データ倫理は転ばぬ先の杖。自分たちの言葉に落とし込もう
朱:倫理と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、そんなに難しいものではありません。データ倫理では「自立性の尊重」「恩恵(誰のどんな利益になるのか)」「公正公平な取り扱い」の大きく3つの観点を押さえれば、まずはよいでしょう。これらの観点を組み合わせて、自社のデータ活用をチェックすることが重要です。

データ倫理の指針を定めておくことで「このデータをこんな風に活用して大丈夫かな?」といった懸念にも適切に対応することができます。データ倫理は、言わば転ばぬ先の杖のようなものです。
小林:こうした話は、企業の中で事業や数字に責任を持っている時と、自分が消費者である時とで、感覚が違ってくることがありますよね。この感覚をできるだけずらさないように意識することが重要だと思います。
渡邉:そうですね。いち企業人として、それっぽい言葉でデータ倫理を示すことはできますが、そうではなく、自分たちの価値観に照らし合わせて考えることが大事ですね。
朱:データ倫理は、「みんなが何となく抱いている、気持ち悪いなという感覚」に裏付けされたものでもあります。渡邉さんのおっしゃる通り、一番大事なのは、普段の自分たちの価値観、腹落ちできる言葉で、データ倫理の指針を表現することです。
友澤:たしかに、国全体で定められている法律とは異なり、倫理に関することは企業ごとに少しずつ違う部分があるはずです。他社をまねて通り一辺倒な表現にするのではなく、自分たちの言葉にすることが大事なのだと改めて思いました。
「これくらい大丈夫だろう」の拡張・積み重ねで、業界全体に影響が
友澤:ちなみに、渡邉さんは元々アドテク領域の方ですよね。なぜ、ばりばりアドテクを使われていた方が、倫理やELSIに興味を持つようになったんですか?
渡邉:私も第三者配信アドサーバの営業をしていた当時は「Cookieを使ったらこんなこともできますよ」「位置情報を特定して、こんな配信ができますよ」といった提案をしていました。ですが、プライバシー規制が厳しくなっていくにつれて「もしかして、私はダメなことをしていたのかもしれない」と気づき……180度方向転換して、現在はデータやAIにおける倫理的な行動をするためのサポートをしています。

朱:デジタル広告におけるデータ活用についても、倫理観のない使い方を野放しにしていたら、さらに規制が厳しくなる可能性がありますからね。データの利活用を続けるためにも、自主的にルールを定め、ガバナンスのある業界だと主張していかなければまずい……といった動きが日本でも2019年頃から本格的になってきました。
渡邉:業界や自社に対する信頼を積み上げていくとなると、果てしなく遠い取り組みのように感じられるかもしれません。その点、自社のデータ倫理に基づいてアクションしていくことで信頼が積み上がっていくとすれば、シンプルにわかりやすく考えられると思います。