1.Google主導の「Universal Commerce Protocol(UCP)」とは
今回のセッションの中核となったのが、「Universal Commerce Protocol(UCP)」の発表である。これは、Google単独の独占技術ではなく、AIエージェントが異なるリテール(小売)事業者のシステムと相互に連携・会話するための共通プロトコル(共通言語)となる規格だ。Amazonのような単一企業の「ウォールド・ガーデン(囲い込み)」に依存しない、開かれた設計を前提としている。
既存のAPI接続や、Anthropic提唱のMCP(Model Context Protocol)との汎用接続についても互換性が考慮されており、リテール事業者が大規模なシステム改修をすることなく導入できる構成となっている。
これまでAIによる購買代行は、リテール事業者ごとに異なるシステム仕様、決済フロー、在庫データ形式が障壁となってきた。たとえば、「カートに入れる」ボタン一つを取っても業者仕様が異なれば、統合するAIは処理できずに立ち往生してしまう。
ChatGPTの「Instant Checkout」も、仮想的なショッピングアシスタント(例:Walmart商品のカタログ提示)にはなり得るが、在庫管理や配送、アフターサポートまでには関与せず、実質的には無責任な広告的機能にとどまっている。
一方、UCPは「発見」「交渉」「決済」のプロセスを包括して、数あるリテール業者との横連携と縦の完遂取引を標準化している。
- 発見(Discovery):AIが在庫・価格・商品情報をリアルタイムで取得・理解する。静的な商品カタログではなく、「残り在庫数」などの動的データも直接把握する
- 交渉(Negotiation):会員ランクや購買履歴に応じた「特別価格」や「ポイント適用」「配送オプションの選択」などを、AIと店舗システム間で自動交渉する。AI経由の購買であっても、従来の「お得意様待遇(ロイヤルカスタマー施策)」が有効となる。
- 決済(Transaction):Google Payなどにトークン化された決済情報を活用し、ユーザーがフォーム入力することなく、会話の流れの中でシームレスに支払いが完了する。
Amazon依存からの脱却へ、リテール業の勢力図が変わる瞬間
Amazonは、検索・決済・物流までを自社内で完結させる垂直統合型プラットフォーマーだ。Amazonアプリを開けばすべてが完結する設計で、外部との共通規格を必要としていない。
これまではこの垂直統合の「Amazon城」に対抗しようと、Google(検索)、Walmart(リテール)、Shopify(D2Cブランド基盤)、VISA/Master/PayPal(金融決済)といったプレイヤーが個別に戦っていた状態だった。そして今、「AIによる購買統合」という新たな競争領域が生まれ、連合を組むという戦略が浮上している。その中核で接続を担うのが「UCP規格」だ。Walmartだけでなく、リテール同業のTarget、Etsyなども参画する(図1)。
これは、Amazonの「ワンストップショッピング」の利便性を、Amazon以外のリテール業者全体で再現しようとする挑戦とも言える。日本の「ポイントカード」や「再配達指定」といった独自の商習慣も、コア機能を改変することなく追加実装可であり、グローバル展開を目指す日本企業にとっても採用の障壁を下げる重要な要素となる。
「成功は共にあるということ。私たちの目標は、すべての関係者に機会が広がるリテールの未来を築くこと。」
このピチャイ氏の言葉は一見すると美しい言葉に聞こえるが、その裏側には「Amazonの一人勝ちは許さない」「我々と組めば、Amazonに飲み込まれずに済む」という強烈なメッセージがあり、Walmartのお墨付きで発表した様相である。
