ティール組織移行後の離職率はほぼ0%
HOLISグループは、中部地方を中心に中古ゴルフ用具の買取・販売、貸衣裳、こども写真館、質屋、リサイクルショップ、書店、フィットネスジム、結婚相談所、訪問治療院、結婚式ムービー制作など、27の多様な事業を展開している。グループ全体の事業規模は60億円以上(2023年現在)。これだけの数の事業を展開し、500名超の雇用を抱えているにもかかわらず、マネジメント不要の自律分散型組織として機能しているのだ。
元々は地域で「すべての事業において一番」を目指していた典型的な中小企業だったが、二代目の片桐拓也さんが会社を引き継いで流れが変わった。引き継いだ当時、事業は順調に拡大していたものの、各事業体の三ヵ年計画の立案や予実管理、マネジメント、さらには銀行からの資金調達など、片桐さんの業務は多岐にわたり「忙殺されていた」と当時を振り返る。
そんな折、ティール組織の存在を知った片桐さんは衝撃を受けた。ティール組織とは、上司と部下の関係が存在しない自律分散型組織のことを指す。役職はなく、会議もない。人から助言をもらうことはできても、最後に意思決定するのはメンバー自身だ。さらに、ティール組織では会社としての売上目標が存在しない。予算も存在しないため、既存の組織とは一線を画した組織形態と言える。
片桐さんは「自社をそのままティール組織化しても機能しない」と考え、利益を先に計上する「PROFIT FIRST」の概念と紐づけた。これが前述したステークホルダーへの分配の仕組みだ。この仕組みを付け加えることにより、片桐さんは独自のティール組織を開発した。HOLIS式ティール組織に移行した後の離職率は、ほぼ0%になりつつあるという。移行前の離職率が約10%だったことを踏まえると、大きな仕掛けの効果がわかるだろう。
重要指標だからこそ先に利益を決める
企業経営の公式は「売上-経費=利益」である。利益は最終的に残ったものであるはずだ。しかしながら、PROFIT FIRSTを採用するHOLIS式ティール組織の公式は「売上-利益=経費」になる。この公式に多くの読者は違和感を持つかもしれない。企業経営において最も重要な指標が利益だからこそ、先に求めたい利益を決めてしまえば、経費は必然的に導き出される──この考え方こそがPROFIT FIRSTのパラダイムなのである。この考え方を会計の仕組みに落とし込んだものが次の図だ。
利益口座には、最初に確保される利益を入金する。四半期に一度、残高の一定割合を社内預金者に配当として分配し、残りをM&Aや新規事業に投資するお金として取っておくそうだ。返済口座は、銀行からの借り入れがある場合に年間で返済する金額を入れておく口座。税金口座は法人税などを納めるための口座で、オーナー口座にはオーナーの役員報酬などを割り振り、最後に残った金額が経費となる。この経費口座に入ってきたお金の中で、賃料や給与、社会保険、消費税の支払いはもちろん、マーケティング活動や勉強会の費用をやりくりする仕組みだ。
経費口座で残ったお金を分配金として事業に関わるメンバーへ分配する仕組みもある。四半期に一度、経費口座残高の4分の1を従業員に分配し、4分の3は次回へ繰り越す。たとえば経費口座残高が400万円で、従業員の平均基本給合計が100万円の場合、従業員には基本給1ヵ月分相当の分配金が入ることになる。この仕組みが従業員の経費削減を促すことは説明するまでもないだろう。