ステマをしている意識がないケースに注意
――インフルエンサーマーケティングの支援を行う企業はどのような動きをしているのでしょうか?
インフルエンサーを束ねる企業によっては、すべてにPRを付けるといった動きもあります。しかし、事業会社によってはPR表記を付ける場合は自社の広告として扱う運用をしているケースもあります。
たとえば化粧品であれば薬機法が関わってくるので、広告になった途端に使えない表現が出てくるんですね。すると結局、投稿内容の全件チェックが必要です。つまり、比較的手頃なコストで・柔軟な視点で・商品やサービスの特長を紹介してもらえるという、インフルエンサーマーケティングとは別物になってしまうわけです。
ただ、私はインフルエンサーやYouTuber、いわゆるクリエイターに紹介してもらう体裁だろうと、企業はきちんと内容をチェックすべきだと考えています。CM契約をしていないタレントのモノマネをされたり、他の企業の商品も一緒に紹介されたりするかもしれません。インフルエンサーによる投稿だから通常の広告とは違う/広告では言えないことが言えるという都合の良い解釈で、何でもかんでもやってもらって良いわけではないですよね。
またクリエイターによっては、案件動画だとしても最低限のことは聞くけれどPR表記はしないし、内容に口出しされたくない、修正に応じない方もいます。今後はそれでは困ってしまいます。企業は真摯に向き合ってくれるインフルエンサーやクリエイターと付き合う必要があると思います。
また、近年ではクリエイターの若年層化も進んでいます。ついこの間まで中学生だった子どもに十分な法律の知識を期待するのも無理のある話です。現在のステマ規制で罰則を受けるのは依頼した広告主側だけであることも考えると、インフルエンサーやクリエイターにすべてを任せればいいという認識があるなら、改めるべきでしょう。
――ステマ規制が始まったことで意識の変化が起きているのですね。
それはあると思います。たとえば、Web媒体のノンクレジットタイアップについても、改めて考え直すタイミングでしょう。
――お話をうかがうと、景表法について対応を検討をせずにこれまで通りで大丈夫だろうと考えていてはいけないと感じます。
そうですね。私は3月のステマ規制の発表から今までセミナーを行ってきましたが、説明を聞いて初めて意外とステマ規制は関連領域が広いことに気づく方も多いです。自分たちがステマをしている意識がないケースもあります。自社サイトの中でお医者さんの「これは素晴らしいです」とコメントを掲載することも、今回の規制の対象となる可能性があります。
なりすましになる/ならないパターン分けとは?
――山本さんは消費者庁が主催する「ステルスマーケティングに関する検討会」のメンバーでもありました。検討会では何が議論のポイントになったのでしょうか?
今回の検討では、そもそも規制が必要なのか・どのような法律で規制すべきか、という前段の話に時間が割かれました。具体的にどう規制するかの実務面についても、当然議論を重ねましたが、それでも現場が判断しかねるケースも多いです。
たとえば、現在の運用基準では事業者の表示であることを明瞭に示す言葉の例示は「広告/宣伝/PR/プロモーション」の4つしかありません。もちろん、もちろん商品・サービスのターゲット層に十分な認知があり「事業者の表示」だということが明瞭に分かる場合には、「タイアップ」や「コラボレーション」、「案件」といった他の言葉を使ってはいけないわけではありません。しかし、実情は怖くてなかなか使えませんよね。
――運用基準を実務に落とし込むためには、基準を読むだけでなく、もう少し段階を踏む必要がありそうです。
ですから、私もこうして様々なところでお話をしている次第です。私がよく説明に使う例をご紹介しましょう。次の問題を考えてみてください。
問:SNSに「A社の新商品『B』チューハイ、ヤキトリとの相性最高!」と投稿して、「第三者の表示のように誤認させるもの(なりすまし)」になるもの/ならないものは?
①投稿者がA社とはまったく無関係な第三者で、何の依頼も利益供与も受けていない
②投稿者がA社の社員で、自社商品Bチューハイの宣伝担当者
③投稿者はA社の社員だが、Bチューハイとはまったく関係ない業務をしている
答えは、次のようになります。
なりすましになる
②投稿者がA社の社員で、自社商品Bチューハイの宣伝担当者
なりすましにならない
①投稿者がA社とはまったく無関係な第三者で、何の依頼も利益供与も受けていない
③投稿者はA社の社員だが、Bチューハイとはまったく関係ない業務をしている
※ただし、③の場合、マーケティング担当者からの依頼を受けて投稿した場合はなりすましになる
また、第三者に投稿を依頼した場合、次のケースはすべて「事業者の表示」(≒広告、インフルエンサーに依頼した投稿)となるので、PRなどの表記が必要になります。
例:「SNSでヤキトリとの相性を紹介してください!」と依頼し、Bチューハイ1ケースを送った
例:「SNSでヤキトリとの相性を紹介してください!」と10万円支払って依頼した
上の2例は対価を提供し、表示内容に関与しているので、「事業者の表示」です。
例:事業部長がインフルエンサーとの会食で「あなたのSNSでの影響力を知りたいと思っている」と発言。そのインフルエンサーは仕事がほしいと思い、後日Bチューハイを自分で購入して投稿した
上記の場合、明示的な指示・依頼や対価の提供はありませんが、言外に今後の取引を匂わせていたので第三者の自主的な意思による表示内容とは客観的に認められず、「事業者の表示」と判断されます。
また、次の例も、明示的な指示・依頼はありませんが、第三者の自主的な意志による表示内容とは認めにくく、かつ表示内容を決定できる程度の関係性があるとされ、「事業者の表示」となる可能性があります。
例:過去に何度も商品を提供し、時にはタイアップで動画投稿などもお願いしていた関係のある人物に、SNS投稿への依頼・指示はしないものの「新商品のBチューハイはヤキトリとの相性が良いことを訴求したいと思っています」というメッセージとともに商品を提供した
このようなパターン分けは、消費者庁から公式に出ているものではありませんが、運用基準を読み解くと見えてくる例の一つです。現状ではこのように、各社が読み解きを進める必要があるというフェーズです。