意見を出し合い、撮れた写真にOKを出すまでの流れ
では、1枚の写真を判断するまでに、クライアント、フォトグラファー、アートディレクターの三者で具体的にどのような話し合いが行われるのでしょうか。
次の図は、本連載の前回までの記事でも登場したコンセント新卒採用サイトにある記事コンテンツ「プロジェクト座談会」の撮影を想定した三者の会話と、実際のOKカットです。
クライアントには気になった部分をその場で伝えてもらい、技術的にわからないことがあればフォトグラファーに意見を求める。そのうえでアートディレクターは、媒体全体を通して読者に伝えたいことが伝わるかという観点で意見をしっかり伝える――。このように、チームとしてコミュニケーションをとることで、スムーズにOKカットにたどり着くことができます。
「悩まないといけないこと」と「確認すれば済むこと」を分けておく
とはいえ、慣れないうちは苦戦し、伝えるプロとしての判断に失敗することもしばしば。ましてや初めての撮影ディレクションで撮れ高の判断を現場でしなければいけない場合、何を確認すれば良いのか迷う人も多いのではないでしょうか。
今でも判断に悩むことはたくさんありますが、毎回必ずチェックしておけば失敗を防げる項目も比較的多いのも事実。当日は緊張して焦ってしまうため、慣れるまで私は、必須項目のチェックリストを出力して撮影現場に持って行っていました。これをチェックすれば最低限はクリアできると思うと、心に余裕が生まれ、クオリティをあげることに集中できます。
準備とチームワークが活きてくる 予期せぬ事態の乗り越えかた
準備編でもお伝えしたとおり、いくら万全の準備をしたとしても撮影現場では思わぬハプニングが起こるもの。それでも、綿密な準備と良いチームづくりができていれば力を合わせて臨機応変に対応することができます。ここでは実際に起こったハプニングと、それを実際にどのように乗り切ったのかを紹介します。
版権イラストが入っていて写せない!
事前に衣装のすり合わせはしていたものの、モデルをお願いした学生の方が当日着てきたTシャツには某アニメの版権イラストがプリントされており、このままでは撮影できないという事態に。しかし、こんなこともあろうかと替えのシャツをいくつか持ってきていたため、それに着替えてもらって事なきを得ました。想定外の着替え時間が発生したものの、スタッフのひとりは学生の方の着替えの案内を、もうひとりは次のカットの準備をする形で役割を分担し、乗り切りました。
被写体となる人の自前の服で撮影する場合、事前に服の写真を送ってもらうなどして当日の衣装を決めておけるとベストですが、それが叶わない場合にはスペアの服を用意しておくと安心です。また、当日実際に撮ってみるともっと彩りを加えたいとなる場合もあるため、シャツやカーディガンなどすぐに羽織れるもので、色味のある衣装を持参しておくと重宝します。
会議スペースでの撮影を予定していたが前の会議が延びて空かない!
クライアントオフィスでの撮影で、用意してもらっていた会議スペースが撮影準備開始時間になっても一向に空かず、しかも重要な会議のため中断してもらうことが難しいとのことで撮影が始めることができず。またモデルをお願いしている社員の方の時間も限られており、撮影終了時間はずらせない!という事態に陥りました。
そこで、撮影場所を決める時にクライアント担当者とフォトグラファーとともに行ったロケハンで見た場所の中から条件に合う第二候補の検討を開始。私がイメージに合う場所の候補をあげ、フォトグラファーが光の入りかたや撮影に必要な広さなどの観点から候補地を絞り込み、クライアント担当者がすぐに候補会議スペースを予約するというスピーディーな連携により、無事に撮影することができました。
ロケハンでは決め打ちではなく、当日のハプニングに備えて複数の場所を見ておくと、何か起きた時にも対応することができます。クライアントやフォトグラファーと一緒にロケハンができない場合には、その際に撮影した候補地の写真を事前の打ち合わせで共有し、当日もリストとして持っておくと安心です。
撮影当日のディレクションのスマートな進行や判断のコツは掴めたでしょうか。連載第3回の「撮影当日編」はここまで。「企画編」「準備編」とステップをふんでお伝えしてきましたが、第4回は実際に同じ撮影プロジェクトをともにした撮影チームが集結し、チームワークを生み出すために大切なコミュニケーション方法などについて座談会形式でお届けします。お楽しみに!