「個と多様性」を重視する意識の変化と「お酒」との繋がり
ここまで、20代の飲酒行動の変化を見てきました。その変化の要因を探るため、最後に意識の観点からデータを読み解いていきたいと思います。
20代の「自分/生活についての考え方」を見ると、「自分をおさえても周りの調和を考えて行動している」は47.6%であり、この10年で減少しています。一方で「周りのことよりも自分のことを優先したい」は半数以上の52.6%となっており、増加傾向が見られました。また、関連した設問として「人は人、自分は自分なので他人のことは気にならない」についても、増加傾向となっています(図表7)。

(データ)インテージSCI Profiler2013・2023、対象者:男女20~29歳(クリックすると拡大します)
飲むお酒の多様化や、家飲みと外飲みとで飲むお酒を区別しないといったトレンドは、こうした「自分」の優先度の上昇がひとつの要因として考えられそうです。個性や多様性の尊重が当たり前のものとして育ってきた今の20代は、必要以上に他人に合わせることはせず、各々が自由にお酒を楽しむ意識を持っているのではないかと推測しています。
さいごに
ここまで、データをひも解きながら20代のお酒の飲み方について分析してきました。「お酒離れ」と一括りに語ることなく、飲んでいるお酒のタイプなどにも目を向けてみると、多様なお酒の楽しみ方を通じて、「多様性を認め合う」や「自己の尊重」といった彼らが大切にしている価値観との繋がりも透けて見えてきました。
自宅近くのコンビニで、偶然にも彼らの買い物風景に出逢うことがありますが、その日の気分に合わせて1本、2本とその日に飲む分を買い物かごに入れたりしています。そんなとき、チューハイやサワーのバリエーション豊かな品揃えはかれらの選択をよりワクワクするものにさせてくれているのかもしれません。また、居酒屋ではテーブルごとに準備されたQRコードから各自が思い思いのオーダーができるシステムの導入が進んでいます。ホールスタッフの人件費高騰、人材不足といった課題への対応でもありますが、こうしたシステムがかれらの「思い思い・多様性」を後押ししているという側面もあるのではないでしょうか。そして、「多様性を認め合う」や「自己の尊重」という風潮は「お酒を飲めない人」や「(体質的には飲めるけど)お酒を飲まない人」がお酒のある場面でも楽しく過ごせる空気を広げてくれてもいます。
これからの変わりゆくお酒のある風景を、生活者のマインドやその潮流に着目しながらデザインすることで、新しいお酒のある風景を描くことができるかもしれません。