レッドツェッペリン好きのn=1から始まる福島県のECサイト
高山:本日はスマイルズの野崎さんとキリンホールディングスの平山さんをお迎えして『ブランドは「n=1」とどう向き合い、価値につなげるか?』というテーマでお話をうかがってまいります。スマイルズといえば「Soup Stock Tokyo」の創業や「giraffe」などのブランド運営で知られていますが、実は法人向けのコンサルティング事業も展開されているそうですね。
野崎:はい。元々スマイルズではインハウスにクリエイティブチームを置き、外注をほとんどせずにブランドをつくってきました。その過程で培ったノウハウを、クライアント様の事業開発やブランディングに横展開しているわけです。これまで、キッコーマン食品さんのD2Cブランド「亀甲萬本店」や、六本木にある入場料制の書店「文喫」などをプロデュースしました。
野崎:最近は地方創生のお仕事をいただく機会も増えています。福島県の産品を紹介するECサイト「シオクリビト」は、スマイルズがプロデュースしました。一見すると、よくある県の通販サイトですが、商品紹介の分量は全体の1割程度しか占めていません。残りの9割は、生産者の人となりに迫ったインタビューコンテンツで構成されています。
たとえば「俺はレッドツェッペリンが好き」などの個人的なエピソードをあえて取り上げることで、その人自身を好きになっていただき、親しい人から仕送りを受け取る感覚で買い物ができるサイトを目指しました。スマイルズではこのフレームを「エモーショナルコマース」と呼んでいます。
高山:まさにn=1を起点としたお取り組みですね。
顧客だけでなく従業員のn=1を見つめる
高山:平山さんも公式noteやオウンドメディア「KIRINto(キリント)」で、インタビューコンテンツの編集企画を担当されていますよね。
平山:はい。お客様に「だから私はキリンが好きなんだ」と思っていただけるコンテンツを目指して運営しています。noteでは従業員の生の声を中心に取り上げ、KIRINtoではより社会的なテーマを扱っています。
平山:たとえば発酵学者の小泉武夫先生をゲストにお迎えして、キリンが現在力を入れているヘルスケアサイエンス分野の対談記事を制作しました。「キリンはこんなことにも取り組んでいるんだ」と思っていただけるコンテンツをせっせと貯めているところです。
平山:従来の広報活動では、ホームページやSNSアカウントなどを通じて、企業・商品を起点に情報を発信していくアプローチが一般的でした。しかし最近は、従業員に対する親しみやソーシャルイシューへの関心など、自社を好きになっていただくための入り口が増えてきているような気がします。
また、お客様に関心を持ってもらうことと同じくらい、従業員に「発信したい」と思ってもらうことも大切です。オウンドメディアの責任者として、社内外のn=1を見ながら伝えるべきキリンの価値を考え続けています。
野崎:スマイルズの全ブランドもn=1からスタートしています。やはり“発意”が大切ですよね。