「サントリーのお酒」のファンを育てるSNS戦略
NAVICUSの佐久間氏は、セッションの冒頭で「SNSを活用する企業は多いが、アカウントごとに分断されている」と課題を指摘した。チャネルによって運営する部署が異なったり、フォロワーをそれぞれのアカウントで別人として扱っていたりする企業が多いという。こうした分断を乗り越えるには、どういった戦略が必要なのだろうか。
本セッションでは、サントリーの公式 LINE・X 「おとなサントリー」の事例をベースに、その解決のヒントが示された。
竹内氏の所属するCRM部のミッションは「事業やブランド単体では実現できない、サントリーのお酒のファンをつくる」ことだ。一つひとつのブランドの認知度はあっても、それらを「サントリーのお酒」と意識している消費者は少ない。
そこで、2025年の4月から、企業のファンを増やすためのコミュニケーション施策の一つとして、公式LINE「おとなサントリー」をCRMの軸としてSNS活用を始めた。
LINEをCRMの軸にすえた理由は、友だち数2,500万人という圧倒的な接点数の多さからだ。2015年からサントリーホールディングスが運用していた同アカウントを、2024年に酒の事業会社にあるCRM部が引き継いで、マーケティングの接点として活用している。
竹内氏は、「LINEの強みは直接かつ継続的に情報が届くこと」だと語る。InstagramやXなどのSNSでは、アルゴリズムによって流れてくるコンテンツが最適化され、消費者が目にする情報は偏ったものになる。こうしたフィルターバブルを乗り越えて、確実に情報を届けられるのが、LINEの優れた点だという。
LINEとXを組み合わせた立体的なコミュニケーション戦略
一方で、佐久間氏は「LINEの1to1のコミュニケーションだけでは、話題が広がっていかない」という課題を指摘する。「LINEは確実にユーザーに見てもらえるが、そこから話題が自立的に拡散していかない。配信数が増えるとコストも膨らみます」と佐久間氏。
そこでサントリーは、LINEとXを組み合わせた戦略を設計した。LINEの1to1で届けた話題を拡散し、愛着醸成につなげるチャネルとして公式Xアカウントを開設。一方通行になりがちなLINEコミュニケーションに、拡散性の高いXを組み合わせることによって、話題が自走し認知拡大を実現できるのだ。

「1to1でユーザーにリーチできるLINEに対して、Xは新たなユーザーに見つけてもらう媒体でもあります。LINEとXの双方からユーザーが流入し、チャネルを行き来することを想定しています。また、Xで話題性が高まることで、口コミなどのUGCが発信されることを狙っています」(佐久間氏)
LINEを起点にXも急成長。認知拡大キャンペーンの設計図
では、「LINE×X」のコミュニケーション設計にもとづいて、実際にどのような施策を実施したのか。
公式Xは、フォロワー0人からの立ち上げだったため、まずは認知を広げる必要があった。最初のキャンペーンをXで投稿した初日に、LINEにも配信することで、LINEからXへの送客を促した。これにより、キャンペーン開催後に5万人以上フォロワーを増やした。
「Xを立ち上げた当初のフォロワー数は数千人程度でした。サントリーに好意をもってLINEの友だちになってくれている方が、少しでもXでもつながってくれたらいいなという思いで実施した施策だったので、(LINEからの流入で)どんどんフォロワーが増えたのはうれしかったです」(竹内氏)
このフォロワー数の増加の速さには、佐久間氏も驚いたという。通常なら数年かかってもおかしくないが、既存の強みであるLINEの友だちを拡散の起点としたことで、非常に速いスピードでフォロワーを獲得した。
その一方で、XからLINEへの流入を促す施策も行った。たとえば、LINEで応募できるキャンペーンをXで告知したり、Xで公式キャラクターの画像をタップするルーレットを投稿して愛着醸成を図ったりといった施策を実施した。
LINEとXを行き来する施策――新ギフトサービス「ノンデネ」の訴求
そして、今年の8月12日にはLINEギフトサービス「ノンデネ」をリリースした。これは、LINE上でスタンプとともにお酒(※)と交換可能なドリンクチケットを贈れるソーシャルギフトサービスで、能動的に公式LINE「おとなサントリー」を開く動機を作るとともに、共感を獲得しファン化につなげることを目指して始まった取り組みだ。
※対象商品には「オールフリー」を含みます。

「LINEはキャンペーンを目的に登録いただく方が多いのですが、その方たちにサントリーとしても好意をもってもらいたい。そのために新しい体験価値を創出しようとギフトサービスをリリースしました」(竹内氏)
この施策も、LINE×Xの統合的な活用によって順調に認知を伸ばしている。LINEギフトサービスとXをどのように連携させたのか、佐久間氏が説明した。

「図の左側がLINE、右側がXの施策です。最初に『ノンデネ』をLINEでリリースしてから、Xでフォロー&リポストキャンペーンを実施して、認知拡散の核を作りました。そのキャンペーンをLINEでも告知。続いてXでゲリラプレゼントキャンペーンという話題化のための施策を実施しました。LINEで始まったものをXの力を借りて話題を増幅させ、その勢いをLINEに戻すという設計です」(佐久間氏)
1週間で延べ10万人超が参加したキャンペーン設計と成果
最初のサービス認知施策「フォロー&リポストキャンペーン」は、投稿文とバナーを毎日変更し、1回限りではなく毎日応募できる形式にした。そのおかげもあり、7日間でのべ10.2万人が参加、当選確率アップのハッシュタグを含めた投稿は約2,800件に上った。
「ノンデネ」を利用した画像を添付すると当選確率アップという条件をつけたところ、「旦那さんに送りました」といったコメントとともに投稿してくれる方が多く、「具体的な使用シーンを知ることができてうれしかった」と竹内氏。
また、話題化施策として「ゲリラプレゼントキャンペーン」を実施。2週間の間にノンデネドリンクチケットの無料プレゼントを100回実施するというキャンペーンで、ノンデネの特徴である全200種類のスタンプをランダムに紹介し、Xの投稿をタップした先着1名が受け取れる仕組みだ。
投稿のタイミングが不定期であるため、ユーザーは頻繁にアカウントを訪れるようになり、注目度が高まった。リンククリック数は一投稿当たり平均650回。「ノンデネ」の発話数は8月時点で2,300件だったが、「フォロー&リポストキャンペーン」と「ゲリラキャンペーン」をあわせて9万9,000件まで増加した(9月10日時点)。
最近は「GETできた」「(とれなくて)悔しい」といった投稿が見られるようになったという。竹内氏は「挑戦的なキャンペーンだったのでネガティブな反応が起こらないか心配だったが、多くの方が意欲的に参加してくれたので安心した」と施策を振り返った。
「LINE×X」が新たな勝ち筋に
今年の3月にXアカウントを開設し、キャンペーン施策を通してフォロワーを増やしてきたサントリー。竹内氏は、フォロワー数を伸ばすためのLINE連携施策に効果を感じ「引き続き取り組みたい」と話した。
また、「ノンデネ」のリリースと訴求キャンペーンについても振り返り、「LINEとXを行き来するキャンペーンは会社としてこれまでやってこなかった。今後は、LINE×Xが一つの勝ち筋になっていくのでは」と手ごたえを感じていた。
佐久間氏は、「ユーザーは、常に1to1でお得な情報を求めているわけではありません」と指摘し、ユーザーがLINEだけでなく、Xでのコミュニケーションや情報探索にも訪れていることを改めて強調。「今後さらに愛着醸成を広げていくにはサントリーさんとしてどういうコミュニケーションをとるのかが大事になる。これからの企画も楽しみ」と語った。
最後に、今後のSNSマーケティングについて、竹内氏は次のように語った。
「今後もLINEを軸にしながらXを盛り上げていきたいです。フォロワー数を増やすだけではなく『ファンになってもらう』ためにはどのようにLINEとXを活用したらいいのか、トライ&エラーを重ねて探っていきたい。特に、Xではリプライなどでお客様の声が見えます。サントリーのお酒に対しての反応を知る場としても貴重なので、引き続き力を入れていきたいですね」(竹内氏)


