生成AIの衝撃により、電通はどう変わる?
有園:電通はビジネスモデルの変革を急速に進めており、もはや旧来型の広告会社とは異なる形態になっています。榑谷さんはデジタル領域に明るく、特に社長に就任されてから、大きく変革が進んでいるイメージです。
最近は生成AIの進化も激しく、テクノロジーの活用に強い思いをもって臨んでいるのではないでしょうか。まずは、生成AIのインパクトについて、どのように捉えていますか。
榑谷:当社では、生成AIの登場以前からAIの活用を積極的に進めてきました。機械学習によるビッグデータのアナリティクスの効率化やインサイトの精度向上などです。例えば、視聴率予測システム「SHAREST」のα版の開発は2015年、実戦配備は2017年で、メディアプランニングの最適化に大きな進歩をもたらしました。
生成AIは自然言語や画像を含むマルチモーダルなデータを取り扱うことができるため、あらゆる業務に応用できると期待されています。私たちが目指しているのは、クライアント、社会の発展に貢献することですので、既存のタスクの自動化に留まらず、課題に対するソリューションの圧倒的な高度化を実現したいと考えています。
具体的なプロダクトとしては、2022年末に発表した「∞AI(ムゲンエーアイ)」があります。クリエイティブ・プロセスをAIで革新するサービスで、現在は「GPT-4」を実装し、既に運用を開始しています。
クライアントのマーケティングROIの最大化に向けては、顧客対応のパーソナライゼーションが鍵を握っています。しかし、その作業をすべて人が受け持つということには無理がありますので、お客さま一人ひとりの状況に応じて、最適な顧客体験を提供するためには、AIの徹底活用が不可欠になります。
有園:生成AIに関してコンサル企業の方々から聞いた話では、「社内業務の効率化に使う」というケースが約8割を占めており、マーケティング領域に活用するケースはまだ少ないようです。∞AIは既にクライアントへの提案で使っているとのことですが、今後どのように発展させていきますか。
榑谷:現時点では、まず、デジタル広告の制作にあたって、ベースとなるアイデアの効果予測を行うとともに、投入効果を最大化するための改善プランを提示できるようになっています。既に100案件を超える利用実績があり、CPAが50%以上改善するようなケースも出ています。検索やバナーに加えて、動画の表現も扱えるようにするのが次のチャレンジですが、既に実装の目途は立っています。
あらゆる企業がデジタルプラットフォーマーに変貌を遂げる
有園:そうすると、動画を作ってきた人の仕事はどう変わっていくのか、という話も出てきます。以前、クリエイターの方と話したときに、「コピーもバナーもAIが作ってくれる。クリエイターとして何をしたらいいのか」と言っていたことが印象に残っています。
榑谷:すべてをAIで完結できるとは思っていません。クリエイターとAIの効果的なコラボレーションが大切です。過去のデータからどれ程うまくインサイトを掘り起こしても、それだけではこれまで機能していたアイデアからのジャンプには直結しません。もちろん、AIにも過去の延長にはないクリエイティブワークの生成は可能ですが、それが社会にどのように新しい価値観を生み出し、未来につながるかを見通すのは、クリエイターの役割ではないでしょうか。
当社では、広告の世界で培い実績を上げてきたクリエイティビティをあらゆる顧客体験のデザインにも拡張していますが、生活者一人ひとりに対して最適化された顧客体験のエグゼキューション(実行・実装)の段階においては、やはりAIの力を借りています。
有園:顧客体験というとWebサイトやアプリのUXが思い浮かびます。AIの力を借りて最適化するとはどういうことでしょうか。
榑谷:今、あらゆる企業がデジタルプラットフォーマーに変貌を遂げつつある、というのが私たちの大局観です。企業は、Webサイトやアプリ、ソーシャルなどに限らず、いろいろなチャネルで顧客とつながることができるようになりました。クライアントの課題やその解決方法は様々ですが、その視線は少なくともカスタマージャーニー全体を俯瞰していなければなりません。