人それぞれの程よい距離感を探る
飯髙:東京らしさを、ファン・サポーターやサッカー関心層にどう伝えていますか?
西田:情報があふれている今、何かを企画してもホームページに載せるだけでは誰にも届かない現実があります。特に首都圏はその傾向が顕著です。ですからプッシュ型の情報提供が必要です。具体的にはLINEやメールでのコミュニケーションをこまめに行っています。しかし、量が多すぎると、今度はうるさがられてブロックされる可能性もあり、ジレンマになっています。

飯髙:そこはどう解決しているんですか?
西田:お客様を興味関心別にセグメントして、最もライトな層には月に一回、月初にニュースレターを送るようにしています。ある程度の来場履歴がある方や会員の方は、逆に情報を多く知りたいと考えている人が多いので、いくつかの段階に分けて積極的に注目試合のチケット情報などをお送りし、グッズやイベント情報も頻度高く送るようにしています。
ただし、大きなイベントや施策など特別なタイミングでは「知らなくて後悔した」ということにならないように気を遣っています。
飯髙:ライト層、ミドル層、コア層(ファンクラブに入っているなど)に分けて、メールやLINEの配信数を分けている点は事業会社にとっても参考になりそうですね。ノイズになるとオプトアウトされる理由にもつながります。ライト層であれば、大きなイベントなどの告知に絞る。逆にコア層であれば、あえて頻度を上げて配信する。好きな情報・求めている情報が届くならオプトアウトする理由にならないですからね。むしろ、情報に溢れかえっている時代だからこそ、頻繁に情報を届ける必要性にもつながる。ここのバランスをどう見ていくかですよね。

飯髙:新規のファンづくりに関しては、どのようにされていますか?
柳田:新規でFC東京に興味を持ってもらう手段の1つとして、国立競技場で試合を開催することは大きな意味があります。普段は味の素スタジアムのある調布市や京王線沿線を中心としていますが、国立競技場開催であれば、23区のみなさんにもリーチでき、新規ファンの創出につながっています。
FC東京のホームゲームでは、12歳以下のお子さんのチケットを前売り券も当日券も一律500円に設定しています。ターゲットであるヤングファミリー層は金銭的な感覚がシビアなご家族も多いため、来場ハードルを下げることに戦略的に取り組んでいます。実際に、このU-12施策を始めてから、来場者の平均年齢が下がっているので効果を感じています。
東京都と提携し、年間60施策を展開
飯髙:地域との関わり方についてもうかがえますか?
平山:まずは味の素スタジアムを中心とした、府中、三鷹、調布の3市と、練習場を中心とした小平、西東京の2市、そして味の素スタジアムと練習場をつなぐ小金井の6市は、古くからFC東京の株主として応援してくれているエリアです。このエリアに対しては、子ども向けのサッカー教室や、学校の授業にコーチが行って教える「スマイルキャラバン」、選手の小学校訪問や試合への市民招待、高齢者向けの体操教室など、幅広く活動を行っています。
それらの施策からFC東京に興味を持ってもらうことはもちろん、そのエリアに住んでいるだけでFC東京との接点が生まれるように取り組みを行ってきています。
また、より来場者数を増やすために、2018年頃から人口の多い世田谷・杉並も主要ターゲットエリアに加えて、取り組みを進めてきました。さらに、東京らしい発信をするにあたり、京王沿線でもある渋谷・新宿は、味の素スタジアムにも来やすく、国立競技場で試合をする時も中心になるエリアなので注力しています。このように、6市+4区への施策を多く行ってきました。
さらに、FC東京=東京を実現するために、東京都とワイドコラボ協定を結び、年間50~60の連携施策を実施しています。これにより、新規来場者や新しいJリーグID登録者の創出、FC東京の認知のための活動が広く行えています。

飯髙:東京都とは、具体的にはどのようなことをされているのですか?
平山:たとえば、オレンジリボン(児童虐待防止運動)やピンクリボン(乳がん検診等の啓蒙運動)など、スポーツに限らず東京都が進める施策に対して、クラブとして選手による告知メッセージ発信や、スタジアムでのノベルティ配布などで協力しています。直近では都議会議員選挙の投票率を上げるために、FC東京の試合でノベルティを配りながら投票の呼びかけを行いました。
飯髙:スポーツ以外の領域でもFC東京が協力することで、認知につながっているんですね。