ファン度は体験の質で決まる
イー・エージェンシーは1995年に京都で創業し「おもてなしを科学する」を信条に、データ起点のデジタルマーケティング支援を行ってきた。得意とするのは、行動データの分析と分析結果を踏まえた施策の提案だ。同社のアカウント戦略部で部長を務める竹内良郎氏は、分析プラットフォーム「Amplitude」を通じて顧客企業のプロダクトグロースを支援する立場にある。
竹内氏は本セッションのテーマである「ファンの隠れた熱狂」について触れる前に、重要な前提として「ファン度は回数で決まらない。体験の質で決まる」と強調する。
「野球場の来場者を分析する場合、従来は来場回数ばかりが重視され、一人ひとりの熱量の違いにはあまり目を向けられていませんでした。今後は来場数・購入数・アプリ起動数などの数字だけでなく、体験の順番や質に着目し、ファンになった文脈やストーリーを理解する必要があります」(竹内氏)
「Amplitudeはユーザーの体験を時系列で分析し、カスタマージャーニーを精緻に理解するための最適なツール」と竹内氏。ユーザーの行動を分析する際のポイントとして、次の三つを挙げる。
点と点をつなぐ「行動」や「文脈」を捉えよ
第一のポイントは、ファン化のきっかけとなる体験を発見することだ。コアファンの行動履歴を追うことで、熱量が高まった決定的な瞬間を特定できるという。たとえば、ヨガ・瞑想アプリ「Calm(カーム)」を運営する米国のCalm.comでは、トレーニングのリマインダー機能を設定しているユーザーが、設定していないユーザーに比べて3倍も高いリテンション率を示していることがわかった。そこで、アプリをダウンロードしたばかりのユーザーに、リマインダー機能をレコメンドする施策を行った結果、事業成長につながったという。
第二のポイントは、離脱の予兆(Warning Sign)を事前に察知することだ。せっかくファン化したユーザーが離脱してからでは、打ち手が限られてしまう。「毎週末アプリを開いていたのに2週連続で開かなくなった」などの行動変化をいち早く捉え、特別オファーでつなぎとめる必要がある。
第三のポイントは、体験改善の優先順位を決めることだ。勘や経験に頼って闇雲に施策を増やすのではなく、離脱の予兆などを手がかりにして“マジックナンバー”を見つけることが重要だという。たとえば「登録から7日以内に3回アクションした人は離脱しない」という指標を設定すれば、体験改善の優先順位が明確になり、限られたリソースをどこに割くべきか考える際にチーム内の認識も揃いやすくなるだろう。
ユーザーが製品・サービスを利用してから離脱するまでの一連の流れを可視化したものに「リテンション・ライフサイクル」がある。竹内氏はリテンション・ライフサイクルの有用性を唱えるとともに「従来のように『新規』『既存』『休眠』『復帰』などの状態を個別に捉えるだけでは不十分」と指摘。それぞれの状態を点としたときに、今後は点と点をつなぐ行動遷移を追い、どこで変化が起きているのかを見極めることが重要になると語る。

質問するだけでインサイトが返ってくる
ユーザーの行動を細かく追いながら変化の兆しを捉えることは、それほど簡単なことではない。実践したい気持ちはあっても、そこに割くリソースが不足しているマーケティングチームは少なくないだろう。そこで竹内氏は、Amplitudeから2026年2月に正式リリースされた「AIアナリティックスプラットフォーム」を提案する。

同プラットフォームでは、たとえば「継続率が高いユーザーの特徴は?」と質問するだけで、AIがインサイトを自動提示。さらに、ABテストやガイド&サーベイの機能を組み合わせると、Web上にポップアップを表示することもでき、施策実行までつなげやすい。得られた反応データをAmplitudeに還元し、追加の分析につなげる循環も構築可能だ。
「AmplitudeのAIアナリティックスプラットフォームを活用することで、従来の『クエリを書く』『ダッシュボードを作成して分析する』などの煩雑な作業から解放され、マーケターは問いに向き合う時間を増やすことができます。本来の役割である、体験設計や意思決定に注力できるのです」(竹内氏)
西武ライオンズがAmplitudeの導入を決めた理由
セッションの後半、プロ野球球団「埼玉西武ライオンズ」を運営する西武ライオンズから、ファンとの1to1コミュニケーションを主導する皆川 晴氏が登壇。自社の取り組みについて紹介する。
コロナ禍で一時的に落ち込んだ観客動員数が、近年回復基調にある埼玉西武ライオンズ。この流れを加速するように、同球団で注力しているのがダイレクトマーケティングだ。具体的には公式LINEアカウントと公式アプリを基盤に、Amplitudeを活用したダッシュボードの構築と分析、コミュニケーションツールを横断した最適化設計などを行いながら、ファンに向けた施策を展開している。
Amplitudeを導入する前に抱えていた課題を、皆川氏は次のように振り返る。
「アプリ、LINE、メルマガが、情報を発信するためだけのツールに留まっていました。一方的な情報発信が多く、離脱につながっていることも課題でした。ただ、ダイレクトマーケティングに注力しようにも、ユーザーのニーズを捉えられるようなデータが不足していたのです。少人数で稼働していたため、分析・運用リソースの不足も重要な課題でした」(皆川氏)
情報過多による整理不全や1to1コミュニケーション最適化への不安、運用リソースの不足などの課題を抱えていた埼玉西武ライオンズ。そのような状況でAmplitudeを導入したわけだが、導入の決め手となったのは「ユーザーに対するコミュニケーションをストレスなく設計できる点」と皆川氏は語る。
「Amplitudeの導入前もGA4でデジタル上の行動を見てはいましたが、セッションが切れると接触媒体と購買の関係が見えづらいという課題がありました。その点Amplitudeは、購買データと行動データを統合でき、ある媒体に接触してから最終購入に至るまでを一本の線で見ることができます。パラメーターベースではなく、接触媒体別にユーザー一人ひとりのコンバージョン率の違いを見られる点も良いです」(皆川氏)
グッズのコンバージョン率が約3倍に!
現場で日々の施策運用も担う皆川氏は「Amplitudeには助けられている」と話す。最近はAIアナリティックスプラットフォームによって、効果検証のスピードが大幅に上がったという。

埼玉西武ライオンズは、毎年シーズン終了後にファンへの感謝を込めて「ライオンズ サンクスフェスタ」を開催している。昨季に開催した同イベントでは、追加料金を支払った参加者が入場チケットをグッズ付きチケットに変更できるようにした。グッズは単一ではなく複数あり、それぞれのチケットを用意。グッズの売れ行きに偏りがあり、企画担当から販売促進施策の相談を受けた皆川氏は、てこ入れ施策を実施した。
具体的には、販売数が伸び悩んでいるグッズで展開されている選手を「お気に入り登録」しているファンに向け、セグメント配信を行ったのだ。その結果、当該チケットのコンバージョン率が3倍も向上したという。
「どれくらいコンバージョン率が上がったのかをAIに尋ねると、すぐに効果を提示してくれました。前職でデータ分析の経験がない私のような担当者の場合、この数値を出すだけでも時間がかかってしまいます。AIアナリティックスプラットフォームを用いると一瞬で把握できたため驚きました」(皆川氏)
入会特典の効果をわずか15分で分析
皆川氏は、ファンクラブの入会促進施策においても「AIアナリティックスプラットフォームが役立っている」と語る。入会特典の重要性は社内で共有されていたものの、行動変容の効果を示す数値まではまとめきれていなかった皆川氏。そこでAIに問いかけたところ、特典ページの滞在時間の長さが指摘された。AIとの対話を重ねるうち、入会者の多くが同ページを閲覧している事実が見えてきたという。
「特典ページの滞在率や滞在時間を、AIがすぐにレポーティングしてくれました。そのレポートを基にAIとやり取りを重ねる中で、入会者のうち84%が特典ページを閲覧していることがわかったのです。従来は一連の分析に半日を要していましたが、Amplitudeでは約15分で完結します。限られたリソースで活動する私たちにとってはありがたい存在です」(皆川氏)
現在、西武ライオンズでAmplitudeを活用しているチームは、皆川氏が所属する事業企画グループに限られている。しかし今後は、他部署も含めて積極的に活用する体制を検討しているという。
最後に皆川氏は、今後の施策テーマとして「リアルとデジタル体験の融合」を掲げる。球場での購買行動とデジタル上の行動を結び付けて分析できれば、より精度の高い1to1コミュニケーションにつながるという考えだ。
「球場で特定のフードを購入された方の、デジタル上での行動パターンまで分析したいと考えています。関連性や傾向が見えると、一人ひとりに向けた正確なレコメンドが可能になるためです。今後もAmplitudeで施策のPDCAを回しながら、ファンの皆さまの体験価値を向上できればと考えています」(皆川氏)
Amplitudeをより詳しく知る
Amplitudeは従来のアクセス解析ツールを超えて、ユーザーの具体的な行動パターンや傾向を可視化し「理解→施策→検証」のサイクルを高速化します。導入を検討されている企業様や、データ分析を活用したマーケティング施策を強化したい方は、Amplitudeサービスのご案内資料をご覧ください。

