人間が「ついやりたくなってしまう」メカニズム
本連載の第2回では「ついやってしまう」無意識な瞬間UXについてご紹介しました。第3回は、同じく瞬間的かつ「ついやりたくなってしまう」意識的な瞬間UXについて、解説していきます。
人が何かを「ついやりたくなる」のはどんな時でしょうか。「ついやってしまう」無意識な瞬間UXは、人間の直感的で早い思考(第2回で記載した「システム1」)を活用するため、ある意味では選択を「させられて」いるといえます。
「ついやりたくなる」が大きく異なるのは、自らの意思で選択をする点です。人間は外的刺激に対して心が動き、内発的な動機付けがなされることで、意識が働きます。結果として、意識的に行動が促されます。
たとえば、単行本の背表紙を全巻並べると絵がつながる漫画を順番に並べたくなる経験をした方はいるのではないでしょうか。絵がつながりそうな背表紙という視覚的な外的刺激と、「並んでいないと気持ち悪い、順番に並べたい」という内発的な動機付けがなされ、結果的に整理して棚に並べてしまう人が多いと思います。
このように人間には「外的刺激に対して心が動くと(内発的な動機づけがなされると)やりたくなってしまう」という性質があり、これを活用した考え方が意識的な瞬間UXです。
瞬間的に心を動かす要因を解剖
意識的な瞬間UXはパッと見た瞬間に心を動かすことで行動の意思決定にアプローチします。無意識な瞬間UX同様に、クリエイティブやUI(ユーザーインターフェース)に密接に関係しているのです。
「行動中心設計」では、大阪大学の松村教授の提唱する仕掛学をベースに、アナログ・デジタルを問わずアイデアの出しやすい実務的な形に省略化。2つの外的要因(外的刺激)と3つの内的要因(内発的な動機付け)で定義しています。この2×3の要素を活用することで「ついやりたくなってしまう」体験を具体的にデザインしていきます。
外的要因の1つ目は行動したら〇〇が起こりそうという「期待」です。人間は新しい刺激があった際に、その刺激に対して瞬間的に予想をします。この特性を活かし、見た瞬間にどんな反応をするかがわかりやすいデザイン/見た目を通じて、内発的な動機付けにつなげます。
2つ目は、〇〇に似ているから同じようにできそうという「類推」です。認知心理学で提唱され、デザイン領域でよく使われる概念に「アフォーダンス」があります。大まかに説明すると「経験上使ったことがあるデザインに近いものを見た時、人間は同じように使ってみる」考え方です。
Webサイトでテキストが青文字かつ下線があったら、説明がなくても多くの人がリンクだと認識できるように、アフォーダンスは説明なしでも使えるデザインとも解釈できます。見た瞬間に使い方がすぐわかるデザインを通じて、内発的な動機付けにつなげるのです。
なお「類推」は似たものを見たことがあり同じように使えそうだと想像できる一方、「期待」は見た瞬間に使い方が想像できるという点で異なります。