老舗アパレル「クロコダイル」のスマホ戦略
――はじめに、ヤマト インターナショナルについて教えてください。
長尾:ヤマト インターナショナルは設立78年の老舗アパレル企業です。基幹ブランドの「クロコダイル」は62年目を迎え、シニア層のお客様を中心にご支持いただいています。SPAブランドとしてメンズ・レディースともに企画・製造・物流・販売まで自社にてワンストップで行っています。主要チャネルはGMS(総合スーパー)で、自主管理型売場を中心に、ほか北海道から沖縄まで全国のSCやアウトレットモールなどに819店舗を展開。自社ECサイトはここ10年で大きく成長しています。
――シニア層を中心とするマーケティング戦略においてデジタルチャネルはどのような位置付けですか?
長尾:シニアといっても今はスマホもLINEも日常的に使っていますので、デジタルは店舗に次ぐお客様との重要な接点と考えています。当社は2015年頃よりスマホを主要チャネルと位置付け、まずLINE@を導入。その後、アプリの運用を開始しました。LINE@はお客様とのライトなタッチポイント作りの場。アプリはブランドの最新情報やコンテンツの提供の場であり、ECへのシームレスな入り口として位置付けています。
――約10年間のお取り組みを詳しくうかがえますか。また、EC購入率や売上構造はどのような変化を見せていますか?
長尾:私が2015年にジョインした際、まず会社の強みと弱みの要素分解をしました。その結果、全国各地で展開するリアル店舗という顧客タッチポイントとそこで働く販売スタッフは、最大のアセットだと感じました。一方でデジタルチャネルでの関係強化の必要性も感じました。
そこで、LINEの友だち登録を促進するために、QRコードを紙に印刷して全国の店舗で配布しました。当初はシニアをデジタル会員に誘導することに対して、社内で懐疑的な意見もありました。しかしデータを見る限り、シニア世代のスマホ保有率やLINEの利用率は確実に上がると当時でも予想できました。ファクトデータを提示し、「会員数の伸びがEC売上を底上げする」という自身の経験則をもとに社内を説得し実行に踏み切りました。
予想通り順調にLINEの会員数が増加し、2020年からはさらなるブランド訴求を行うべくアプリの運用を開始しました。結果2024年末にはメルマガとLINE、アプリを含めたデジタル総会員数は100万人を超えました。直近のアプリDL数は76万を超えます。2015年以降、デジタル会員数の増加に比例して自社EC売上も連続2桁増で成長しました。
70万人超が利用するアプリが次に目指すもの
――アプリ運用を開始されてから5年間でアプリの戦略や活用方法はどのように変化していますか?
長尾:そもそも2020年のアプリ導入は、最新情報や動画、ライブ配信などリッチなコンテンツをお客様へダイレクトかつシームレスに提供することが目的でした。アプリを始めてから、アプリ経由でのEC購買比率は30〜40%と徐々に上がりました。アプリにデジタルスタンプカードを内包した点も成長の背景にあると思います。
アプリDL数やEC売上は順調に伸長する一方で、この時点ではすべてのお客様に向けて同一の情報やコンテンツを提供する「全体最適」でした。さらなる成長のためには、よりお客様との深い関係の構築が必要だと考えました。具体的には、クロコダイルの会員証機能の会員情報やポイントを店頭とECとで共通化し、パーソナライズを実現することでCXのさらなる向上を目指します。その実現のためCORINをパートナーに迎え、新たなフェーズに向けて取り組みを続けています。
――なるほど。CORINはどのような会社なのでしょうか?
中村:CORINは企業様の「こうしたい」という想いを、単なる機能要望ではなく“事業の本質”として受け止め、実現することを理念としています。その理念をかたちにしたのが、アプリ開発パッケージ「TENCO」です。TENCOはSaaSでありながら、スクラッチ開発に近い自由度を持ち企業ごとのパーパスや顧客属性に合わせて、その企業らしさや強みを、デザインや機能に落とし込み、真に売上に貢献することを目的としています。今回のヤマト インターナショナル様の事例では、ブランド公式アプリとLINEミニアプリの両方をTENCOで構築し、複数チャネルでのCX設計に対応しました。
もともと弊社は創業当初から大手の基幹システムや顧客システム、POS構築などを上流から下流まで構築してきた経験があります。その中で培った技術力と現場感覚を、今はTENCOのパッケージやSaaS改善に生かしています。“らしさ”を損なわずに、事業にフィットする提案ができる。それがCORINの強みだと、私たちは自負しています。

