パッケージを変え、売り上げを20%落とした米トロピカーナ
MZ:リブランディングは、それまでのブランドを支持してきた既存顧客が覚えている“記号”を変えてしまうと、離反されやすくなってしまうのですね。また、変わったけれど改めて好感を持ち、覚えてもらえるかもハードルになりそうです。リブランディングの失敗事例はどんなものがありますか?
西口:有名なのは、米トロピカーナのパッケージを主体とするリブランディングです。トロピカーナは、100%果汁にこだわったフルーツジュースのブランドです。登場したのは1947年で、品質とともに、果実を全面に打ち出したパッケージで顧客に親しまれてきました。
それを2009年、ロゴをとてもシンプルな書体にし、横文字ではなく縦にあしらって、かつ果実のイラストをなくしジュースの色を主体とするシンプルなデザインに変更しました。中身の変更はなかったようですが、約20%も売り上げを落としてしまったそうです。
MZ:まさに“記号”を変えてしまったからですか?
西口:そうだと思います。もともと味が支持されていて、中身が変わっていないなら、売れ続けてもよさそうですよね。
でも多くの顧客がパッケージで覚えていたために、店頭で「あ、これこれ」と気付きにくくなってしまったのでしょう。その後、パッケージはすぐに元のデザインに戻されたそうです。
ブランディングやリブランディングへの過剰期待
MZ:リブランディングを含め、ブランディングは事前の目的検討が大切ですね。少しわかって、解像度が高まってきました。
西口:ブランディング自体、成功例は多く語られても失敗例はほとんど表に出てきません。また派手なブランディングで成功したとされる事例も、分析するとブランディング自体が成功の要因とは言い難いケースも多く見られます。
実は、売れてもいないのに、華々しくメディアで取り上げられた印象だけで成功例とされることもあります。売り上げや利益を目的としない、単なる認知度向上が目的ならそれでもいいですが、本質的にマーケティングはビジネスに寄与する活動で、ブランディングもマーケティングの手段の一つであるという私の考え方に照らすと、認知度だけでいいのだろうかという疑問は感じますね。
MZ:前回の第18回で効果測定指標のお話もありましたが、目標設定や効果などもあいまいにせず進めるべきですね。
西口:その通りです。便益と独自性を突き詰めず、「ブランディングやリブランディングをしたら現状を打破できるのでは」という誤解や過剰な期待がとても多いので、よく確認していただきたいです。
また代理店さんからブランディング施策やクリエイティブの提案を受ける事業主サイドの方は、ビジネスの現状を正しく捉えられているか、顧客を起点とした課題に対する有効な解決策になっているのか、その見極めがとても大事になると思います。