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エビデンスベーストマーケティングの基礎

差別化戦略は企業都合の希望的観測でしかない?カテゴリー理解の重要ツール「購買重複の法則:DoP」とは


【検証】差別化戦略は企業都合の希望的観測でしかないのか

 こうした見地に立てば、ターゲットやポジショニングを変えれば競争は避けられる、独自のブランドイメージを形成すれば浸透率の低い小さなブランドでも競争に巻き込まれず成長できるというのは、企業都合の希望的観測に過ぎないかもしれません。

 しかし、本当にそう言い切れるのでしょうか。前掲したテーブルにおいても、DoPの規則性に当てはまらないブランドがいくつか散見されました。こういう時は、データに対するモデルの当てはまりを検証してみましょう。

 つまり、「あなたのブランドの顧客が競合ブランドを購入する確率は、単に競合の浸透率によって決まる」というシンプルな数式で、どの程度データを説明できるのか、理論と現実が一致するのかを確かめてみるのです。

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 シャンプー市場のデータに先ほどのDoPモデルを当てはめ、平均重複率を推定して実数と比較してみました。見ると、MAPE(平均絶対パーセント誤差率)が16%、相関は1に近いのでモデルの適合度としては良好です。つまり、いくつかのばらつきはあるものの、シャンプーカテゴリー全体としてはDoPに支配されているため、任意のブランドがどこと競争になるかは浸透率の影響が大きいと言えそうです。

「意味のある離反防止」「現実的な顧客のリテンション」を導く

 あなたのブランドからどれくらいの顧客が競合に流出するかは、単に競合の浸透率次第だと言われると、「じゃあブランディングしても無駄じゃないか」と思われるかもしれません。

 ですが、このようなカテゴリーノルムを情報として持っておくことは実務にとって常にプラスです。たとえば、「ある競合から顧客を奪わない限り成長が見込めない」あるいは「サブカテゴリ―を開拓したが、今は追われる立場になった」といったような、特定の想定競合がいる市場環境を想像してみてください。

 しばらくDoPをトラッキングすると、重複係数と浸透率から「特定の競合に対してどの程度のブランドスイッチが発生するのが”自然”なのか」という条件付き確率のノルム(基準値)がわかるようになります。浸透率を与件にした上で、自社からの流出がノルムより高い、あるいは最近高まってきているといった状況であるならば、何らかの離反防止策を講じる必要があるという判断になります。

 逆に流出がノルム近辺をキープしているのであれば、特に策を講じる必要はありません。また、何かしたところでリテンションダブルジョパディ*が働くので、それ以上スイッチは減らせないでしょう。

■ノルムを情報として持っておくことで可能になる判断

浸透率が一定でスイッチ率>ノルム

→原因を特定し、何らかの離反防止策を講じる必要がある

浸透率が一定でスイッチ率<ノルム

→策を講じる必要はない(何かした所でそれ以上離反は減らせない)

 また、各競合に対するブランドスイッチのノルムがあることで、単に「離反防止をしよう」ではなく、「誰(競合)に対して、どの程度の離反を防止すればよいのか」という目標が明らかになりますし、流出先の競合、時期、ボリュームが明らかなので、「何が原因で離反が起こっているのか」「どのような打ち手が有効か」という洞察も得やすくなります。

*リテンションダブルジョパディ:離反はブランドサイズに応じて決まる。小さなブランドは顧客数も少なく離反率も高い。逆に大きなブランドは離反の絶対数も多いが、顧客基盤が大きいため離反率で見れば低くなる

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ヘアケアカテゴリーに「サブカテゴリー」が生まれていた/DoPの例外に着目

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この記事の著者

芹澤 連(セリザワ レン)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、 心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。 非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、 化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。 エビデンスベースのコンサルティングで...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/08/22 19:07 https://markezine.jp/article/detail/46869

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