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第100号(2024年4月号)
特集「24社に聞く、経営構想におけるマーケティング」

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コロナ禍から3年、生活者や環境の変化をどうマーケティングに取り入れるか

 コロナ禍から3年となり、行動規制解除などを経て生活者の消費動向は変わりつつある。そのインサイトを自社データやソーシャルメディアなどから掴み、統合的なマーケティングへつなげていく試みは今後のビジネスにおいてさらに重要になると考えられる。では、マーケティングの最前線で活躍する有識者たちはこの数年の変化をどう捉え、現在の動向をどのように分析しているのだろうか。今回はMarkeZine編集部が刊行した『マーケティング最新動向調査 2023』に収録した有識者による論考5本の概要を紹介する。テーマはそれぞれ生活者インサイト、SNS、サイバーフィジカル、統合マーケティング、プラットフォーム分散と幅広いため、俯瞰的な視点で考えるきっかけになれば幸いである。

※本記事は、2023年3月25日刊行の雑誌『MarkeZine』87号掲載の内容と同一です。

論考一覧
  • 『コロナ禍から2年、生活者インサイト・行動の今』 西山 陽子 氏
  • 『SNS起点の購買行動をいかに創出するか』 GiftX 飯髙 悠太氏
  • 『マーケティングにおけるサイバーフィジカルの可能性』 博報堂 須田 和博氏/瀧﨑 絵里香氏
  • 『人に寄り添うデータ活用による「需要喚起」と「ブランドエクイティの管理」が今後の統合マーケティングの鍵』 電通 江頭 瑠威氏
  • 『分散が進む広告プラットフォーム』 アタラ 杉原 剛氏

コロナ禍を経た需要の変化

 最初に紹介するのは、これまでコンシューマーリサーチや購買データ分析を手掛けてきた西山陽子氏による「コロナ禍から2年、生活者インサイト・行動の今」だ。本稿はオンライン家計簿サービス「Zaim」の購買ビッグデータソリューション「Zaim トレンド」のデータをもとに、購買行動の変化およびインサイトを紐解くもの。

 2020年以降、新型コロナウイルス感染拡大初期に厳しい行動制限が敷かれ、人々の消費行動は大きく変わった。しかし、2022年には行動制限が解かれ、コロナ禍以前の雰囲気が戻りつつあると見られている。

 しかし、西山氏はコロナ禍以前の消費動向に戻ったわけではなく、「Zaim」の支出データから「支出幅が下落した分野」と「支出幅が増加した分野」があることを分析している。行動制限解除で支出が増えると思われるジャンルは「移動にかかる費用(バスやタクシー、飛行機などの費用や駐車場代、高速料金、ガソリン代など)」「外食費」「旅行や音楽、イベント、レジャー、ジムや映画、習い事など」「結婚式や葬儀に関わる費用」「アクセサリーやファッション、コスメなどのオシャレ費用」の5つである。

 「旅行」に関しては60代が需要を牽引しており、「飲み会」は20代、「インターネット関連費」や「電子マネー」は20代~40代が中心となっている。Uber Eatsなどの「食のデジタルサービス」はコロナ禍以降に若い世代での需要が増えていたが、2021年後半からは20代の利用が減少しているようだ。一方で20代~30代の「インターネット関連費」は高止まりし、コロナ禍を経て様々なデジタルサービスの利用が定着したと見て取れる。30代の「習い事」も拡大しており、学び直しや生活・運動習慣を見直す機運が高まっている。

「旅行」「飲み会」「電子マネーにチャージ」「インターネット関連費」支出ユーザー数の変化率推移
「旅行」「飲み会」「電子マネーにチャージ」「インターネット関連費」支出ユーザー数の変化率推移

 以上を総評し、西山氏は需要が戻ってきたジャンル、特に旅行やレジャー、飲み会、冠婚葬祭といったライフイベントとそれらに関連する服飾費などは、人々が行動制限によって「当たり前ではなかった」と気づかされた項目であり、人々の「価値ある機会を大切にしたい気持ち」に寄り添ったマーケティングが重要になると強調している。

SNS起点の購買行動

 次に、SNSマーケティングにおいてUGCの重要性を説く飯髙悠太氏による「SNS起点の購買行動をいかに創出するか」を取り上げる。近年、SNSから購買行動が発生するケースが増加しており、飯髙氏はその要因として、Googleなどの検索エンジンではヒットする情報が膨大すぎて必要な情報に辿り着けないこと、SNSでも信頼に足る情報が増えたことを挙げている。

 特にZ世代を中心に「ググる」から「タグる」「タブる」という新たな検索行動が生まれていることは注目したい。Googleでは「ファンデーション おすすめ」と検索してもおすすめ商品のまとめページが出てくるだけで、自分に合っているかどうかがわからない。しかし、SNSでは友人が「夏におすすめのファンデ」と紹介しているなど、キーワード検索では上位に出てこないリアルな口コミに触れられる。こうしたことが、SNS起点の購買行動を生み出したと考えられる。

 SNSの口コミと相性がいいのがUGCであり、UGCを組み込んだ購買行動モデルが「ULSSAS(ウルサス)」だ。これはUGCによる認知から始まり、「いいね」を通して気になった情報をSNSで検索し、購買意欲が高まると商品の詳細な情報をGoogleやYahoo!で調べ、実際の購買というアクションが起こり、口コミがさらに拡散するというプロセスである。

 インフルエンサーに依頼して口コミをお願いする施策はULSSASとは少し異なる。飯髙氏はSNSの基本は「リアルで小さなコミュニティ」だという。その前提に、SNSマーケティングを始めるには自社のターゲットがどのSNSに多く集まっているのか、どのようなコミュニティを築いているのかを押さえておく必要がある。そして、ユーザーが最も喜ぶことを考えサービスや商品に反映すれば、UGCは自然発生する。その話題化の兆しともいえる小さなコミュニティから生まれたUGCを見逃さないことが重要だ。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。

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『マーケティング最新動向調査 2022』の詳細をみる

サイバーフィジカルの可能性

 続いて紹介するのは、博報堂の須田和博氏と瀧﨑絵里香氏による「マーケティングにおけるサイバーフィジカルの可能性」。サイバーフィジカルとはサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたSociety 5.0のことをいい、関連ワードとしてメタバースなどがある。

Society 5.0とは:サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの。

引用:内閣府「Society 5.0」https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/

 メタバースは、言葉からイメージされる「VRゴーグルを装着し、アバター体験を味わうこと」だけを指すのではなく、ECであればリアルの売り場との連動、エンタメであればVTuberへの投げ銭、他にもZoomなどを用いたオンライン会議、サイバー空間上のオフィスなども、この範疇にある。

 現段階で最も成長しているサイバーフィジカルの市場の1つはVTuberである。メタバースは話題となっているが、必ずしもリアルマネーをともなう市場の活発化には至っていない。ただし、プロモーションへの応用やコミュニティ活動に対して可能性が見出されており、多くの企業でトライアルが続いている。物理的な距離がなくなれば心理的な距離も近くなりやすいため、メタバースという接点により新たな顧客層を開拓できる可能性がある。

 両氏はサイバーフィジカルが発展するかどうかは企業の捉え方次第だとする。企業はオンラインで生活している生活者の気持ちやメンタリティを理解することが必要であり、リアルな生活で出てくる課題やニーズをそのまま持ち込むのは望ましくない。サイバー空間を「別の国」として捉え、そこに住む人の言葉、カルチャー、価値観を把握し、その新しい世界で自社がどんな価値を提供できるかを考えてビジネスを進めるべきだ、と両氏は締めくくった。

統合マーケティングの鍵とは

 電通の江頭瑠威氏による論考「人に寄り添うデータ活用による『需要喚起』と『ブランドエクイティの管理』が今後の統合マーケティングの鍵」は、昨今注目されている統合マーケティングがテーマに置かれている。統合マーケティングとは、マーケティングのデジタル化(オンラインとオフラインの統合)を顧客のIDベースで進め、市場機会の発見から施策改善までを一気通貫でマネジメントすることである。

 江頭氏はデジタル接点の拡大がIDベースのマーケティングを加速するとしている。生活様式の変化によって顧客接点はどんどんオンライン化しており、メールアドレス、SNSのログインID、OTTやコネクテッドTVの視聴ログ、キャッシュレス決済の購買データなど枚挙に暇がない。同時にデータ分析の環境も発展しており、カスタマー・データ・プラットフォーム(CDP)の普及も目覚ましい。個人情報を保護したうえで統合的にデータマネジメントできる環境が整ってきている。ただし、プラットフォームの多様化でマーケティング施策が分断してしまうことには気をつけたい。

 こうした統合マーケティングを活用すると、刈り取り型の「需要消費型マーケティング」から「需要創造型マーケティング」への転換が可能になると江頭氏は指摘する。「潜在的な需要を顧客視点で見つけること」を第1ステップとすれば、生活者の志向性に合った形で需要を喚起することができるようになる。これまでは需要を喚起された人が来店・購入してくれるように待ち構えることしかできなかったが、今後はIDベースのマーケティングで直接かつ継続的にアプローチし、認知から購買までの顧客体験をデザインできるようになる。

 江頭氏は「効果的・効率的に新しい需要を喚起していくこと」がマーケティング担当者の重要な仕事になるという。その中心に統合的なデータマーケティングと人に寄り添った体験設計があり、それをストックしたデータの活用を推進していく。施策の結果、何がブランドの資産となったのかを捉え、商品や事業の付加価値の向上に努めなければならない。

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広告プラットフォームの分散

 最後に、広告運用やデジタルマーケティングの自走化に関するコンサルティングを行っているアタラの杉原剛氏による「分散が進む広告プラットフォーム」を紹介する。

 杉原氏はまず、現在の広告市場について、広告プラットフォームの分散期にあり、主要プラットフォームがどこかわからない状態にあると説明する。一般的にはGoogleやMeta(Facebook/Instagram)を思い浮かべるが、シェアを伸ばしているTikTokを始め、Twitterなど各ソーシャル企業の広告プラットフォームも無視できない。

 さらに注目されているのが、小売業者が保有する顧客データを活用して広告を配信するリテールメディアであり、アメリカでは既に存在感を増している。たとえば、大手小売のウォルマートやターゲット、クローガーなどが広告事業に乗り出している。その強みは「ユーザーが商品を購入したトランザクションデータ」を持っていることだ。日本でも一部企業がデジタル広告と融合したID-POS連動デジタル広告施策を行っている他、膨大なユーザーIDを持っている通信業界や金融業界も広告事業に着手し始めている。

 広告主からすればどこに限られた予算を投下すればいいのか、その判断が年々難しくなっている。そのため広告代理店の役割が重要になるが、広告代理店が必ずしも複雑化するプラットフォームの運用ノウハウやロジックをすべて理解しているわけではない。また、広告主のニーズに対応するにはテクノロジーとマーケティングの両方に精通したエンジニアや分析アナリストの存在も重要になる。ビジネスの全体最適を望む広告主にデータの活用を含めた設計ができるかどうかが分かれ目となるだろう、と杉原氏は結んでいる。

本調査の全結果とクロス集計の結果に加え、 「マーケティングをめぐる近年の動向の概観」や「主要マーケティングプラットフォーマーの動向」をまとめた『マーケティング最新動向調査 2023』は、翔泳社のECサイト「SEshop」でのみ販売しております。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2023/03/13 17:04 https://markezine.jp/article/detail/41577