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【ニッセイ基礎研究所 解説】「共創」視点で再定義する「サステナブル・マーケティング」

サステナ消費者を分類した主要3つのセグメントを紹介~データから読み解く、消費者の本音とインサイト

周りの評価や空気が「行動」を後押しする時代へ

 ここまでは、現状のサステナビリティをめぐる消費者の行動や意識、その背後にあるインサイトを見てきた。だが、「今」のサステナビリティ意識や行動は、今後も続くのだろうか。この問いについては、これまでサステナビリティ意識がどのように形成されてきたのか、その経緯を振り返ることがそのヒントとなる。

 先述の通り、サステナビリティ意識は「高関与」な面を持つ分、時代背景や社会全体の空気に左右されてきた。たとえば、ある研究によれば、2000年代は消費者の環境行動は「自分自身の環境問題への関心」や「社会課題への思い入れ」といった「個人の主体性」が主な原動力だったと言われる。しかし2010年代以降は、「家族や友人、周囲がどうしているか」「世の中の雰囲気」など、自分の身の回りの社会的な視線や同調意識が行動の推進力として存在感を増していったという。

 今回の分析でも、「サステナ積極実践層」は「少しでも貢献できれば」という責任意識を持ち、食品・飲料や日用品など身近な領域で一定の実践率を示していた。

 一方、「サステナライトフォロワー層」は周囲や社会の空気に敏感で、「みんながやっている」ことが行動を後押しする要因となっていた。たとえば、2020年に政府がレジ袋有料化に踏み込めたのは、2010年代以降にエコバッグ利用について社会の認識が変わり、フォロワー層のような同調行動が社会で存在感を増した結果、「やって当たり前」という空気が作られたことが背景にある。

実感や具体的なメリットなど「納得できる理由」の有無が行動のカギに

 それでは改めて、これからサステナビリティ意識や行動はどのように変化していくのだろうか。

 過去の経緯や今回の2024年時点の分析を踏まえると、消費者が日常生活の中でサステナビリティを「実感できるか」「具体的なメリットを感じられるか」が、ますます重要な要素になると考えられる。実際、今回の分析でも、食品・日用品・衣料品など、生活に密着し買い替えの頻度が高い分野ほど、サステナビリティへの意識や行動が強く現れている。

 一方で、金融や投資、保険といった「日常的な実感を得にくい」商品カテゴリーでは、サステナビリティ意識は限定的であった。ここからわかるのは、「周りがやっているから」だけでは消費者の行動は変わらず、「自分の暮らしがどう良くなるか」「どんな具体的なメリットがあるか」が見えなければ、社会や環境への貢献だけでは十分な行動喚起につながらない、という1つの現実だろう。

 「タイパ」がマーケティングキーワードになって久しいが、ニッセイ基礎研究所の調査でも、消費者は限られたリソース(時間・お金)を自分自身の幸福やQOL(Quality of Life)向上にどれだけ活かせるかを意識する傾向が明らかになっている。

 その一方で、SDGs採択から約10年が経ち、サステナビリティが社会に広く浸透する一方で、「社会のため」という呼びかけそのものの新鮮味も薄れつつある。「自分にとって何がいいのか?」という「納得解」をサステナビリティ行動に求める消費者が増えていることも、今の時代ならではの傾向と言えるだろう。

 加えて、SNSや口コミ、デジタルメディアの普及が進むことで、「自分の行動が見える」「誰かに認められる」といった自己効力感(「自分にもできる」と感じる自信のこと)や安心感も、消費者のサステナビリティ行動を後押しする要素になっている

 サステナビリティに配慮した行動は、全ての商品・サービスに同じように等しく波及するものではない。だからこそ、それぞれの消費者の向き合う場面や商品カテゴリーごとに、「どんな実感が得られるのか」「どんなメリットがあるのか」をわかりやすく伝えていくことが、これからのサステナブル・マーケティングで、より一層欠かせないポイントになる。

 次回は、こうした視点をもとに、実際にどんなマーケティング施策が有効なのか、データを用いてさらに掘り下げていきたい。

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この記事の著者

小口 裕(オグチ ユタカ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 准主任研究員

多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)。消費者行動の専門家として、エシカル消費、サステナブル・マーケティング、地方創生を中心に研究・政策提言を行う。過去、20年以上にわたり、自動車、食品・飲料、デジタルコンテンツ、自治体などの多岐にわたる分野の消費者調査や研究に従事。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/07/30 09:00 https://markezine.jp/article/detail/44710

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