AI開発の仕組み
はじめに、AIがどのように働くのか、その仕組みについて簡単に紹介しておこう。
AIが働くには、まず人間がAIにデータを与え、学習させるプロセスが必要だ。学習プロセスには主に2種類、「機械学習」と「深層学習」がある。
- 機械学習(マシンラーニング):問題と解答の情報データを繰り返し何度も与え、規則性やパターンといった特徴から正誤を得やすくする方法。
- 深層学習(ディープラーニング):機械学習の一部で、より深い学習を実現するための技術。多層構造を定義し、AI自身で分析や抽出に必要な特徴を学習する方法。
AI開発プロセスは以下のような順で行われる。
データ収集→アノテーション(AIに学習させるための教師データを作る作業)→
機械学習→モデル評価→実装
AIとRPAの違い
業務の自動化ツールという点では、あらかじめ定めたルールに従い、繰り返し作業などの定型作業を自動化できるRPA(Robotic Process Automation)も一つの選択肢に入る。
AIとの違いは、RPAはあくまでロボットのため、人間が設定した通りのステップでしか動かない点だ。AIのように自ら学び判断することはないため、より高度な業務をこなすにはAIの方が向いているといえるだろう。
以下にAIとRPAの違いを表にまとめたので、どちらのツールを使用するか迷った際の参考にしてほしい。
AIで業務効率化するメリット
AIを業務効率化のために活用するメリットは以下の6つ。
- プロジェクトごとにカスタマイズできる
- 学習するたびに精度が向上する
- 仕事の属人化を解消できる
- 単純労働から解放される
- 人間よりも高い作業処理能力を持っている
- 24時間稼働できる
それぞれ順番に解説しよう。
プロジェクトごとにAIをカスタマイズできる
AIは、準備する教師データ次第で思いのままにカスタマイズ可能だ。そのため、業務上の課題や今後の展望に向けてなど、自社のビジネスやプロジェクトごとの目的に合わせた運用ができる。
会社都合で従業員に「このプロジェクトだけにずっと取り組んでほしい」というのは容易ではないが、AIならそれが可能となる。採算が合わなくて事業を縮小する際にも、その事業にずっと取り組んできた人材を新規事業へ回してもうまく機能しない場合が多々あるが、AIなら設定を変更するだけで難なく稼働してくれる。
また、教師データさえ用意できていれば、人材を育成するよりも身軽な状態でプロジェクトを任せられるのも大きなメリットだろう。
学習するたびに精度が向上する
学習するたびに推論や判断の精度が向上するのも、AIの魅力の一つといえる。
AIは学習事項が増えれば増えるほど検討材料のパターンが増え、物事の把握が正確かつ高速になる。人間だとこれまでに学習・経験したことでも、忘れたりミスを繰り返したりすることもあるが、AIであれば一度学習したことは蓄積され、学習すればするほどベストパフォーマンスを発揮できる。
この性質を活かせば、過去のデータの洗い出しや正確な物事の判定のような業務を、人間よりも効率的に行ってくれるだろう。
仕事の属人化を解消できる
属人化とは、特定の人材にスキルや知識が集中し、担当者以外がその業務を理解していなかったり、周りが把握できていなかったりする状態をいう。このような状態を打破するにも、AIは効果的だ。
AIで業務の仕組みさえ作ってしまえば、あとは人が変わっても影響なくプロジェクトを進められる。そのため急な休暇や退職などで従業員が抜けた際も、滞りなく業務を回せるのだ。
属人化は慢性的な人手不足や、仕事の専門性の高さから起こることが多い。しかしAIは人間の代わりとなれる範囲が広く、専門性の高い知識も一度学習すれば忘れることがない。人手が足りない職場や、専門的な業務が多い職場は、特にAIが役立つはずだ。
単純労働から解放される
単純で時間のかかる作業をAIに担ってもらえば、従業員はクリエイティブな業務や新しい業務の着手に時間を割ける。この点は、働き方改革の視点から見ても大いに役立つはずだ。
同じ作業を繰り返す業務や、単調でもミスの許されない業務を長時間続けるのは、人間には限界がある。たとえ単純労働が好きという人材でも、いざやってみれば疲労が出て、効率は落ちていくだろう。しかし、AIであればミスなく完遂してくれるだけでなく、効率が下がる心配もない。
単純作業と的確な判断がセットで求められる業務や、複数の情報を漏れなく収集するような業務において、特に役立つだろう。
人間よりも高い作業処理能力を持っている
圧倒的な生産性を持っているのも、AIの魅力の一つだ。前述の通り人間は心身の状態が生産効率に影響する。しかしAIは心身が乱れることもなければ、迷いや判断ミスをすることもない。休みなく大量のデータを処理する力は、人間にはないAI独自の魅力といえるだろう。
特に、識別や予想などのタスクにおいて瞬時に正確な判断ができるため、人間よりも大幅に、効率的に作業をこなしてくれるはずだ。
24時間稼働できる
AIであれば、人間が働いていない時間帯に稼働し続けられるのもメリットの一つだ。人間が心身の健康を保ちながら働くには時間の制限がつきまとう。しかしAIなら休みなく稼働し続けても支障がなく、高度な精度を落とすことなく稼働し続けられるのだ。
また、AIを導入すれば営業時間外の顧客対応もスムーズにできるようになり、生産性の向上にもつながる。時間外労働のようなコストをかけずに作業を続けられるのは、AIの大きなメリットといえるだろう。
AIで業務効率化させた活用事例
AIでの業務効率化に向いているのは、主に以下のような作業だ。
- カスタマーサービスなどのチャットボット
- 契約書レビューや帳票処理の自動化
- 医療サポート
- 建設・製造現場での異常検知や設備保全
- 農業
- マーケティング
- サイバーセキュリティ
- 問い合わせ対応
それぞれの活用事例を順に紹介しよう。
カスタマーサービスなどのチャットボット
近年、AI技術の発展により、チャットボットの機能も飛躍的に向上している。チャットボットを活用すれば、オペレーターに代わってAIが顧客からの質問に対応できるようになる。
チャットボットは社外への働きだけでなく、社内のイントラネットなど、内部ネットワークの活用にも用いられる。従来のイントラネットにチャットボット機能を追加すれば、従業員がより自然で効率的に社内情報にアクセスできるようになるというわけだ。
またチャットボットは、社員からのフィードバックの収集や、アンケートの実施もできる。これにより企業は社員のニーズや要望をいち早く理解し、社内環境やサービスの改善につなげられるだろう。
契約書レビューや帳票処理の自動化
AIを導入すれば、書類のレビューやデータ抽出・入力・集計・分析・出力といった一連の業務を自動化できる。契約書のレビューや請求書などの帳票処理に特に有効だ。弁護士や経理などの人員を削減でき、一定のレベルでのチェックや処理が可能となるだろう。
その他、書類をデータ化する作業のような単調な作業も素早くこなせ、決められた方法でミスなくデータ入力できるため、あとあとデータを探す際にも役立つはずだ。
ミーティングや打ち合わせの議事録を作る際は、音声を認識し、自動で文字起こしをするようなツールも役立つだろう。このように、データの収集と出力を繰り返す作業は、AIにとってうってつけの作業といえる。
医療サポート
医療現場における、医師の診断サポートの場でもAIは活躍している。レントゲンやエコー・MRI・CTの画像からAIが腫瘍と思われる箇所を見つける画像解析、生活習慣病やがんのリスク判定、伝染病の流行予測、伝染病の診断など、サポート内容は多岐にわたる。
特に画像判定は、経験豊富な医師であっても画像の見え方で見落としなどが起こり得る作業だ。これをAIがバックアップすることで、診断の正確性を上げ、多忙な医師の仕事効率化を叶えてくれるだろう。
また、音声認識が備わったAIであれば、医師の診断内容を声で認識&記録し、自動的にカルテを作成することも可能だ。これにより医師の負担を最小限に抑えられるだろう。
建設・製造現場での異常検知や設備保全
建設現場や製造現場においても、AIは活躍している。たとえば以下のような例だ。
- 建造物の老朽化検査でAIがひび割れなどの劣化を漏れなく洗いだす
- 画像認識によりAIが製造ライン上の不良品の検知を行う
- 工場設備の作動音からAIが異常を感知して機器の劣化や故障を判断する
一定水準での検査を人間が行う際は、集中力を保ち続ける必要がある。集中力が低下すると判断基準にブレが生じ、重大なミスや事故の予兆に気付けないこともあるだろう。担当者による精度のばらつきが生まれにくいのは、AIの強みだ。水準を保ちながら長時間同じ業務を行い続ける業務は、人間よりもAIのほうが秀でており、効率的かつ正確に業務を遂行させられるはずだ。
農業
農業においては、AIとドローンやトラクターなどを組み合わせた自動化が主に活用されている。
農地の管理、ドローンによる肥料や農薬の自動散布、収穫時期などの判断、過去の収穫量や気象データの分析からなる収穫量の予測、衛星画像解析による農作物の生育状況や土壌の状態の分析など、様々な場面で活躍している。
さらに土壌センサーなどを組み合わせれば、土壌の水分量や養分量をリアルタイムで計測し、管理することも可能となる。
AIを活用すれば、生産性向上や品質改善、労働力削減、経営の効率化などが実現できるため、今後さらなる活躍が期待されている分野だ。
マーケティング
マーケティング分野では、顧客分析に営業と同様にAIが役立てられている。また、AIを活用した広告運用もされており、昨今流行している生成AIを用いた効果的なキャッチコピーや集客文の作成にも効果的だ。マーケティング分野におけるAIの運用方法は主に以下のようなものがある。
- Webサイトから関連情報を収集し、競合商品の価格や性能、評判などを調査する
- 情報収集したデータを元に、メールマガジンや広告文の下書きを作成する
- 自社のWebサイトをチェックし、ページやコンテンツ別のパフォーマンスを分析する
AIの使用でマーケティングのターゲット精度の向上や、スピーディーなマーケティング文書の作成による業務効率化の実現が可能となり、企業の業績向上につなげられるだろう。
サイバーセキュリティ
サイバー攻撃からネットワークや端末を守るためにもAIは活用されている。たとえば以下のような内容だ。
- ネットワークの監視
- 動作ログの解析
- アプリケーションの振る舞いによるマルウェア検出や脆弱性診断
AIは動作や挙動を分析することによって、従来のアンチウイルスソフトでは検知できない、未知のマルウェアも検知できるようになった。また、ネットワークトラフィック分析により、不正侵入や異常な通信をすぐさま検知できる。スパムメールや、フィッシング詐欺のメール・Webサイトなども、文面やデザインの特徴などを分析し読み取れる上、新しいデザインも自ら学習し情報を更新できるため、素早い対応を可能にしている。
また警備業界においても、監視カメラや防犯カメラの技術開発が進み、不審な行動や異常行動を検知する行動認識AIがトレンドになっている。異常を検知した際に瞬時に通知する仕組みが活用されており、大きなトラブルや事故を未然に防止するのに役立っている。
問い合わせ対応
AIを活用しての問い合わせ対応は、チャット形式やQ&A形式など様々だ。
問い合わせ対応で大変なのは、問い合わせの内容の難度がまちまちなところにある。どこを探しても情報がないものから、少し調べればすぐに解決策が見つかるものまで色々な問い合わせがあるだろう。このような質問内容を整理し、的確な答えを導くには、人間だと時間を要してしまう。しかしAIであれば最適な情報に最短で辿り着き、少ない時間で答えを導き出すことができるというわけだ。
AIであればいつでも問い合わせでき、すぐに正確な答えが返ってくるため、顧客満足度の向上にもつなげられるだろう。
AIはその他にも、様々な業界で日々活躍の機会が増えている。組み合わせ次第で活用方法の可能性は無限にあるため、今後ますますAIが我々の業務や生活を楽にしてくれることは間違いない。
業務効率化のためにAIを導入する際の注意点
業務効率化を図るのに便利なAIだが、導入する際には注意点もある。ここでは以下の2点について解説しよう。事前にチェックし、AIでの業務効率化を実現してほしい。
- AIにすべてを任せずに人がデータや結果を確認する
- 自社に合わせたツールを選ぶ
AIにすべてを任せずに人がデータや結果を確認する
AIは過去から現在までの既存のデータをくまなく学習するため、教師データの内容に人間の無意識的な固定観念による偏りがあると、AIの結果にも偏りが発生することがある。そのため、AIにすべてを任せず、定期的に人がデータや結果を確認して、偏りや誤りが発生しないように対策するとよいだろう。
またAIは万能なツールではないため、どんな業務でもすべて正確にこなせるとは限らない。AIにも業務内容によって向き不向きがあるので、人がAIをサポートする場面もあるだろう。
AIを導入する際は対応範囲を明確にし、AIを導入することによって効率化できる業務の費用対効果をしっかりと見積もってから導入することをお勧めする。
自社に合わせたツールを選ぶ
業務効率化のためにAIを導入する場合は、自社に合ったツールや会社選びをするのが重要だ。どの部署のどの業務に使用するのか、目的達成のために本当にAIがベストなのか、AIを導入することで業務にどのような影響をもたらすのかなどを十分に検討し、導入を進めてほしい。
自社に合わないツールを選んでしまうと、コストの無駄や期待以下の効果となるだけでなく、使いにくさを感じることから業務効率の低下にもなりかねない。ひとえにAIツールといっても種類は様々ゆえ、自社の業務に最適なツールを選べるとよいだろう。
生成AIの進展
生成AIとは、ユーザーがプロンプト(AIに対する指示)を入力するだけで、その意図を汲み取ってテキストや画像を生成するサービスのことだ。ChatGPTやMidjourneyなどの生成AIが登場したことを皮切りに、様々な分野での活用が急速に進み、一般的にも浸透していった。
生成AIの登場で、これまで人の手で多くの時間を要して行われていた作業を瞬時に終えられるようになった。しかし一方で生成AIが登場したことによる課題も発生し、必ずしも喜ばしいことばかりではない。
生成AIのメリット・デメリットや、生成AIの活用事例も紹介するので、業務効率化の検討材料として参考にしていただければ幸いだ。
生成AIのメリット・デメリット
生成AIは主に、クリエイティブな業務と非常に相性がよい。主なメリットは以下の通りだ。
- 文章作成や画像探し、イラスト生成が瞬時に完了する
- 瞬時に数通りの素材が手に入り、多種多様な使用が可能
- 専門的な知識や技術がなくてもプログラミングコードやイラストを簡単に入手できる
業務効率化において多くの利便性がある生成AIだが、一方で以下のようなデメリットも存在する。
- 生成AIに仕事を奪われる可能性がある
- ディープフェイクなど生成されたデータの信憑性が疑われる心配がある
- 一見すると自然に見える生成データも、よく見ると不自然な場合もある
- 精度が高すぎて現実にあるものかAIかの区別が付かなくなる
精度の低い画像生成AIを例に挙げると、「人の指の数がおかしい」「背景のつながりが異様」「光の当たり方が明らかにおかしい」など、不自然なデータを生成することもまだまだ多い。精度の低い画像生成AIだと人の手の形など、まだまだ苦手な部分が多いのも事実だ。
また使用者によって悪用もできてしまうため、十分な対策の検討も迫られている。
生成AIの活用事例
ChatGPTを自治体などで活用する動きが活発化している。実際に神奈川県では2023年5月末からChatGPTを試行利用し、安全かつ効果的に生成AIを利用するためのガイドラインを策定。2023年9月から順次職員研修を実施し、県の各業務において、ガイドラインに基づく生成AIの利用開始を発表している。ガイドラインによると、企画・立案のアイデア出しや、挨拶文やSNSへの投稿文の作成などが目的ということだ。
また、AI素材サイト「AI素材.com」を提供するAI Picasso株式会社が、フリーイラストサイト「いらすとや」と提携し、「AIいらすとや」のサービスを提供したことも話題になった。
このように、AIの技術は日々発展し、多様な業務の効率化を実現させている。AI技術は今後ますます発展し、より少ないデータでの学習や、より複雑なタスクの学習など、その能力の向上が期待されている。あなたの企業や業務においても、使い方次第できっと目覚ましい効率化を図れるはず。ぜひ、AIの力で業務効率化や生産性の向上を目指してみてほしい。