誰もが使えるIT基盤の整備でデータの民主化を
磯山:ファンケルさんのIT基盤再構築プロジェクト「FIT(FANCL Information Technology)」についてもお聞きしたいと思います。長谷川さんはFITにも関わっていらっしゃるんですよね。
長谷川:基本的にはシステム部が主導で動きましたが、ECサイトをリプレースしたフェーズ2と営業基盤を強化したフェーズ3には関わっています。
磯山:データの利活用は多くの会社さんが推進したいと思っているところだと思うのですが、ファンケルさんが実現できた理由は何だとお考えですか?
長谷川:元々データを起点に業務遂行する文化があったことと、MAを活用したアプローチを2013年から強化し続けていた背景が大きいと思います。それまでは過去の購買データをもとにしたレコメンドしかしていなかったのですが、Web上の行動データをもとにお客様の悩みを分析し、提案に活かせるようになりました。
たとえば、ビタミン系のサプリメントしか買っていないお客様がいたとすると、これまでの購買データだけの判断であれば、美容系の商品には「まったく興味がない」という結論になりがちです。しかし、行動データを見ると明らかに興味があるというような発見もあり、そういったデータの見える化に取り組んでいます。
また、お客様に「今のお悩みは何ですか?」と直接聞いたデータも使ってはいますが、お答えいただける悩みは、本人が解決しようとしていない悩みも多々含まれています。Webサイト上で無意識に行われている「商品を探す」という行為の中にこそ、本当に悩んでいることが表れるのではないかと思います。
磯山:自分でも気づいていない悩みは回答できませんからね。
長谷川:さらに行動分析から検知して、定期購入をやめてしまいそうなお客様を特定するための数値化も行っています。適切なアプローチをするかしないかで、その後の継続率が全然違いますね。
そういうデータ活用を我々だけが取り組むのではなく、誰でも使える形のデータを整備して、常に新しいデータを作り続けています。みんなが使うことによって「こういう使い方をしたらこういう成果が出た」という実証が進み、業務上に上手く展開されていくことで、全社的なデータ活用が広がっていくのではないかと思います。
磯山:そのサイクルを回し続ける上で、FITによるデータの整備が重要だったわけですね。
長谷川:FIT3では、仮説検証のトライアンドエラーに耐えられるデータベース構造に作りました。クラウド上に置いて、どんどんデータを足せて、どの部門からでもアクセスしやすくしています。
決して答えを自動で導き出してくれるような分析基盤ではないのですが、超高速PDCAを回すためには、この自由に仮説検証を続けられるデータベースが必要だったんです。
世界中のお客様の「不」を解消するために
磯山:最後に、ファンケルブランドの未来についてお聞かせいただけますか。
長谷川:ファンケルはVISION2030として「世界中を、もっと美しく、ずっと健やかに そして世界中で愛される会社に」を掲げています。
現在は中国を中心としたアジア圏とアメリカの一部で事業展開していますが、これを世界中に広げていけたらと考えています。
磯山:世界中にファンケルの化粧品やサプリメントを、ということですか。
長谷川:元々ファンケルの原点は「不」の解消なので、必ずしも化粧品やサプリメントでなくても良いと思っています。
磯山:今言える範囲で、何か検討しているものはあるんですか?
長谷川:まだ詳しくは言えませんが、発売したら自分も買いたいくらい楽しみなものがあります。他にも新規事業の開発に取り組んでいるので、ぜひ今後に期待してほしいです。
現在の事業ドメインにとらわれず、世界中の「不」を解消し、世界で愛される会社でありたいというのが2030年のビジョンです。

取材を終えて
ファンケル長谷川さんのお話で印象的だったのは、『常に「お客様のため」を一番に考える』という顧客ファーストの姿勢です。ユーザーに向けての真摯な対応や姿勢が「正直品質。」というスタンスメッセージに現れており、「すべての取り組みがお客様の不を解消する」ということを徹底できているからこそ、ユーザーからの信頼が生まれ、愛されるブランドになっていると感じました。今後の事業展開や展開がとても楽しみです。ありがとうございました。