ブランドの「連想」が「想起」を生み出す
では、重要なブランド想起(=考慮集合)は、どのようにして生じるのでしょうか。次に、一つ前の段階である「連想」と「想起」の関係性について、データで検証します。
「ブランド連想」という概念を、消費者がブランドに対して持つ「イメージ(便益評価)」と「CEPsとの結びつき」という2つに視点に分けて傾向を確認します。先述の3カテゴリーにおいて、ブランドイメージの総量が多いほど、考慮集合率が高まる相関関係が確認できます(図表4)。
これは、知覚された価値が、意思決定に相加的に作用する(Sheth, Newman & Gross, 1991)ためであり、主観的な便益評価の積み重ねによって、消費価値が高いと判断される傾向があると説明できます。さらに、ビールカテゴリにおいて、各ブランドのCEPとの結びつきと想起性を確認すると、CEP数が多いほど考慮集合率が高まる傾向が見られました(図表5)。
これらの結果から、多様な便益や利用シーンを結びつけるブランド連想を築くことが、想起される確率を高めるメカニズムであると裏付けられます。つまり、優れたブランディング広告とは、想起率とリピート率を高めて利益を創出するもので、その手段として自社ブランドの独自性を活かしながら「ベネフィット(便益)」と「オケージョン(CEPs)」の両面から消費者の記憶に働きかけ、ブランド連想を拡張していくことだと言えます。
オケージョンから連想のドライバーを特定する
ブランド連想を拡張するといっても、やみくもにメッセージを発信するだけでは効果は限定的です。重要なのは、消費者のどのようなオケージョンに、自社のベネフィットを紐づけるべきかを見極めることです。その土台となるのが、ジェニー・ロマニウクが書籍『Better Brand Health』で紹介している「W’sフレームワーク」です(図表6)。これは、消費者の生活における様々な側面から、CEPsを体系的に特定するための思考のフレームワークと言えます。
これらの問いを自社ブランドが該当するカテゴリーに当てはめていくことで、これまで見過ごされていた新たなCEPsを発見し、ブランド連想を拡張するための戦略的な機会を見出すことができます。なお、カテゴリー次第でこれらの問いすべてに当てはまらないものもあります。すべての問いを必ず使用するものではありません。
次に行うべきは、その中で自社ブランドが記憶の中で、どのようなポジションにあるのかを診断(測定)することです。そのために用いられるのが、ジェニー・ロマニウクが提唱する「メンタル・アベイラビリティ指標」です。これは、オケージョン(CEPs)におけるブランド連想の“量”と“質”を可視化するためのアプローチで、4つの指標から構成されます(図表7)。
これらの指標を測定し、競合と比較することで、「どのCEPとの結びつきを強化すべきか」「どこのCEPが競合に取られているか」といった課題を特定し、広告でオケージョンを戦略的にマネジメントすることが可能になります。
Uber Eatsに見るCEPsの拡大
このオケージョンを拡大させ成長を遂げているブランドの例として、フードデリバリーサービス「Uber Eats」が挙げられます。
2019年頃から著名人を起用したユニークなCMシリーズ『今夜、私が頂くのは…』でブランドの認知度向上を図り、2023年頃からは『Uber Eatsで、いーんじゃない?』という広告コミュニケーションを展開。日常生活の多様なシーン(オケージョン)でUber Eatsを連想させることに注力しています。
たとえば「朝食用の牛乳を切らした時」「リモート会議が長引いて夕食の準備ができない時」など、生活導線上のオケージョンと、フードデリバリーの便益(ベネフィット)を結びつけています。
その他にも、「引っ越しなどで忙しい日」「誕生日を忘れていた特別な日」「猛暑の日」「スポーツ観戦の時」など、消費者の生活における多様なCEPsと自社サービスを結びつける、オケージョンのマネジメントが行われています。
優れたブランドマネジメントとは
繰り返しになりますが、優れたブランディングとは、想起率とリピート率を高めて利益を創出するものです。そして、自社ブランドの独自性を活かしながら「ベネフィット(便益)」と「オケージョン(CEPs)」を戦略的にマネジメントすることで、ブランド連想を拡張することが重要です。
ブランドマネジメントの本質とは、広告によってブランド連想を高め、結果としてブランド想起を促し、購買行動を習慣化させることで、リピート購買による利益基盤を築く活動です。
これまで一貫して、ブランディングについて解説してきましたが、これは販売促進活動を軽視して良いということでは決してありません。ビジネスの成長は、将来の顧客基盤を形成する「ブランド構築」と、目の前の売上を創出する「販売促進」という、2つの活動の両輪がバランスよく回って実現されるものです。重要なのは、それぞれの役割と時間軸を明確に区別し、評価することだと言えます。
目的別の評価視点
- ブランド構築:効果が持続的であるため、中長期的な視点での評価が適切
- 販売促進活動:効果が即時的かつ減衰も早いため、短期的な視点での評価が適切
マーケティング投資の目的を常に意識し、それぞれの時間軸に合った適切なKPIを設定し、PDCAを回すことが重要です。この両輪を回す視点こそが、持続的な事業成長を実現するために必要不可欠な視点だと考えられます。
今回解説した「記憶」を起点としたブランドマネジメントの視点が、一人でも多くのマーケターの皆様にとって有益な情報となれば幸いです。
【参考文献】
・Blackwell, R. D., Miniard, P. W., & Engel, J. F. (2006). Consumer behavior (10th ed.). Thomson South-Western.
・Holbrook, M. B. (1999). Consumer value. A Framework for Analysis and Research. Routledge.
・Romaniuk, J. (2023). Better brand health: Measures and metrics for a how brands grow world. Oxford University Press.
・Sharp, B. (2017). Marketing: Theory, evidence, practice (2nd ed.). Oxford University Press.
・Sheth, J. N., Newman, B. I., & Gross, B. L. (1991). Why we buy what we buy: A theory of consumption values. Journal of business research, 22 (2), 159-170.
