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第100号(2024年4月号)
特集「24社に聞く、経営構想におけるマーケティング」

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日本郵便「デジタル×アナログ」実証実験プロジェクト(AD)

恩藏教授に訊くデジタル時代のDMの役割 無意識へのアプローチとオムニチャネル発想が鍵に

 2024年で第38回を迎える全日本DM大賞(以下、DM大賞)。MarkeZineではこれまで様々なDM活用の事例が紹介されてきた。今回は、企業が効果の高いDM施策を設計するための方法や、近年のDMのトレンドなどについて、日本のマーケティング研究の第一人者で、DM大賞において審査委員長を務める早稲田大学 商学学術院教授の恩藏氏に話をうかがった。

DMの強みはセグメントのしやすさ

MarkeZine編集部(以下、MZ):マーケティング戦略におけるDM施策の役割や価値についてどのようにお考えでしょうか。

恩藏:DMの一番の強みはセグメントがしやすいことだと私は考えています。販促を行う際、ポテンシャルが高い人などにターゲットを絞って施策を行う上で最も効果的なツールの一つです。

 デジタルでもセグメントはもちろん可能ですが、我々が2017年に実施した研究では、同じ内容を紙とデジタルで送った場合、圧倒的に紙への反応が高く、最終的なCVRも高いという結果がわかっています。

早稲田大学 商学学術院教授 恩藏 直人氏
全日本DM大賞の審査委員長や、早稲田大学マーケティング・コミュニケーション研究所の所長、公益社団法人日本マーケティング協会の理事長、早稲田実業学校の学校長なども兼任

恩藏:さらに、この調査を世代別で見ると、50、60代よりも20代の方が紙に対する反応が良いんです。理由としては、デジタルが当たり前な世代であるが故に、物体として手に触れられる紙のDMが届くと興味につながることや、一種の特別さを感じてもらえるのだと考えられます。今後、デジタル化がより進んでいく中で、あえてデジタルではない紙のDMを使うことで、人々の印象に残りやすくなっていくと考えられるんです。

 コスト的にはデジタル施策のほうが安いが、反応も含めたROIまで考えると紙のほうが効率性は高かったりする。今後、デジタルとDMを組み合わせて届けることがポイントになると思います。

馬場:おっしゃる通り、日本ダイレクトメール協会(以下、DM協会)の「DMメディア実態調査2023」によると、自分宛てのDMの閲読率は、男女で差があるものの、男性の平均が83.1%のところ20代男性は89.2%、女性の平均が61.8%のところ20代女性は67.5%と、いずれも平均より高い数値になっています。

日本郵便株式会社 郵便・物流営業部 郵便・物流マーケティング室長 馬場 慎一郎氏
1994年に当時の郵政省に入省後、郵便・物流関連の仕事を中心に従事。2023年度から郵便・物流営業部の中に郵便・物流マーケティング室が設立され、マーケティング室長として荷物分野のマーケティングを行う。またDMの振興も担当

馬場:加えて閲読後に何らかの行動を起こした割合を見ても、全世代平均が19.7%のところ、20代男性は20.8%、20代女性は28.8%となっています。このことから、デジタルになじみのある若い世代もDMに関心を持って読んでいることがわかります。

近年BtoB企業によるDM活用が急増しているワケ

MZ:現在の日本におけるDM活用市場の規模感を教えてください。

馬場:電通の「2023年 日本の広告費」によると、2023年のDMの広告費は3,103億円で、日本の広告費全体の4.2%を占めます。インターネット広告が急拡大する中でも、この10年間3,000億円以上の規模を維持しつづけているのが特徴的です。また、これとは別にDM企画・制作関連の市場は1,115億円あり、前年比101%と微増しています。広告のあり方が大きく変わる中でも、DMは広告市場で一定の存在感があることがうかがえます。

MZ:制作費が増加しているのには何か理由があるんでしょうか?

馬場:理由の一つとして考えられるのがBtoBのDM利用です。DM大賞でも、入選作品に対するBtoBの割合は、2019年の第33回は約20%だったのが、第38回(2024年)は、約37%まで伸長しています。BtoBはスイッチングコストが大きいこともあり、しっかりと販促費にお金をかけることが制作費上昇の背景としてあると思われます

恩藏:DM大賞の審査委員長として応募作品を見ていると、近年BtoBのDM利用は本当に急増していると感じます。背景の一つとして、コロナ禍で対人営業ができなくなり、その代替手段としてDMが活用されているからだと思われます。

 営業が直接訪問しなくなれば、その分、販管費を節約できますよね。加えて、BtoBだと顧客は明確になっているので、ある程度コストをかけて届けることができるのも特徴的でしょう。特に近年の事例で言うと、第37回のDM大賞(2023年)でグランプリに選ばれたfreeeによる「チョコレートを送るDM」はおもしろかったですね。ターゲットである経理部メンバーに対して決算時期が終わったタイミングに合わせて、「皆さんで食べてください」とDMを送る。個装されたチョコレ-トが入っているので、同じ部署の人たち同士でチョコレートをシェアできます。これは、社名や自社サービスを強く印象付けるのに効果的な施策だったと言えます。

freeeの「テンキーチョコで、上場企業の決算疲れをfreee!」

五感に訴え、無意識で評価に影響を与えるセンサリーマーケティング

MZ:ここ数年でトレンドの変化は感じていますか。

恩藏:近年、センサリーマーケティングを取り入れる潮流が見られます。センサリーマーケティングとは、消費者の五感に働きかけることで、無意識下で意思決定や評価に影響を与える手法です。そして、DMはセンサリーマーケティングを実現する上で非常に適したメディアだといえます。

 たとえば、和紙や特殊な加工をした素材を用いることで触覚に、化粧品やお茶の試供品を同梱することで嗅覚や味覚に、クリエイティブを豪華にすることで視覚に、開くと音が流れる仕掛けにすることで聴覚に訴えることができます。

恩藏:ここで、このセンサリーマーケティングに関して実施されたアメリカの実験を紹介しましょう。ある面接の場に、軽いクリップボードに挟んだ履歴書と重いクリップボードに挟んだ履歴書を用意したところ、同じ内容の履歴書であっても、重いクリップボードで行われた人物評価のほうが高くなる傾向が見られました。

 このように、通常頭の中で行われる情報処理の流れとは異なり、五感を刺激するアプローチを行うと、人間は明確な理由なく評価や行動に結びつけてしまいます。実際、和紙の封筒を見たら、「伝統」や「高級感」といったイメージを思い浮かべる人が多いでしょうが、それは明確な情報処理の結果ではありませんよね。したがってこの手法をうまく活用すれば、こちらが求める態度変容や評価を無意識で生じさせることができるのです。こういった知見をDMであればうまく組み込むことが可能になるんです。

あらゆるメディアとDMをシームレスにつなぐ設計が重要

MZ:これまで数多くのDMを見てきて特に成果が上がっていたものや、印象に残った施策はありますか。

恩藏:第33回のDM大賞(2019年)で金賞グランプリを獲得した、ディノス・セシールが行った「カート落ちDM」は、審査員の中で特に評価が高かったです。これは、商品をECのカートに入れてから離脱した顧客に対して、DMを最短24時間以内に送付するというものでした。

ディノス・セシールの「最新テクノロジーで自動化へ!パーソナライズされた情報が欲しいタイミングで届くDM」。第1弾「カート落ちDM」と第2弾「小冊子DM」の二つの施策があり、どちらもパーソナライズされた情報を届ける

恩藏:一般にも見られるような「カート落ちメール」のみを送った顧客と比べ、今回のカート落ちDMとカート落ちメールの両方を送った顧客はCVRが約20%も上昇したそうです。同施策は、審査員たちに「DMの年表をもし作ったとすると、これは太字になる」と言わしめるほど画期的なもので、DMとデジタルの連携を非常にうまく行っていました。

 一昔前はメディアミックスの発想で、DMはあくまでもメディア、もしくはチャネルの一つという考え方でした。しかしその後、様々なメディアを上手く融合させるクロスメディアの発想が出てきました。それらを経て、現在では単なるメディアやチャネルの話でもない、あらゆるメディアとDMをシームレスに融合させるオムニチャネルの発想が重要になっています。ディノス・セシールの事例は、その進化をうまく体現していると感じています。

馬場:DM協会の「DMメディア実態調査2023」でも、本人宛てDMは行動喚起率が19.7%と特筆して高いことがわかっています。さらに、行動に移した理由を尋ねると、「興味のある内容だったから」が33.0%、「ちょうど良いタイミングだった(欲しい・行きたい)」が11.3%      という結果が見られました。つまり、DMで興味のある内容がタイミングよく送られてくると、消費者は行動に移しやすいことがわかります。デジタルで蓄積しているデータを活用してタイミングよく訴求するマーケティングの基本が、DM施策でも非常に有効なのではないかと思います。

周囲の人との共感・共有が魅力的なDM作りのカギ

MZ:第38回のDM大賞において、多くの審査員から評価される“魅力的なDM”にはどのような特徴がありましたか。

馬場:職場や家族などの周囲の人たちと一緒に楽しめる設計になっていることや、ストーリー仕立てとなっているかどうかが、魅力的なDMのポイントだと感じています。

 たとえば、今回評価が高かった、福島県にあるスパリゾートハワイアンズのDM。施設をRPGの世界に見立て、施設内の各アトラクションを「スペシャルミッション」と題して、家族で巡りながらクリアしていくといった内容でした。

スパリゾートハワイアンズの「夏のハワイの大冒険」

馬場:他にも、TOPPANエッジが行った「すごろくのDM」も印象的でした。周年イヤーを数年後に控えた企業に向けてゴールを周年イヤーイベントに据えた「周年すごろく」をDMとして送付したもので、すごろくの各マスにはゴールに至るまでに必要な業務や意思決定が記入してあります。担当者目線の苦労や陥りがちな落とし穴などが記されていて共感を生みやすく、実際に職場ですごろくをやるかどうかは別にして、共有もしやすいというDMならではの工夫があったと思います。

 また、今回は自治体のDMも高い評価を受けているものが複数見られました。その中でも特に南相馬市の18歳に祝い金を支給する事業のDMは印象的でしたね。役所の事務的なお知らせのイメージとは一線を画すおしゃれなデザインで、18歳の巣立ちを応援する南相馬市の想いやストーリーが伝わってくるメッセージ性のあるDMでした。まさに感性に訴えかけられるDMで共感を集めた好事例です。

【クリックすると拡大します】
(写真左)TOPPANエッジ「周年は山あり谷あり?すごろくDMで落とし穴を把握!」
(写真右)南相馬市「巣立ち応援18歳祝い金支給事業」

DMは万能ではない!強みを理解して適切に活用を

MZ:これまでDMを活用する様々な企業に取材してきましたが、その多くがDMの費用対効果の高さに言及していました。企業がDMを活用する上で意識すべきことを教えてください。

恩藏:まず前提としてDMは決して万能ツールではなく、実施すればすべてが解決するわけではないことを認識する必要があります。この点は、もちろんどのコミュニケ―ションでも当てはまることです。そういった中で、DMにしかできないこと、最も有効になるシチュエーションを理解して、それに合わせて施策を行うべきだと思います。

 今回グランプリに輝いた北海道産地直送センターの「ほたて型DM」は、DMのクリエイティブやキャッチコピーにおいてABテストを実施していました。このように、自社で検証することで、よりインパクトがあるコピーの在り方に関する知見が蓄積されていき、さらに精度が高いDMが実現できるのではないかと思います。

北海道産地直送センターの「ほたて型DM」。複数のDMを検証してより効果が高いものを採用した

MZ:最後に、DM活用について迷っている方に対してメッセージをお願いします。

恩藏:ここまで読んでくれた皆様は、きっとDMの魅力に関心が向いているはず。使っていたけれどやめてしまったという企業は、新しい視点や方法で取り入れてみてほしいですし、まだDMを取り入れたことがなければ、ぜひ試してほしいと思います。

馬場:DMは、保存性の良さ、閲覧性の高さ、共有のしやすさなど数多くの利点があると思います。さらにクリエイティブも封書・ハガキから箱型まであり、創り方は無限にあります。成功事例はDM大賞のサイト、郵便局のスマートDMのWebサイト、DM協会のサイトにも掲載されているので、DMならではの良さをぜひ一度見ていただければと思います。

スマートDM始めませんか?

 スマートDMは、デジタルと紙のDM(ダイレクトメール)を掛け合わせた手法のこと。デジタルとリアルのいいとこどりができるから、五感を揺さぶる1枚が、届けたい人のみにムダなく届く。これからの時代を想う、効率的な新たな手法です。

画像:スマートDMはじめませんか?

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この記事の著者

堤 美佳子(ツツミ ミカコ)

ライター・編集者・記者。1993年愛媛県生まれ。横浜国立大学卒業後、新聞社、出版社を経てフリーランスとして独立。現在はビジネス誌を中心にインタビュー記事などを担当。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:日本郵便株式会社

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/03/14 17:00 https://markezine.jp/article/detail/44542