“やりたくなる”をデザインする「行動中心設計」とは?
セガ エックスディーでは、様々な企業との取り組みを通じ、体験価値を創出することは「生活者の行動変容を通じて課題を解決する」ことだと考えています。この思想のもと、抽象的でわかりにくい体験価値の創出を実務的・理論的に行うために生まれたのが「行動中心設計」です。
たとえば「運動不足の人が運動をすることで健康になる」体験を創出したい場合、ペルソナの解像度を高めたりカスタマージャーニーを描いてみたりと、大きい枠組みからアプローチすることが一般的です。一方、行動中心設計のアプローチはこの逆で、「ユーザーの最小の行動に落とし込む」ことから始めます。
先の例で考えると、「通勤時、駅のホームの昇降にエスカレーターではなく階段を使う」ことが最小行動の1つとして挙げられます。健康のための運動という体験全体を捉えようとするのではなく、1シーンのみを切り取って1つの行動に着目するのです。すなわち、行動中心設計はユーザーの一つひとつの行動を変えることを積み上げ、結果として全体の体験が創出されるアプローチなのです。
そして行動中心設計では、解決策として「階段を使いやすくする」といった一般的なUXやCXのアプローチではなく、「つい階段を使ってしまう」「階段を使いたくなってしまう」「階段を使いつづけてしまう」体験を創出しています。
人間は合理的ではないからこそ、理解が重要
1つの行動に着目し行動変容を促そうとすると、不思議な事実に直面します。人間が常に目標に対して合理的に判断できるのであれば「階段を使うと運動不足解消につながり健康になります」と訴求すれば、健康になるために階段を選択します。しかし人間はそう簡単ではありません。頭ではわかっていても行動がともなわないのです。
こうした人間の特性を前提とした学問が、行動経済学です。人間の心理や行動を観察しその特徴を明らかにして経済学を再構築する学問、ともいえます。行動経済学では、人間は決して機械のように合理的ではなく、「感情や経験によって判断や行動を誤ってしまう場合がある」ことを前提に人間の経済活動を捉えます。
この学問は「人間の関心と、人間そのものを理解しようとする」ことが本質です。先の例でいえば「階段を使うことが必要だとわかっているけど階段を使わない」人間の心理を理解したうえで、どう階段を使ってもらうようにするか。今まさにマーケティング業界は、このような行動を中心とした考え方が求められています。