時代が変わっても変わらない、マーケターの重要スキルとは
──これからのマーケターに必要なスキルや考え方には、どんなものがあると考えられますか。
北川:これまでもこれからも、一番必要なのは「人の心に迫る」ことだと思います。私自身もサントリー時代から徹底的にインサイトを深掘りして広告コミュニケーションに取り組んできました。

──具体例があればぜひ教えてください。
北川:代表的なものでは、缶コーヒーの「BOSS」ですね。BOSSのコンセプトは「働く人の相棒」 。広告コミュニケーションでは、原料や製法といったスペックの話はせず、「働く人」に徹底的に寄り添った表現を続けてきました。
今となっては様々な職種の方に愛されているBOSSですが、当初愛飲していたのは工事現場の方、タクシーやトラックのドライバーの方、営業職の方々でした。このようなお仕事の方って、屈強そうな見た目をしていることが多いけれど、実は「一人」で寂しい思いをされていました。
しかし、仕事でつらいことがあっても愛する家族や将来の夢のために頑張っている方が多いのです。そんなふうに頑張っているあなた自身が「ボス」なんだという想いが商品名に込められています。
また、キャッチコピーの「このろくでもない、すばらしき世界」も、ターゲットの価値観や仕事観に寄り添って考え抜かれたもの。他人に言われたら鬱陶しいのですが、宇宙人に言われたら煩わしさがなくなるので、あえて「宇宙人ジョーンズ」に代弁してもらうCMを作りました。
徹底的な現場主義で見えた「BOSS」のインサイト
──非常に詳しくターゲットを分析されていますよね。どのようにインサイト調査をされたのでしょうか。
北川:トラックに同乗させていただいたり、工事現場を見に行ったりして、空気感を実際に体験しながら調査しました。サントリーは「現場・現物・現実」主義。リアリティを非常に重視します。現場に出向くと、デモグラフィックデータではなかなか見えてこなかったターゲットのインサイトが見えてくるはずです。
インサイトを“えぐる”くらいまで深掘りすることが、結果として人の心を動かすコミュニケーションを作っていくのではないでしょうか。人の心が動けば、人の行動が変わり、その人の未来が変わり、やがて世の中が変わります。
そして時代が変わっても、人の心が最も重要であることには変わりません。これからメディアや手法がますます多様化していったとしても、「人の心を動かすコミュニケーション」に向き合い、取捨選択し、提供することは、普遍的なマーケターの重要スキルとなっていくのではないでしょうか。
──10月27日(月)公開予定の後編では、サニーサイドアップ 代表取締役社長のリュウ・シーチャウ氏と北川氏の対談をお届けします。
