いかに新しいマーケットの「芽」を見つけるか
n=1分析(母数としての1なので小文字の「n」)が重要と言われるようになって随分経つ。マーケティングにおいて、「一人」を深く知ることは大変重要である。ただ、定量データの結果などから仮説を立て、仮説の検証のために「一人に深く聞く」ことは、「検証のためのn=1分析」であり、未着手領域の芽を探ることは非常に難しいと言える。
またデプスインタビューにおいて「一人の生活」を深く聞いてみて、その中で○○ということについての価値を探る、というような手法もn=1分析としてよく行われている。しかしながらこの方法も、「聞く」という手法をとっているので、言語化されたものしか分析対象にならず、まったく新しい「○○の価値」の創出には至らないことが多い。
さらにサンプル1としてのn=1分析であるので、サンプルはどのくらい必要なのか、という課題に直面する。5人から10人程度のn=1分析を行い、代表制担保として定量調査で検証するという「言語分析のループ」になることが多い。
仮説の検証や言葉の背景を探るといった目的であれば、このn=1分析は十分に有益であり、具体的な課題や仮説がある場合は積極的に採用したほうがいい。
一方で、新しいマーケットの芽は対象者自身も気づいていない、もしくは言語化できていないところにあると言えよう。その時に有効な手法として「非言語的アプローチ」がある。これは非言語データから一人の生活の全体像を俯瞰して見ることで、マーケターやリサーチャーが「気づき」を得て、未開発領域をクリエイティブするというものである。
米飯類マーケットから考える、非言語的アプローチ
では米飯類のマーケットの実例を見ながら、非言語的アプローチについて解説したい。
上の図表1はインテージのキッチンダイアリーのデータである。このデータは「白飯は下降トレンドにあり、だが雑穀入りご飯は伸長傾向にある」と見ることができる。ここから、白飯ではなく雑穀入りご飯に着目し、新しい商品を開発しようと考えたりしないだろうか?
この見方はClaimベースであり、既に言語となって世に出ている事象に過ぎない。非言語的アプローチでは、まずWhyを探すというステップを踏む。ではこのデータから気づくWhyとは何だろう。ざっと考えただけでも、以下のようなWhyが出てくる。
(1) 白飯はずっと下がってはいるが、TI値で300近くを維持しているのは凄いことでなぜなんだろうか?
(2)おにぎりは下降トレンドとはいえ、雑穀入りご飯と同じくらいTI値があるのはなぜなんだろうか?
(3)カレーライスのポジションがずっと不動なものになっているのはなぜなんだろうか?
このWhyを突き詰めていくと、「もしかしたら、米飯(ごはん)の価値そのものが変化していて、自分たちは気づいていない価値があるのかもしれない」ということになるはずだ。私たちは、定量調査であってもWhatではなく、Whyを探すということをする思考を常に持ったほうがよい。
次なるステップで何をするのか。それは非言語データの読み解きであり、気づきを探すということである。間違ってもWhyの答えを探そうと、デプスインタビューなどで生活者に聞いて、答えを見つけようとしないほうがいい。そこで生活者が○○であると話すとしても、それは言語化された、つまり既出の答えであり、そこからは新しいことは生まれないからだ。
非言語データとはどんなものを指すのかというと、行動観察やフォトハンティングなどリアルな生活の現場を捕まえたものである。
「もしかしたら、米飯(ごはん)の価値そのものが変化していて、自分たちは気づいていない価値があるのかもしれない」というWhyの答えの可能性を探すために、たとえばフォトハンティング(写真調査)という手法でやってみるとする。
「可能性の探求」なので、米飯のことだけ見ていても発想は広がらない。だから生活の現場としては、あらゆる食シーンを見たほうがいい。そこで下記のようなことをやってみる。
実際に個票として整理したものは下記である。
このように整理すると、前後の関係がよくわかる。その食卓シーンは突如として出現したものではなく、生活の流れの中で、何かが起こったり何かを思ったりということとつながっている。この生活文脈を考えることが大切である。想定外の稀有な食卓シーンが出てくると期待することはやめたほうがいい。そんなことがあるのなら、既に着手しているはずである。