効果予測までカバーするクリエイティブ機能
――前回は、御社が社内で活用しているデジタル広告マーケティング戦略立案プラットフォーム「CREATIVE BLOOM」のプラニング機能について、詳しくうかがいました。マーケティング支援サービス「ONE-AIGENT」の一環として、御社が提供する価値を下支えするプラットフォームということでしたね。
柴山:はい。「CREATIVE BLOOM PLANNING」を通してAIと並走し、的確にプラニングした上で、「CREATIVE BLOOM DISPLAY Ads」もしくは「CREATIVE BLOOM TEXT Ads」でクリエイティブを量産します。各クリエイティブの効果予測までカバーするので、最終的に配信すべきクリエイティブの判断まで担うことができます。
野口:前回見せていただいたアウトプットイメージは、鮮烈でした。このようにバナー広告を量産でき、「広げる」「深掘る」といった訴求の方向性も確認できると、配信後の知見も相当蓄積できそうです。訴求の方向性や、「このワードを入れたい」といった細かい部分まで、指定することもできるのですか?
柴山:はい、できます。むしろ、AIに任せて全自動のみでやることのほうが少ないです。AIと壁打ちしながらプラニングする段階で、私たちにもいろいろな気づきがあるので、そこで得られたアイデアをクリエイティブ量産の段階でも入れ込めるようにしています。
AIが学習する「コーパス」の問題、法と倫理
野口:クリエイティブをAIで量産する場合、常に議論になるのが著作権の問題だと思います。広告主も気にされている部分ですが、そうした点はどう配慮されているのですか?
柴山:広告会社として、AIを活用し始めた初期から、著作権や倫理にいたるまで重視しています。AIが言葉を学習するために集められた、大規模なテキストデータの集合体を「コーパス(corpus)」と言いますが、利用するAIがどの範囲までコーパスへ取り込んでいるのか、法律的な観点だけでなく、いわゆる日本における倫理的な世論も含めて考慮しています。
後ほどデモを見ていただく、生成AIによるクリエイティブ大量生成を担う構成案ジェネレータは、ガードレールについて入念に調整を加えたモデルを組み合わせて生成を行っていますし、リスクを最大限排除しています。また、一般の生成AIモデルを利用してクリエイティブを制作する際も、手順を踏んでリスク排除をしていきます。
具体的には、利用する生成AIモデルがどの程度クリーンなコーパスかどうか、ガードレールが機能しているのかの線引きと、その線引きを採用した際のリスクに関して、あらかじめクライアント企業には説明し、同意いただいた上で実践に移します。それによって、クライアント企業ごとのAIモデルの利用範囲が決まります。
野口:ある意味、広告主が自前で複数モデルを駆使して生成していたら、危険性が増すかもしれないですね。
柴山:そうかもしれません。モデル単位でのリスク調査、リスクに対しての回避方法など、数あるAIモデルを把握して、ガイドラインに反映し、社員教育を行うまでを網羅的にもれなく実行し続けることはかなり大変で、すべての企業ができることではないかもしれません。その点当社は、広告会社として必要な環境整備・コストと捉え、広告会社が負うべき倫理方針として、マーケターやクリエイターに限らず、全社員が理解すべき点だと考え、社内ガイドラインやAI研修にも反映しています。
野口:法と倫理については、AI×クリエイティブを扱う上で、広告主が絶対に通らなくてはいけない点だと思います。これを押さえているのは、非常に優位性があると感じます。
与件に基づく多種多様な構成案を生成
――では、「CREATIVE BLOOM DISPLAY Ads」について、どのようなプロセスでクリエイティブを量産しているのか、教えてください。
柴山:「CREATIVE BLOOM DISPLAY Ads」は、AIのサポートを得てディスプレイ広告を量産するのがひとつの機能ですが、その手前にはプラニング段階での与件や方針の理解、それに基づく構成案の作成があります。またデザイン量産においては、いろいろな観点で効果予測した上でブラッシュアップし、最終的な出稿へとつなげていきます。
柴山:いくつか、主要な機能を解説させていただきますね。ひとつは「構成案ジェネレータ」です。前回ご紹介したプラニングのプロセスで整理した与件と戦略、訴求の方針などに基づき、短時間で多様なパターンの構成案を生成します。
柴山:例えば、今回のテーマである当社のAIエージェント型広告サービス「ONE-AIGENT」のマーケティングを例にすると、はじめにLPのURL、CTA、画像素材などをインプットします。その上で、前段のプラニングで導き出した訴求の切り口を入れると、それぞれの訴求に対して複数の構成案を一度に生成します。ひとつの訴求案につき、クリエイティブのポイントを含めたパワーポイント形式でのスライドも出力できます。
AIの量産にデザイナーの手を加えて完パケへ
――これらの構成案を、訴求軸の分類で一覧したのが、冒頭で提示いただいたイメージですね。
柴山:はい。AIに任せる全自動だと、まだそのまま配信するには未完成の部分が存在する場合もあるので、人力でチューニングする部分も残ってはいます。
例を挙げると、文字が人の顔にかかったり、ロゴの色が少し変わったりしてしまうことがあったりします。それをデザイナーが調整して、完パケに仕上げるという形です。ただし、自動生成部分に関しても、AIモデルのアップデートはデータサイエンティストが日々行っていますし、プロンプトの精度もあげるよう試行錯誤してくれているので、システム自体が常にアップデートしており、自動化が担う範囲は日々増えている状況です。
野口:ここまでのシステム構築と精度の担保には、たくさんのトライ&エラーがあったのだろうと思います。
柴山:たしかに、そうですね。少なくとも、事業会社1社でこうした仕組みをつくるのは、ノウハウの面でも、コストの面でも見合わないのではないかと思います。我々のように複数のクライアント企業とやり取りさせていただいているからこそ、知見の蓄積においてもコスト面でも、ここまでの作り込みに振り切れたというのはあります。
IMPやCTRのスコアを予測、実装の判断材料に
柴山:効果予測AIも、「CREATIVE BLOOM」のクリエイティブ部分における重要な機能です。過去の膨大な配信実績に基づいて、AIが配信効果を予測します。当然、それらは実践では配信設定や予算の影響を受けますが、それらをできるだけ排除し、「純粋なクリエイティブ力」の評価に絞れるようにしています。
野口:量産、つまり取捨選択すべきクリエイティブの数が多いと、それだけプランナーにも負担がかかると思います。その点、効果予測ができれば、それを頼りに選択していけるということでしょうか。
柴山:そう思います。ただ量産してくれるだけでは、たしかに人の負担が大きくなります。これからは、大量制作×効果予測で、配信運用における成果を引き上げていくことができます。
柴山:とはいえ、AIによる予測も、当然100%正解を当てられるわけではありません。しかし、人の正解率とAIの正解率を比較した場合、人よりもAIの予測に基づくほうが正解率が高いという結果が出ているため、AIに判断を委ねたほうが、配信成果は結果として良くなる確率が高くなっています。
また、競合他社のクリエイティブも含めてマッピングできる機能も、役立てていただいています。このマッピングにより、自社や市場全体のクリエイティブの傾向を把握でき、訴求軸やバリエーションなど不足している点などをつかむことができます。
クリエイティブの多様性は非常に重要ですが、プランニングなき多様性はただのカオスで、成果へのリターンの確率が下がるため、効果予測AIと合わせ戦略的な多様性を意識して、制作する環境を準備しています。
AIを使う側になるか、AIに使われる側になるか

――クリエイティブに関しても、単なる制作や配信の効率化に留まらない、博報堂DYグループの矜持を感じさせられました。こうしたプラットフォームを通して、これからどのようにクリエイティブに向き合っていきたいか、どのような世界をつくられたいかについてご意見をいただけますか?
柴山:AIによって、クリエイティブのハードルは極めて低くなり、民主化されたと思います。それだけを捉えると、マーケターは不要になるのかもしれません。ですが、ただ作って流すだけでは、我々が広告を提供するクライアントと、競合他社との間の同質化を避けられません。コモディティ化をたどってはマーケティングが機能しない世界が確実に訪れます。
その前提で重視している点が2つあります。一つはやはり、プラニングです。どこをAIに任せ、どこに人間がもっと汗をかくべきか、その追求にはまだ余地があります。よい感じでの心への引っ掛かり、よい違和感があるものをつくって、と指示するのは簡単ですが、奇抜すぎてもダメなので、ちょうどいい違和感を探るのはまだ人間の感覚が必要だろうと考えています。
――なるほど。もう一つは、何でしょうか?
柴山:それは、ブランディングです。前回、野口さんとのディスカッションでも話が上がりましたが、人の心に何を構築するかというブランディングにも、やはり人間の関与が不可欠だと思います。今、この2つを博報堂DYグループとして解釈すると、「人のクリエイティビティ」が発揮される部分だと捉えています。
野口:今後、新しく仲間になってほしい人材像も変わってきそうですね。
柴山:そうですね。AIに使われるのではなく、AIを使い協働していくべきです。それはこれからの仲間だけではなく、今一緒に働いている社員たちについても同じなので、「ONE-AIGENT」の旗振りと同時に、全社員がAIの使役者になるよう改革を進めているところです。
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