験と同等レベルで重要だと考える人が増えています」(井上氏)
ユーザーとの接点としてデジタルチャネルが重要視されてきている中、集客チャネルだけでなく、オウンドメディアでも商品やサービスのことを訴求できるよう、デジタル接客力を向上させていく必要がある。
「ただし、おすすめといった自社コンテンツを一方的に伝えるのではなく、消費者ごとにパーソナライズされた見え方ができるデザイン設計をしていく必要があります」と井上氏は指摘した。
アンバサダー施策で大躍進を遂げたワークマン
デジタル接客力を向上させて大躍進した例として、井上氏はワークマンの事例を紹介した。
同社が販売している商品に、溶接職人が火花よけのために着用するヤッケがある。年間に3,000枚売れる商品だったが、ある時キャンプブロガーの自身のブログで「このヤッケを着ていると焚き火の際に安心」と紹介。すると、その年の販売数が5,000枚に伸びたという。
「そこでワークマンでは、このブロガーとコンタクトを取り、ブロガーの意見をデザインに取り入れたヤッケを発売。すると年間で10万枚の大ヒットとなりました。それまで職人ターゲットだったヤッケが、マーケットを変えたことで一躍大人気商品になったわけです」(井上氏)
この件をきっかけに、ワークマンはアンバサダープロジェクトを開始。井上氏は、「このプロジェクトの特徴はインハウスでキャスティングしていること、そして金銭的インセンティブがないことです」と語る。
まずアンバサダーは代理店などにキャスティングを頼むのではなく、どのような人が良いのか自社でリサーチし、直接声をかけている。そしてアンバサダーをお願いする際には、金銭のやり取りが発生した時点で情報が宣伝色に染まってしまうため、インセンティブを発生させていない。代わりアンバサダーは、自身のブログやSNSで公式アンバサダーという新たなタグとともに商品を紹介する機会が得られるほか、新商品をいち早く発信できるのだ。
無償にもかかわらず希望者殺到のアンバサダー
ワークマンが始めたアンバサダープロジェクトは、ブランディングに奏功しはじめた。インセンティブがないにもかかわらず、公式アンバサダーになりたいという人が増えてきたのだ。
「Instagramのハッシュタグには“ワークマンアンバサダーになりたい”“ワークマンアンバサダー志望”というハッシュタグをつけて投稿する人が増え、メディア記事では“WORKMAN 公式アンバサダーになれるかも知れない方法”といった記事が出るようになりました」(井上氏)
ワークマンがアンバサダーに提供した特別な体験により、ワークマン商品の写真を投稿してアンバサダーになりたい人が増える。その分ワークマン商品の露出が増えるという波及効果を生み出している。アンバサダーとはWin-Winな関係性が構築できおり、「公式アカウントとつながり、体験価値の向上を下支えしています」と井上氏は語る。
第三者発信のビジュアルを戦略的に活用
ここまでは主にSNS上におけるワークマンの戦略を紹介してきたが、ワークマンは加えて、アンバサダー発信の情報を自社サイトに組み込むことに力を入れている。
「ブランドとユーザーの間に様々なタッチポイントが存在し、いつ誰が自社サイトを訪問してくれるかわからない現代において、いかにオウンドメディアで商品を具体的に伝えられるか。またブランド側が伝えたいポイントと、ユーザーが確認したポイントも異なります。ワークマンではその点、商品開発と同時にアウトプットも考えています」(井上氏)
井上氏が例に出したのは、ワークマンのアウター。商品カタログの写真だけでは伝わらないが、釣りをしている女性、バイクに乗る女性、焚き火に当たる男女と、それぞれのシーンの写真が詳細ページに用意されている。
「カタログの写真だけだと、これは女性が着られるのか、ユニセックスなのかわかりません。テキストで書かれているのかもしれませんが、ウィンドウショッピング感覚で閲覧しているユーザーは、文字情報や細かな注意事項まで読まないことも少なくありません。しかし想像できるビジュアルが1枚あるだけで、ユーザーには直感的に伝わります。ワークマンではこのように、多角的に商品の魅力を伝えようとしても自社だけでは限界があることを知り、第三者発信の情報を活用しているのです」(井上氏)
自社のリソースだけでコンテンツを制作するのは、タッチポイントやユーザーのニーズが多様化している現代において、難しい部分もある。そこでワークマンは、UGC(User Generated Contents)を活用することで多様化に対応。同社はvisumoが提供するサービスを活用し、自社サイトにInstagramの発見タブを思わせる「workmanフォト」というコーナー設置。そこではユーザーが発信した写真を閲覧・回遊でき、商品情報や関連商品への紐づけも行っている。
ビジュアル戦略を軸に、自社サイトのコンテンツ充実化を
では自社でアンバサダーを選定し、施策を成功に導けばいいのだろうか? ワークマンがアンバサダーを選ぶ際は、ワークマン愛があることを大前提とし、様々な分野に特化したユーザーを選定しているという。
「ブランドとユーザーとの間に、アンバサダー発信というワンクッションを挟みます。そこで生まれたビジュアルコンテンツをUGCの活用としてオウンドメディアに展開し、他のユーザーの購入検討にも生かせるようにコンテンツを整備していく。このやり取りを通じてブランドとユーザーがつながり、ファンマーケティングも推進されていきます。自社を取り巻くデジタルコンテンツを惜しみなく活用する構図ができあがっているのが、ワークマンなのです」と井上氏は成功の秘訣を力説した。
ユーザーにとって、デジタルコンテンツであるWebサイトは、商品やサービスを知るために必要不可欠な場所だ。そして従業員にとっても、ナレッジをシェアするための良い場所となりうる。そうした観点から、Webサイトのコンテンツを充実させる企業も増えているという。「ビジュアルデータを活用する際、自社のリソースだけではなくvisumoを使い、ほかのソリューションとも連携できると、デジタルコンテンツをさらに活用できるのではないでしょうか」と井上氏は語り、同セッションを締めくくった。