「製品開発」を「ビジネス開発」に変換するGTM
連載第一回でも触れたように、多くの企業、特に製造業では、マーケティング用語である4P、すなわち製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の中でマーケティング部門が担っているのはプロモーションだけで、製品と価格に関しては製造、開発部門が担い、流通に関しては営業部門が担っているというケースがほとんどです。
そして製品を作っている研究開発部門や製造部門は、あくまで「製品開発」を行っているのであり、「ビジネス開発」を行っているという意識が希薄になりがちです。そうすると多くの場合、「Buyer & Value」の「自社が解決できる課題と価値」で「勝てる土俵」から考え始めます。一見すると、特に問題がないように思えますが、なぜこれが問題なのでしょうか?
ハイエンド化の罠とニッチトップ戦略
グロービス経営大学院の定義によれば、ニッチ戦略とは、ニッチ(nitch)の言葉の意味である「隙間」の通り、市場の隙間を狙い、小さな市場で相対的に優位なシェアを得、収益を上げる戦略のことです。マイケル・ポーター教授の提唱する基本戦略のうち、集中戦略とほぼ同義であるとなっています(注2)。隙間市場を狙う事は決して悪い事ではありませんが、十分な売上が望めない隙間市場「しか」狙えない戦略では良いビジネスとして成り立ちません。
一つ例を出しましょう。
10年間で90%から3%、この数字はなんだと思いますか?
正解は太陽光パネル市場におけるシャープの市場シェアの推移です(注3)。『知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く』(鮫島 正洋 著、 小林 誠 著/日経BP刊)によれば、技術開発を競っているメーカーでは技術を追求するあまりに、市場で要求されるスペックよりも高レベルな製品を供給してしまい、思惑通りには売り上げが伸ないという現象は日本企業によく見られると言います(注3)。
「自社の技術向上」を起点に「勝てる市場」を考えていくと、高スペックで高価格の製品を買える顧客企業はどんどん数が少なくなり、帰結として、「ニッチ」な「勝てる土俵」で戦い、ほどほどのスペックで低価格なものを求めるマスの「勝つべき土俵」で勝てなくなる。これを筆者は「ハイエンド化の罠」と呼んでいます。
このハイエンド化の罠を脱却する一つの筋道がGTMです。市場と向き合い勝ち筋を見つけるためにも、「Market & Account」レイヤーで進出する意味のある「勝つべき市場」を検討し、「Buyer & Value」レイヤーでその市場でどのように勝っていくのかを考え、「Channel & Engagement」レイヤーでプランの実行性とゴール設定および進捗管理の方法を共有・明確化するという「順番」で、マーケティングの4Pを担うすべての部門の認識をそろえ、製造から販売までのストーリー=「戦略のつながり」を作ることが重要になります。
4Pのそれぞれの機能をバラバラな「局地戦」で考えるのではなく、顧客が対価を支払うまでの、戦略のつながりを持った「総力戦」に変えていくためのツールがGTMなのです。
