マーケティングを使うための地図「ストラテジーマップ」
本ウェビナーでは、両氏からそれぞれの新著を基にした講義が展開。西口氏の書籍は、タイトル『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわからない人へ』の通りマーケティングに悩みを抱える初心者向け、かつ個人に役立つ内容だ。また山口氏の書籍『マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること』は、成果を出せるチームや組織作りの観点で書かれている。
イベントでは、まず西口氏が書籍を執筆した背景として、過去に刊行した書籍にはかなり易しく解説したものもありながら「やはりマーケティングはわからない、難しい」との声が多かったことを挙げた。そこで初心者が難しく感じる部分を明確化し、西口氏のこれまでの理論に照らし合わせて学びの順番を整理するとともに新しいフレームワークも加えた形で、本書が構成された。
書籍の終盤、「マーケティングを使えるようになるためのコンパスと地図」として紹介されているのが、「WHOとWHAT(顧客戦略)」と、「ストラテジーマップ(戦略地図)」だ。「この1枚の図で、BtoC・BtoBを問わず、あらゆるマーケティングの議論ができるようにしています。正しいコンパスを持つということは、図中の起点である①に組み込んだ、『WHOとWHAT』を明確にすることです」と西口氏。
この図を常に手元に置き、顧客がお金を払ってくれるとはどういうことか、あるいは継続や離反とはどういうことかを可視化して議論すれば、間違ったマーケティング投資をしたり適していない手法・ツールに惑わされたりすることを防げる。
マーケティングミックスの4Pには「C=顧客」が抜けている
マーケティング初心者の悩みを聞く中で、西口氏はマーケティングの構造と問題に気づいたという。そのひとつが、マーケティング・プロセスにおける“顧客の不在”だ。
一般的なマーケティング・プロセスは「調査・分析→STP(戦略)→4P(戦術)→実行・管理」の4段階で表される。しかし、このうち戦術に位置する「4P(Product、Price、Promotion、Place)」に、実は「C=顧客」が抜けている。
4Pがミネソタ大学のジェローム・マッカーシー氏によって提唱された1960年の時点では、4要素の中央に「C」が配置されていた。それがフィリップ・コトラー氏によって取り上げられた際、顧客が中心であることは大前提として戦術に焦点を当てたことから「C」が割愛され、4Pの使い勝手の良さも手伝って「4P」のみが広がってしまったようだ。「この『C(顧客)』をいかに取り戻すかが、マーケティングにとって最も重要なことになっています」と西口氏は指摘する。
そもそも「ものが売れて商売が成り立つ」とはどういうことだろうか。これを西口氏のフレームワークでは「WHO=誰に、WHAT=何を、HOW=どうやって提供していくか」の3要素で考えていく。ただしこの3つは並列ではなく、顧客がお金を払うだけの価値が成立する「WHO」と「WHAT」の組み合わせを見いだすことが、まず大事になる。
ここで重要なのは、プロダクト自体に価値があるわけではなく、顧客がプロダクトの便益や独自性を「入手したい」と感じて初めて「価値」が生じることだ。
「アルコールを飲めない人にいくら革新的なビールを提案しても、そこに価値は生じません。しかし『ギフトにどうですか』と薦めれば価値が生じ、WHO&WHATが成り立つ可能性が出てきます。そして、この組み合わせはどんなプロダクトにも複数あります」(西口氏)