自社の顧客は「たまにあなたから買う競合の顧客」
DoPテーブルを注意深く観察すると、任意の2ブランドは「相手先の浸透率」に従って顧客を共有していることもわかります。これは、数学的には次のDoPモデルで表されます(Ehrenberg et al., 2004)。

Dはその市場で発生する購買重複やブランドスイッチの総量を表す係数で、カテゴリーの定数です(Dawes, 2016)。この式で重要なのは、ブランドYの購入者のうちブランドXも購入する割合は、ブランドXの浸透率に比例して決まる(Xの浸透率の関数になる)ということです。
たとえば「ブランドY:あなたのブランド」、「ブランドX:競合ブランド」と考えてみましょう。仮にあなたのブランドが属するカテゴリーの重複係数が2だとすれば、自社顧客の中で競合ブランドXも買う人、つまりブランドスイッチする人の割合は「競合ブランドの浸透率の2倍程度になるだろう」と推定されます。
つまり、いかなるブランドも、相手先(競合)の浸透率に応じて顧客を共有する(ブランドスイッチが起こる、顧客の奪い合いになる、etc.)わけです。
こうした規則性に関しては、アンドリュー・アレンバーグ教授が残した“your customers are really other people's customers who occasionally buy from you”という有名な言葉があります(Sharp et al., 2002)。意訳すると、「あなたが自社の顧客と思い込んでいる人は、実際には、たまにあなたのブランドを購入する他社の顧客くらいに思っておいた方がよい」という感じでしょうか。
つまり、差別化を図っても競争は避けられない?
さて、これがマーケティング戦略にどう関係するのかということですが、たとえば一般的に「ブランドはSTPに沿って成長する」と思われている節があります。いくつかの顧客セグメントの中からターゲットを決め、そのニーズを満たすベネフィットを提供することでブランドが受け入れられ、成長するというロジックです。
しかし、そうであるならば、DoPのような規則性が生まれるのは不自然ですよね。浸透率やシェアに関わらず、ターゲットが近い、あるいはポジショニングが似たブランドとより多くの顧客を共有するはずです。加えて、ブランドがSTPで成長するのであれば、ターゲット層からの獲得とリピートが主な成長ドライバーになるはずですが、DoPを時系列でトラッキングしてみると、実際はポジションもベネフィットも異なる競合から少しずつ獲得して成長していることがわかります(Sharp et al., 2024)。
また、ビジネスではよく「戦う場所を変える」「競合と同じ土俵で戦わない」ことが推奨されますね。それを受けて、「ターゲットやポジショニング、あるいはブランドイメージなどを変えることで、競合との正面衝突を避けて成長することができる」という前提で戦略を立てることがあります。
ですが、DoPを目の当たりにすると、必ずしもそうとは限らないことに気づくのではないでしょうか。実際、DoPが強いカテゴリーでは、ターゲティングやポジショニング、ブランドイメージやベネフィットなどとは(ほぼ)関係なく、競合の浸透率に比例してブランドスイッチが起こり、客の奪い合いになります。そして先の数式が表すように、どのブランドもカテゴリー内で最も浸透率の高いトップブランドが最も大きな競争相手になります。
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