楽天とQoo10の棲み分け戦略。CRM向きなモールか、瞬発力のあるモールか?
MarkeZine:花王ヘアケア事業部では現在、楽天とQoo10で旗艦店を立ち上げ、「Melt(メルト)」と「Essential(エッセンシャル)」についてはTikTok Shopも活用している状況です。どのような戦略をもって、各モールへの参入を進められたのでしょうか。
野原(花王):参入にあたっては、タイミングを重視しました。というのも、ブランドや商品への認知・理解がない状況で、いきなりECで商品を購入してもらえるとは考えにくいですよね。まずは店頭で香りを嗅いだり、ピロー(お試しサイズ) を購入したりといった、リアルな体験から接点を持つことが重要です。
店頭でブランドの認知と信頼を築き、ロイヤルユーザーが増えて、ECで「いつもの商品を買う」状態になるまでにかかる期間は1年ほど。その土壌ができてからECを立ち上げるという流れを計画していました。そのうえで、CARTA ZEROと各モールの特性を分析し、最適な全体像を描いていきました。
MarkeZine:各モールはどのように使い分けられているのでしょうか?
西(CARTA ZERO):楽天は「CRMとロイヤルティ形成のための場」として位置づけています。楽天ならではの特徴は、「お買い物マラソン」や「スーパーセール」といった定例イベントが充実しており、ユーザーとの接点回数が非常に多いことです。リピート購入がされやすい環境を活かしつつ、タイアップなどを通じて、店頭の限られたスペースでは伝えきれない商品の詳細な使い方やこだわりをじっくり発信する場としても活用しています。
Qoo10に関しては、年4回の「メガ割」を最大の商機と捉え、「爆発的な売上を作る瞬発力のあるチャネル」として活用しています。楽天と比較すると若年層の割合が高く、店頭で興味をもった人が、気軽に新規トライアルしやすい間口としても機能している状況です。ユーザーゾーンもマーケティングファネルも、楽天とは棲み分けができていますね。

MarkeZine:一方、TikTok Shopは2025年に日本でスタートしたばかりの新しいサービスです。今後の可能性をどのように見ていますか?
野原(花王):非常に注目しています。中国ではライブコマースという形態で、ビューティー関連カテゴリーにおいて、他ECプラットフォームを一瞬で抜き去りました。日本においても、生活者側が「ライブ配信で物を買う」という文化が根付けば、十分に拡大の可能性はあるでしょう。
一方で、日本でライブコマースを普及させるためには、クリエイターがしっかりと収益を得られるマネタイズモデルの構築が必要だと見ています。現在はまだベストケースを探りながら慎重に運用している状態ですが、引き続き期待を寄せながら注視していきたいです。
ECとブランドマーケを分断させない。強固な連携を実現させている仕組とは?
MarkeZine:西さんから見て、花王ヘアケア領域のEC立ち上げが成功し、よい滑り出しとなっている要因はどこにあると考えられますか?
西(CARTA ZERO):ブランドマーケティングとECが強固に連携できていることではないでしょうか。多くの企業では、ブランド担当とEC担当が組織的に分断され、いわゆる「縦割り」の状態になっていることが少なくありません。それでは一気通貫のマーケティングができず、ECが「売るだけの場所」になってしまいがちです。花王さんのようにしっかり連動できている企業は珍しいですね。
野原(花王):ECモールの旗艦店は「自分たちの店」ですからね。たとえば、表参道にポップアップショップを立ち上げる際に、ブランドマーケティングが関わらないというのは考えられません。それと同じことではないでしょうか。ブランド価値を正しく伝え、顧客体験を最大化するためには、ブランドマーケティングチームとECチームが一体となって取り組むのが必然でしょう。

MarkeZine:具体的には、どのような形で連携させているのでしょう?
野原(花王):象徴的なのが、「マーケティングマスター」と呼ばれるマーケティングの年間スケジュールの組み方です。これまでは、新製品の発売日を軸にして年間カレンダーを引き、それに合わせて広告や販促施策を組み立てるのが基本でした。しかし現在は、楽天やQoo10といった各モールのセールカレンダーを1つの軸としてまず置き、そこに合わせてブランド側の動きを調整するというフローを取り入れています。
MarkeZine:各モールに合わせた動きをすることで、どのようなメリットが生まれるのですか?
野原(花王):わかりやすい例として、EC先行発売によるランキング獲得施策が挙げられます。たとえば新商品を店舗で発売する1ヵ月ほど前にECで先行発売し、「楽天1位」といった実績を獲得できれば、その称号をリアル店舗や広告クリエイティブでも活用できるため、店舗での売れ行きにも相乗効果をもたらします。
西(CARTA ZERO):また、最近では「Qoo10メガ割で買うべきものリスト」といったSNS投稿がインフルエンサーの間で活発です。当然ながら、EC販売をしていなければその土俵に乗ることはできません。インフルエンサーの投稿からECへ誘導し、そこで売り切れになってしまっていたとしても、レビューを見て店舗へ足を運んでくれるお客様も多いんですよ。SNS、EC、店頭を行ったり来たりしながら、ブランドへの関心を高めていく「情報の循環」が構築されています。

