「物語デザイン」で人に話したくなる世界観を作り出す
3つ目の世界観体験を発想するメタファーは「舞台」です。
本来、世界観体験はブランド体験の領域になるため、広義ではブランドが提供するすべての体験になるのですが、ここでは「世界観」にフォーカスをします。ブランドの世界観は広告の世界でもよくテーマになります。ブランドの顔つき、トーン&マナー、キャラクターなど様々なカタチでクリエーションが試みられえています。
その中で、最も重要な点は世界観に「物語があるかどうか」という点です。見た目のスタイリッシュさやイメージがあるだけでなく、ブランドと生活者の間に共有できる物語にまで昇華してはじめて世界観が構築され、生活者が世界観に没入しファンになってくます。ブランドと生活者の間で共有できる物語があるかが、ファンを作れる上で重要になっているのです。
さらに、ポイントなのがその物語が「ナラティブ=人に話したくなっている話材」にまでなっているかです。「人に話したくなる」という部分は重要で、これによりファンがエバンジェリストになってブランドの物語を語ってくれるようになります。
そこで、キーワードになるのが「物語デザイン」の設計による「舞台」です。生活者自身が物語の主人公になり、世界観に飛び込んだような体験をし、提供するモノやコトにより毎日の生活が彩られる。そんなことをイメージし、体験を提供するがブランド体験なのです。
ある意味、映画発想で生活者を主役にした物語を描いていき、一言からそういうストーリーを紡いでいくことが世界観の領域では必要になってきます。
【事例】北欧、暮らしの道具店に学ぶ、「物語デザイン」の描き方
世界観を構築し、それを基盤にしてモノや体験を超えて世界観を売っている例として「北欧、暮らしの道具店」があります。「北欧、暮らしの道具店」では、「北欧のライフスタイルに魅かれ、そのスタイルの本質を取り入れ、自分たちらしく表現することをコンセプトとした、ネットショップおよびECメディア」を標榜しています。「ていねいな」暮らしを送りたい人たちに向けて、日用雑貨の販売だけでなく、共感できる「物語」を提供しているものです。

これは、北欧の道具を使うことで、生活者が主人公になり北欧で暮らす日常を舞台にドラマを描き、その世界観を売っているといえます。そんな物語のような暮らしを通して便利な「道具」たちがECショップでたくさん買える設計になっており、モノありきではなく、モノガタリありきのECショップになっています。
この世界観は煌びやかな世界観で主人公になる映画でも良いですし、その描き方は多様です。物語デザインでは、あらゆる場面が生活者との接点になり、継続的なつながりを持つチャンスになる点が重要なポイントです。
たとえば、生活のあらゆる場面に溶け込んでいる家電を商品のスペックを提示するのではなく、どんな素敵な暮らしが得られるのかを提示するようにします。
ここでは仮で、「いい日になる習慣」という物語のテーマを設定し、毎日の暮らしで、起こる何気ない日常が家電と一緒に起こるシナリオを描いていきます。そうすると1日の中でシーンが描かれるタイミングで接点が生まれるのです。さらに、具体的なシーンとモーメントを設定すると、接点が生まれ、生活者とよりつながることができます。
このように、舞台から物語を紡ぐことで、生活者との接点をつくり出すことができ、継続的につながることも可能になります。つまり、カスタマージャーニーのシナリオを描くことができるのです。

このように今回は、メタファーを使って3つの体験がどのように具体的に発想されていくかを解説しました。実際に世の中の商品を使ってそれぞれの視点からデザインしてみると何か新しい発見が見つかるかもしれません。
次回は、実際にファンになる体験どのように設計するか、その上で必要なステップを解説していきます。
