テクノロジーとマーケティングを融合した「デジタルテクノロジー戦略本部」
MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、自己紹介をお願いします。
松永:2023年の10月から、マイナビのデジタルテクノロジー戦略本部(以下、デジ戦)にジョインしています。
私が主に担当しているのは、新卒向けメディアに関する業務です。就活情報サイト「マイナビ2025」「マイナビ2026」や大学1~2年生のキャリア形成支援を行う「マイナビSTART」において、認知拡大や集客を目的としたマーケティング施策に取り組んでいます。
MZ:デジ戦とは、どういった組織ですか。
松永:2022年10月に設立された部署で、マイナビのメディアを横断する形でITとマーケティングの両部門を担っています。はじめは各事業部のIT部門を統合した部署として発足し、その後各事業部のマーケティング部門を集約する段階を踏んで、現在に至ります。
デジ戦では「Drive Digital Innovation(デジタル・イノベーションの推進)」をミッションに掲げています。これは「テクノロジーとマーケティングを融合し、イノベーションを推進させ、顧客体験を向上させる」ことを示し、このミッションを推進させるべく活動しています。
現代のマーケターに求められる、“予想外を楽しめる力”の正体とは
MZ:松永さんは、現在のマーケターにはどんな力が求められるとお考えですか。
松永:現在、AIなどのテクノロジーはすさまじい速さで発達しており、やがては限りなく人に近い動きを実現できるといわれています。データとの向き合い方も大きく変わっていると痛感します。だからこそ今、マーケターに必要なのは、「予想外を楽しめる力」だと考えています。
松永:データを精緻に分析しても、わかるのはあくまで傾向や予測の範囲です。しかし、それに収まらない非合理な側面を持つのが「人」です。そんな「人」と向き合うために大切なのは「人の普遍的な感情に向き合って想像し、解釈できること」ではないでしょうか。
また非合理な側面とは、物事に対して一人ひとり違った考えを持つことでもあります。そのため、マーケターが自身の業務範囲と関わることだけを強いられる状況は、人間の非合理性、すなわち予想外の部分への理解を深める障壁となるかもしれません。
当然ながら会社は組織であり、それぞれの業務を点在させざるを得ない部分もあります。しかし、一つの会社に志を同じくして集まった他部署の人が、各々のスキルや考え方、気質を活かしてどう動いているかが見えれば、物事を見る物差しが増えるはずです。これらができれば、マーケターは予想外に出会った際にその理解を深め、新たなイノベーションにつなげることができると思います。
顧客体験を向上すべく組織の垣根を取り払い、全体最適を目指す
MZ:デジ戦が設立された背景は何でしょうか?
松永:大きく2つの観点があります。1つ目は、世の中の技術が進んでいく中、マイナビは企業としてテクノロジー分野を強化したいという思いがありました。また、これまで事業部ごとに部分最適で行ってきた顧客体験を向上させる取り組みをさらに強化するため、各部署の知見や技術を集約することになりました。
2つ目は企業の組織が大きくなると起こりがちなことですが、事業部が点在すると部署やチームごとの個別最適に進み、部門間・システム間のサイロ化が発生してしまいます。まさにマイナビはその状況に陥っていました。そこでデジタルテクノロジーの活用を通して事業部とそれに紐づくデータを統合し組織として全体最適を実現する必要があり、デジ戦の発足につながりました。
MZ:ITとマーケティングが融合した部署は、あまり見かけない事例ですね。
松永:そうかもしれません。こうして改革に踏み切った理由は、「テクノロジーで顧客体験を向上する」という、デジ戦のミッションにあります。
マイナビが展開する事業は、ほとんどがメディアサービスです。メディアの根幹を担うのはITであり、体験のきっかけを提供するのがマーケティングです。そのため、IT部門とマーケティング部門が融合することには、大きな意味があると思います。
デジ戦の取り組みとは?
MZ:デジ戦ではどんな活動をしているのでしょうか。
松永:マーケティング・IT部門いずれも共通して取り組んでいることは「顧客体験の向上」です。テクノロジーとマーケティング、それぞれの専門チームが同じ組織内におり、行動データを元に一人ひとりのユーザーに適した施策を推進できることが私たちの強みであると考えています。
現状は既にサイト内で行動した履歴をもとに施策立案~実行を行っていますが、顧客体験の究極的なあり方としては「検索する前にその人の行動が予見でき、マイナビのサービスに入った段階で、その人が何をしたいのかがわかること」だと思っています。
ただ前述したように、データ分析によって得られるのは傾向や予測に過ぎず、「人」の行動は非合理な側面を含んでいます。そのため、人々の普遍的な感情に寄り添い、それを理解し解釈することが重要です。この視点を持ちながら、行動データの精度を向上させ、AIを活用してサイト内の情報を最適化し、理想的なOne to Oneのコミュニケーションを目指していきます。
松永:2つの部門が統合されたデジ戦は規模も大きく、メンバーのバックボーンは多岐にわたります。そこで彼らが個性を発揮しつつもチームとして同じ方向に進むため、求められるスキルやステップの可視化が進んでいます。
加えて、デジ戦メンバーがやりたいことを実現するための機会も多くあります。具体的には、メンバーが考える「これをやっていきたい、高めていきたい」という内容をデジ戦の中でシェアして、学びを深める勉強会プロジェクトを実施しています。
部署は違えど、同じ組織で同じゴールを目指す仲間の考えやアイデアを知り、刺激を受け思考の幅を広げたり、逆に聞いた側のメンバーが「こういったこともできそう」とリソースや可能性を拡大・提案できたりと、貴重な機会となっています。
プロジェクトの詳細についてはメンバーがマイナビのエンジニアブログで執筆しています。もしよければご覧ください。
組織の全体最適は、データ統合だけでは成し遂げられない
MZ:松永さんは、デジ戦での取り組みを通してどんなことを感じていますか。
松永:同じ部にITとマーケティングのメンバーが共存することは珍しいと思いますが、私はそこが魅力の一つだと考えています。
なぜなら、多様なメンバーと関係を作ることで全体最適に近づけるとともに、一人ひとりの思考の幅も広がっていくからです。私自身も実際にメンバーとなってから、視野が豊かになったと実感しています。
またデジ戦では、勉強会以外にも「ナイストライ賞」を設けています。その名の通りメンバーの挑戦を月一で評価する賞で、成果に関わらず立ち向かう姿勢が素晴らしかったり、示唆が得られたりした場合に表彰をしています。ナイストライ賞を通じて「デジ戦にはこんな考えを持つ人がいるのだ」と気付きが生まれ、新たな出会いにつながります。これによって、組織の最小単位である人の成長にも結び付くと考えています。
MZ:これまでのお話で度々全体最適というキーワードが出ましたが、デジ戦設立後のデータ整備だけでなく個々のメンバーという視点でも、色々取り組まれているのですね。
松永:はい。全体最適はデータ統合だけでは成し遂げられないと思っています。組織にはスペック的な側面とカルチャー的な側面があり、データ統合はスペック的な側面での統合しか実現できないためです。
個人の持つ能力をどう活かすか、掛け合わせるかを決めるのは、とても大変なことです。人を蔑ろにするとデータ統合は難しく、できてもドライブしにくい。だからこそデジ戦では、人の掛け合わせや成長に焦点を当てています。
予想外にこそ、顧客体験向上のヒントがある
MZ:マーケティングにおいて全体最適を実現する上で、データなどのスペック面と人の持つ力やカルチャーの両方が重要な要素だということですね。
松永:はい。デジ戦での活動を通して、私はそう感じています。加えて、様々な人がそれぞれのユニークネスを発揮することは大事ですが、あくまで企業やブランドとして同じ方向を向いていることが欠かせません。そのための目安となるものを組織全体で共有していくことも、マーケティングにおいて大切なポイントだと思います。
またマーケター個人の目線でいえば、目の前の業務だけでなく、その先にいる顧客に想いを巡らせ、体験いただく価値をどうしたら高められるかを考え抜くことが大切です。当たり前のことですが、これが結構難しい。だから自身の視野を豊かにし、はじめにお話ししたような「予想外を楽しめる力」を身に着けることが有効なのだと考えています。組織やシステムのサイロ化によって視野が狭まりそれが阻害されることのないように、デジ戦は統合組織として設立され活動の幅を広げているのです。
MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。
松永:私たちは、「一人ひとりが常にチャレンジし、既存の枠組を超え、新たなイノベーションを生み出す」というデジ戦のビジョンの実現に向けて動いています。デジタルとテクノロジーを用いて顧客体験の向上を実現するためにも、一人ひとりが将来を見据えて考え、行動していく必要があると思っています。
マーケティングでは非合理なこと、予想外なことに向き合う力を高めることが、顧客体験向上につながるのではないかと考えます。デジタルやテクノロジーの力を最大限活かしながら、お客様や協力会社の皆様、そして社員、それぞれの人を大切に、今後もデジ戦でビジョン実現や組織拡大の推進に取り組んでいきます。