SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第114号(2025年6月 最終号)
特集「未来を創る、企業の挑戦」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

生活者データバンク

なぜその商品・サービスを使い続けるのか?ユーザーの「選び続ける心理」を数値で紐解く

 みなさんには、長く利用している商品やサービスがありますか? ある場合、なぜ利用を続けているのでしょうか。強い思い入れがある場合もあれば、なんとなく使い続けていることもあるかと思います。企業の立場で考えると、業績を上げ続けるためには、なによりもユーザーの「心理」に的確に働きかけ、理想的な「行動」をとってもらうことが重要です。たとえば「長く利用してもらう」ことを目指す場合、どのような心理的変化を引き起こせば実現しやすくなるでしょうか? また、その心理的変化を促すために、どのような働きかけや取り組みが効果的でしょうか。今回は、8業界(n=8,537)の自主企画調査の結果からアパレル業界(n=1,086)を取り上げ、「長く利用する意向にはどのような感情が影響しており、その感情はどのようなユーザー体験から生まれるのか」を数値的に紐解き、疑問にアプローチした分析事例をご紹介します。

「選ばれる理由」の様々な内訳

 今回取り上げる事例は、全国規模のチェーン型アパレルブランド6社分のデータを読み解いたものです。数値を解析する前に、フリーアンサーで集めた「ブランドを選ぶ理由」を眺めると、当該ブランドを選ぶ際に影響する感情の傾向が見えてきます(図表1)。

【図1】アパレルブランド選択理由 一部抜粋
【図表1】アパレルブランド選択理由 一部抜粋

 たとえば、「安くてそこそこ品質がいい」「欠品が少ない」といった意見があります。これらは、期待通りの品質やサービスを受けたことによる基本的な満足(ベース満足)があり、不満のなさが継続利用に影響している状態だと読み取れます。一方で、「自分の人生を支えてくれるパートナーである」といった発言からは、ブランドに対する絆やつながりが感じられます。これは、いわゆる「エンゲージメント」感情が築かれている状態と捉えることができます。また、「他が良いのか悪いのかわからず、失敗したくないから選んでいる」といった声もありました。これは、リスクや損失を避けたい気持ちから現状維持を選んでおり、「スイッチングバリア」の感情が働いていると想像できます。

 最初の「ベース満足」に着目すると、この感情は基本的な顧客期待を反映するものであり、サービス品質を高めるうえで注視すべきものだと言えるでしょう。ただし研究分野では、満足度と購買実績の関係は、両者の関係だけでは語り尽くせないとされています。

 当然のことながら、満足度が購買継続における重要な要因であることは間違いありません。ただし、多くの研究や事例(メタ研究例:Szymanski et al., 2001)から、満足度だけでは顧客ロイヤルティを十分に説明できないことが示されています。実際、一部の業界では、満足度の影響が一定の水準を超えると、購入実績への影響力が徐々に弱まる傾向が見られています(図表2)。

【図2】満足度とロイヤルティの非線形な関係性イメージ
【図表2】満足度とロイヤルティの非線形な関係性イメージ

継続の背景にある絆と離れにくさ

 先ほど取り上げた声には、ベース満足に加えて「エンゲージメント」や「スイッチングバリア」に関するものもありました。今回の調査では予め、ベース満足の他にこれら2種の感情の強さを測る設問も用意し、その影響力を数値化しています。ここでは各感情についてもう一段深く解説した上で、次ページから分析結果の読み解きへと移ります。

 まず「エンゲージメント」ですが、これは一般的に「ブランドやサービスに対する絆や愛着」を示す概念です。一口に「エンゲージメント」といっても、様々な観点により複数の分類に分けることができます。たとえば、「このブランドは私の注意を引く」といった認知の観点や、「このブランドは自分と切り離せない」といった同一視の観点などがあり、それぞれの観点における多様な表現を用いて、ブランドとのつながりが示されます(図表3)。先述した「人生を支えてくれるパートナーである」という意見は、同一視の観点に近いでしょう。

【図3】顧客エンゲージメントの分類
【図表3】顧客エンゲージメントの分類

 一方で、「スイッチングバリア」は、概ね「離れにくさや継続の必然性を示すもの」として表され、こちらも複数の分類が可能です。たとえば、「他のブランドに変えると、目に見えない損失が発生したり、費用がかかったりすると思う(経済的リスクバリア)」「別のブランドに変えると、商品やサービスが期待するほど良くないのではないかと心配だ(不確実性バリア)」といった具合です(図表4)。「失敗したくないから選んでいる」というコメントは、まさに不確実性バリアの表れといえるでしょう。

【図4】スイッチングバリアの分類
【図表4】スイッチングバリアの分類

 今回の調査では、各分類の中で複数の表現を用い、影響力の高い項目を特定しています。

この記事はプレミアム記事(有料)です。
現在ご契約中の方は下記よりログインしてご覧いただけます。

次のページ
「長く使いたい」を数値で紐解く

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
生活者データバンク連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

吉武 はるか(ヨシタケ ハルカ)

株式会社インテージ
エクスペリエンス・デザイン本部 CXコンサルティング部 CXコンサルタント

B2B向けサービスの事業会社にて商品開発、プロダクトのリブランディング、販売戦略策定に従事。また経営層を巻き込んだ経営計画の策定やサステナビリティ計画の策定を担当。MBAではマネジメント領域の修士号を取得。 2024年1月...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

余 嶺析(ヨ レイセキ)

株式会社インテージ
エクスペリエンス・デザイン本部 CXコンサルティング部 CXデータサイエンティスト

インテージ入社後、メディア系企業を中心に市場調査・広告効果測定・統計解析に従事。多種多様なデータのハンドリング、新規指標・手法の検証導入、新規事業戦略策定コンサルティング、グローバル事業の推進支援を経験。認知情報科...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2025/06/16 09:30 https://markezine.jp/article/detail/49290

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング