価値が増幅するメカニズム。「個」と「集団」の相互作用
価値創生CXモデルの2つ目の特徴が、価値の伝わり方です。従来の情報や価値の伝達は「企業から個人」の一方向でした。しかし現在は、SNSやコミュニティを通じて、個人の体験が集団に共有され、そこで生まれた共感や新しい解釈が、再び別の個人の行動を変えていくというダイナミックな循環が起きています。価値創生CXモデルでは、集団と個人の相互作用の視点が不可欠です。
イメージしやすいように、具体的な企業・ブランドを価値創生CXモデルの視点で捉えてみましょう。
Nikeは単なるスポーツギアの販売を超え、スポーツという行為そのものを、継続的な体験として成立させています。その仕組みの一つがアプリ「Nike Run Club」です。ランナーは、「今日は走れた」という個人的な体験をアプリ(やSNS)に投稿します。その体験が集団に広がり、共感を生むことで、「走る文化」が立ち上がります。そして、その文化に触れた新たな個人が「自分も走ってみよう」と行動を起こすのです。
Nikeは「走り続ける体験を共に育てるプラットフォーム」として機能し、ユーザー同士の相互作用(UGC)の循環を設計することで、ランニング市場における圧倒的な立ち位置を築きました。
市場を創る「価値創生CXモデル」5つのステージ
ここからは、価値創生CXモデルを詳しく解説していきましょう。このモデルは5つのステージで構成されています。
ステージ1:問題提起・課題の顕在化(個)
生活者が、漠然とした違和感や言語化されていない課題(ジョブ)に気付く段階です。企業は商品を売り込むのではなく、その違和感を社会的なテーマとして提示し、「これは解決すべきことだ」と気付かせます。
ステージ2:課題認識(個→集団)
個人の気付きが、他者との共有を通じて「社会的に共有された課題」へと変わる段階です。ここでは「なぜそれが問題なのか」という文脈が整理され、共感が広がります。
ステージ3:解決行動・購入(集団→個)
集団の中で承認された解決策として、商品やサービスが選ばれる段階です。ここで初めて「購入」や「トライアル」が発生します。重要なのは、これが単なる消費ではなく、生活者が「新しい解決法を自分の生活に取り入れてみる」という実験的な行動である点です。
ステージ4:習慣化・行動様式化(個→集団)
一時的な利用で終わらず、生活リズムの中に定着する段階です。個人が効果を実感し、「なぜこれを使うのか」を理解して使い続けることで、周囲からも「あの行動は当たり前」と認識され始めます。
ステージ5:生活文化の形成(集団)
行動が特定の集団を超え、社会全体の規範やインフラとして定着する段階です。法整備や教育への導入、他業種との連携などが進み、企業の手を離れても自走する「文化」となります。

