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マーケティングの近未来

Googleの弱点が露呈した「3rd Party Cookie廃止方針の撤回」

「データ権」から逃れることはできない

 Googleのビジネスは、これらの権利侵害の上に成り立っている。そんな主張を、当然、Googleは受け入れたくない。だから、テクノロジーでこの難題に解決策を見つける姿勢なのだ。たとえば、データ権を安易に認めて、AppleのATTと同様に、すべてのユーザーから同意を取らなければならない、となったら、Googleは、本当に窮地に追い込まれる。なぜなら、Googleのビジネスモデル全体に波及する。その懸念があって、触れたくないのだ。

 3rd Party Cookieで収集する個人データだけではない。Googleというビジネスは、基本的に、第三者(他人)のデータを収集して成り立っている。検索エンジンの検索履歴・閲覧履歴データにも影響するし、各メディア企業のニュース記事もデータだし、一般のウェブサイト・個人のブログなどもすべてデータだし、YouTubeにアップされている動画も第三者(他人)のデータだ。元々、WWWをクローラーで回遊してウェブサイトのデータ(他人のデータ)を「無許可で」収集しインデックス化して、検索エンジンというシステムを作っている。すべて他人のデータだ。そのデータの権利を主張されたら、成り立たない。

 Google自身はコンテンツデータ作成にコストをかけずに、第三者(他人)のデータを使って、検索エンジンで表示する。だが、すべてのデータに権利があって、その権利者に同意を取らないと使えない、あるいは、権利者にお金を支払うべきだ、と法律が改正されたら、Google検索エンジンの開発コストが馬鹿にならない。破綻するだろう。

 つまり、3rd Party Cookieで収集しているデータは、ネット広告のターゲティングに使われるのだが、そこで同意取得方針を取ると、その方針は他にも影響する可能性がある。なぜなら、(1)「プライバシー権侵害」(2)「著作権侵害」(3)「データ権侵害」という3つの権利侵害は、絡んでいるからだ。すべては情報の権利、データ権の話に収斂する。だから、それを安易に認めてユーザーに同意を取るのではなくて、Privacy Sandboxという別のシステムを開発して、ユーザーに「明示的に」同意を取らなくてもプライバシー保護しながらターゲティング広告を実現する手法を、できるだけ、取りたかった。できるだけ、権利の話はしたくない。できるだけ、テクノロジーで解決したいのだ。

 Googleは、ユーザーに明示的に選択肢を与えたくない。ある人は同意して、ある人は同意していないという状況は避けたい。データが歯抜けになってしまう。ユーザー同意を、できる限り、無視して、選択肢を与えることなく、3rd Party Dataの収集をテクノロジーでやり切りたいのだ。それは、ニュース記事のデータを使うために、メディア企業の同意を取りたくないのと同じだし、一般のウェブサイトや個人ブログのデータを使うために、同意を取りたくないのと同じなのだ。ちょっと過激な権利団体の論理に引きずり込まれて、同じ土俵に立ちたくないのだ。議論をすり替える戦略なのだ。データ権という話は避けたいのだ。テクノロジーで勝負したいのだ。

 「Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです」という有名なGoogleのミッションがある。素晴らしいミッションだと思う。そして、ここに、弱点が露呈している。なぜなら、情報の権利を棚上げしているからだ。そこが、致命的になりかねない。今回の一連の件は、このミッションがすでに時代遅れになっているということだ。

 原理的にいえば、すべての情報には、権利者がいる。1998年Google設立当時、その時代に情報やデータの権利を主張する人はいなかった。だが、データ権があるという、その事実に気づいた人たちが、Googleに不満を抱き、訴訟を起こし始めた。ある人はプライバシー保護を訴え、ある人は著作権保護を訴え、ある人はデータ権という新しい権利を法制度化してしまった。Googleにとってはやっかいな、GDPRの誕生だ。

 Googleは、自分たちが格好悪い、とわかっている。少なくとも私のGoogleの知人は、そう思っているようだ。何度も何度も延期を繰り返し、それでも、Privacy Sandboxの開発にこだわった。そして、結局は、規制当局にも理解されず、アドテク業界からも対応コストなどの面で不満が溜まり、さらに、プライバシー保護団体は、いつまで違反を続けるのだと批判する。「さっさと、Appleのように、ユーザーの同意を素直に取りなさい」「Googleはプライバシー保護団体から呆れられている」と海外の人から聞いた。恥ずかしいけども、呆れられたとしても、情報の権利やデータの権利という弱点の傷口を、これ以上、広げて欲しくない。

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Googleのミッションの不完全性

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この記事の著者

ヴァイオレット・エヴァーインディゴ(ヴァイオレット・エヴァーインディゴ)

1990年代に米国西海岸に留学し、シリコンバレーで就職。1998年のGoogle誕生に衝撃を受け、ネット広告・デジタルマーケティング領域に職域を転換。2000年代初めに帰国。米国大手IT企業・プラットフォーマーを6社経験。デジタルマーケティングのコンサルティングを生業とする。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/08/26 08:00 https://markezine.jp/article/detail/46485

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