掲げたパーパスと実際の施策に乖離はないか
MarkeZine編集部(以下、MZ):近年パーパスを掲げる企業が増えていますが、東さんは今の状態をどのようにとらまえていますか。
東:企業がパーパスを掲げていく流れは、グローバルでもトレンド化してきています。しかし実際の事業や業務オペレーションまで落とし込み、組織を動かす力にできているケースはまだ多くはありません。顧客に近いレイヤーほどパーパスとの距離感が生まれ、表面的なアクションに終始してしまっているのが現状です。
しかしサービスの受け手である顧客は、企業の姿勢に敏感です。特に海外では、SDGsやサステナビリティへの姿勢がうわべだけの姿勢、ただのポーズとなっている企業を揶揄する「グリーンウォッシュ」という言葉も生まれています。
東:また、パーパスは企業の存在意義を示すものなので、定量的なアプローチが難しいことが課題の一つです。定量データだけでなく、顧客の感じ方や解像度を定性的に語って解決策を導き出すアプローチが鍵になると私は考えています。
特に日本企業では数値を重視する傾向が強く、少数の意見を軽んじてしまいがちです。しかし、定性的な方法でしか捉えられない情報もありますから、定量的なアプローチと定性的なアプローチの両方を適切に組み合わせることが大切です。
つまり、データに基づいて分析する定量調査は「垂直思考」の考え方で、正しい解を導き出す強みがあります。そこに違った視点から物事を捉える「水平思考」を加えた両軸を持つことで、パーパスからつながるマーケティングの基盤が作られると言えます。
「観察・解釈・想像」の力が顧客の心を動かす
MZ:数値面だけでなく、質的な部分を掘り下げて見ることが必要なのですね。
東:はい。それによってブランドの価値を再確認し、顧客に対して“深い満足”を提供することにつながります。人は、自分の想像を超えたものを提供されると深く満足します。想いを掘り下げ、本人すら想像していない部分を想像する視点を持つことが、マーケターにとって大切です。
たとえば「のどが渇いている」人に満足を感じてもらうには、「水を提供する」ことが解決方法になります。ですが「なぜのどが渇いているのか」は、問いを重ねないとわかりません。ただ水を提供するだけでなく、自社の得意分野で違うアプローチができれば、顧客により深く満足してもらえる可能性が高くなります。
MZ:その視点をマーケティングに結び付けるポイントは何でしょうか?
東:マーケティングは、顧客に最も近いところで作用する領域です。マーケターは特に、「洞察力・観察力・解釈力」といった部分にクリエイティビティが求められます。企画立案もデータ分析も顧客との対話も、漫然とやるのではなく、「こういうことかもしれない」と観察し解釈することが重要です。それがマーケティングのストーリー作り、クリエイティブな施策につながります。
ここでいうクリエイティブは単純な色や形などのデザインだけでなく、人々が共感して行動を起こしたくなる気持ちを喚起する工夫や表現です。想像力を働かせてビジネスや顧客を理解し、顧客の気持ちを動かすのは、マーケターの観察力に起因するクリエイティビティなのです。