感覚的・根源的な欲求をマーケティングの切り口に
MZ:お二人のおっしゃる「ゲームフルデザイン」「ゲーミフィケーション2.0」をマーケティングに活用することを考えると、態度や行動をより根底から変えるための手段として、ゲームのUXに使われているメソッドを施策に転用していく認識でしょうか。
伊藤:はい。補足すると、ゲーム作りの歴史自体が「こうしたらおもしろい」を幾重にも積み重ねてきました。ですから、根源的に人間が持つ感覚的な「やりたくなる欲求」を長年突き詰めている業界といえます。
一方でマーケティングは、データや理論、フレームワークに沿って分析・設計していく、いわゆる左脳的な方向に進んでいると思います。人間の根源的な欲求からアプローチするという切り口は、データを活用した左脳的なマーケティングの思考からは一線を画すかもしれないですね。もちろんゲームでもデータの活用は行いますが、やはりベースは「人間の感情がどう動くか」になります。
MZ:伊藤さんはMarkeZineでの連載「セガ エックスディーが語る、ユーザーの心を動かす『行動中心設計』な仕掛け」でも、感情が動く時に理不尽なこともするのが人間である、とも語られていました。それを踏まえて、いかに楽しんでもらうかを設計してきたのがゲーム領域ということですね。
顧客の「エンジェルインサイト」「デビルインサイト」を見抜く
MZ:近年のマーケティングでも、定量面だけでなく定性面のデータも重視されてきています。一人ひとりの顧客に向き合う必要性についてはどのようにお考えでしょうか。
伊藤:顧客インサイトの深掘りに、ゲームの力がうまく活かせると良いですよね。とはいえ、ユーザーにどんなゲームが欲しいかアンケートを採って、答えを基に新たなゲームを作っても売れないでしょう。顧客のニーズやインサイトを酌み取った上で、それを超える感動や期待を創出できないと買ってもらえないわけですから。
MZ:マーケティングでよく挙げられる課題です。
伊藤:ゲーム業界的な考え方をしてみると、「エンジェルインサイト」「デビルインサイト」というものがあります。エンジェルインサイトはきれいな「建前」。反対にデビルインサイトは、建前の裏に隠れている本音です。表では「この活動で達成感を得たい」と言っているけれど実は「モテたい」が本心だ、といった経験は、思い当たる方もいるのではないでしょうか。
ゲームの世界では、「モノを壊す」「必殺技を繰り出す」など現実ではできないことも可能です。だからこそ、デビルインサイトの部分をしっかり拾い上げることを重視しています。一般的な製品を例にして考えると、消臭剤のエンジェルインサイトは「臭いを消したい」ですが、デビルインサイトは「手間をかけずにキレイにしている感を出したい」といったところでしょうか。
だからこそ、臭いを軽減することを裏付ける細かいデータを載せるより、清潔感の強いイメージを押し出すほうが売れる、といった考え方ができるわけです。
MZ:お二人とも貴重なお話をありがとうございました。次回は、今ゲーミフィケーションに注目すべき理由や、どんな業界・企業の取り組みが多いのかなどを伺っていきます。
【連載特別クイズ:第1回~回答編~】
回答:「ゲーミフィケーション」
理由:2ページ目「にわ(2話)かに」の前にある用語。