ウェブはAIが発見する場へ。ブランドの価値は「AIが語るもの」に
Hearsay SystemsのCPOを経て、2023年にScrunchを共同創業。2024年11月に製品を公開し、約1年半で500社以上に導入。2026年6月、DXP大手のSitecoreによる買収にともない現職へ。
──Scrunchは、AI検索での見え方を測る「Monitor」と、AIエージェントに正しく情報を届ける「AXP(Agent Experience Platform)」を提供しています。Andrew氏は、創業当時から「サイトの最重要訪問者は人間ではなくAIになる」と予測されていたわけですが、その進度は想定より速いですか、遅いですか。
思ったよりも速かったです。通常、生活者の振る舞いを変えるには相当な時間がかかります。しかし今回、人々の変化はとても速かった。
──この先、ウェブ全体はどうなっていくとお考えですか。
これからの体験設計は、「発見はAI向け」「パーソナルな体験は人間向け」の2つに分かれます。
1つ目が「discoverability(発見可能性)」。面倒なリサーチやタスクは、AIエージェントが代行するようになります。もう1つが、人間向けの非常にパーソナルで、ビジュアルな体験を作ることになるでしょう。
──日本では、AI検索対策を「様子見」とする企業が多いようです。米国の先進企業は、どのような危機感で予算を割いているのでしょうか。
米国企業がアグレッシブに動くのは、ブランドの重要性がかつてなく高まっているからです。ただしその定義は、「自社が語るもの」から「生成AIが語るもの」へと変化しました。そのため、自社がどう表現されているかを理解することに優先順位を置いています。
そして次の問いは、「そのメッセージをどうコントロールし、どう改善するか」に移っていきます。もう1つ重要な点があります。おそらくAI検索は、アトリビューションが100%取れる最初のチャネルと言えるでしょう。BtoCの購入でもBtoBの意思決定でも、大きな判断をするときには誰もが何らかのレベルでAI検索を使って事前にリサーチしている。この行動変化を理解するために、各企業はマーケティング予算も、IT予算も、その他のテクノロジー予算も投じています。
──米国ではAI検索対策は、どの部門が主導しているのでしょうか。
主導するのはマーケティングです。SEO担当者はScrunchの典型的なユーザーですが、それ以外にもPR、コミュニケーション、ブランド、プロダクトマーケティングと、あらゆる部門が関与しています。そして、サイトを訪れる主役がAIエージェントになりつつある今、ITやセキュリティ部門とマーケティング部門の強力な連携が不可欠になっています。
当社が、CDN、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティを手がけるAkamaiとパートナーシップを組んでいるのも、IT部門やセキュリティ部門が「AIエージェントがサイト上でどう活動しているのか」をセキュリティの観点から深く把握しようとしているからです。
脱・トラフィック偏重。AI検索対策「5つのKPI」
──サイトへの直接流入が減るなかで、評価指標(KPI)は実際にどう変わりましたか。
かつて、最も重要なKPIはウェブサイトのトラフィックでした。しかし、常に変わらず重要なのはビジネス上の成果です。当社のデータでは、AI検索を経由してサイトを訪れた人は、従来のトラフィックと比べてコンバージョン率が3〜5倍高い。理由はシンプルで、AIプラットフォーム上で既にリサーチを終えているから。サイトに到着した時点で、もう行動する準備が整っているのです。
──では、新しいKPIとして何を見るべきでしょうか。
大きく5つです。
- 自社が重視するAIトピックのなかで、ブランドのプレゼンスを確保できているか
- サイテーションレート(引用率)
- AIエージェントが自社サイトをどれくらいの頻度で訪問し、何を理解できているか
- AI検索のなかでの、自社ブランドに対するセンチメント(感情)
- AI検索から自社サイトに送客されたリファラル訪問者数
──AI検索対策では、こうした指標を観測するソリューションが多い印象です。Scrunchは何が違うのでしょうか。
当社は「モニタリング → インサイト → アクション」を1つのループとして捉えています。AIエージェントが自社サイトのどこを理解できていて、どこを理解できていないのかを把握し、サイトを最適化する。それがScrunchのプラットフォームの役割です。モニタリングしているだけでは十分ではありません。アクションを取り、成果を測定し、継続的に改善していく必要があります。
AI専用の入口を用意するAXPとは?
──冒頭でうかがった「発見はAI向け、パーソナルな体験は人間向け」という考え方を、実装に落としたのがAXPだと理解しています。AXPは、人間向けのサイトはそのままに、AI向けの入口を並行して用意する設計です。なぜ、この「並行構造」を選んだのでしょうか。
調べていくなかでわかったのは、AIエージェントがウェブを見るとき、JavaScriptも動画も画像も見ていないことでした。ですから、AIエージェントに理解されるようページを最適化することが優先事項になります。
Scrunchは企業に両方の選択肢を提示しています。サイト全体をトータルで改善する道と、並行した体験を作る道です。最近はNLWebやWeb MCPなど、AIエージェント向けの新しい標準も次々に登場しています。AIエージェントは、生活者のために最速で正確な情報を取り出したい。人間の体験を損なうことなく、AIエージェントが評価しない不要なコードを自動的に削ぎ落とし、正しい情報を効率的に届ける。それがAXPです。
──ここで懸念になるのが、クローキング(ボットと人間に異なるものを見せるスパム行為)のリスクです。AXPが「安全かつ有効」だと言える理由を教えてください。
クローキングとは、「騙す」ことです。正しくない情報を共有する目的でGoogleのボットを騙す。だからこそペナルティの対象になってきました。生成AIを騙してはいけません。
一方AXPは、AIエージェントが正確な情報を、より簡単に、より効率的に取得できるようにするものです。ですから、クローキングの基準に照らして、AXPは何ら懸念にはなりません。Scrunchの顧客は、既存サイトの体験をトータルで改善することも、必要な箇所で並行した体験を自動的に構築することも選べます。
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【導入事例:Akamai】AXPで非指名検索のブランド露出が364%増加
Akamaiは、新製品に関連する一部のページを対象にAXPを導入した。Scrunchの「Optimizer」機能を用いて、サイト内から情報を集めAI向けに再構成し、AXP経由でAIエージェントに直接届けた。2025年12月1日〜2026年1月19日に、AXPを適用したページと適用していないページを比較した結果は次の通りだった。
- 引用の総数:85%増
- 引用を獲得したユニークプロンプト数:38%増(より幅広いプロンプトの回答で引用されるようになった)
- 関連する非指名検索(プロンプト)でのブランドプレゼンス:364%増(ほぼ5倍)
- ChatGPT単体での、競合と比べたブランドプレゼンス:133%増
引用数では、ローンチ以降もAXP適用ページが非適用ページを22%上回っている。Akamaiは今後、AXPをサイト全体に広げる予定だ。
また、Akamaiの他にも、開発者向けCMSのStrapiではAI検索の引用が226%増、データ基盤のTinybirdではAIプラットフォーム横断のブランド言及が3倍、AIインフラのRunpodではChatGPTを主要な獲得チャネルとして有料顧客が400%増えた。
自社に眠る資料が重要な材料に。Sitecore統合で変わること
──ScrunchとSitecoreが統合したことによって、今後何が変わるのでしょうか?
これからのDXP(デジタルエクスペリエンスプラットフォーム)に求められるのは、「自社ブランドが生成AIによってどう表示されているかを把握し、コンテンツを活用して対処し、人間とAIエージェント双方に最適な形で配信すること」です。
企業のコンテンツ管理は、最下層のDAM(デジタルアセットマネジメント)、中層のCMS、最上層のウェブサイトという3階層のピラミッドで構成されています。現状、AIエージェントが参照できるのは最上層のみであり、公開していないアセットまでは到達できていません。
※DXPとは、ウェブサイトやコンテンツ、顧客データを一元管理し、各チャネルへの配信までを担う基盤。DAMは画像や動画、資料などのアセットを管理する仕組み。Sitecoreはこの領域の主要ベンダーの1社。
SitecoreとScrunchの統合は、この構造的な課題の解決を目指します。Scrunchは、あるテーマで生成AIの回答に自社が出てこないことを把握したうえで、「そのテーマに使える承認済みの資料が既に社内にあります。これを公開すれば、回答に出るようになります」と改善点を示せます。これは社内の全情報を単に公開することではありません。「AIエージェントに使わせる前提」で承認済みのコンテンツを特定・活用し、AIエージェントに正しく読み取らせることを意味します。
「AIの可視性」「インサイト」「承認済みコンテンツ」の3要素を揃えることで、企業はAI検索における自社ブランドの体験をコントロールできるようになります。
生成AIに正しく引用させるには? 最初の3ステップ
──ここまでは、自社が持つコンテンツをAIに届ける話でした。一方で、生成AIの回答に自社が好意的に登場していても、根拠として引用されているのは第三者のサイト、というケースもあります。なぜこうしたことが起きるのでしょうか。
生成AIは、バイアスをかけないように、入手できる公開情報をすべて見にいきます。ですから、自分ではコントロールできないサイトが自社ブランドについて語っていて、生成AIがそれを信頼している――その状況を把握することも、自社サイトと同じくらい重要です。
Scrunchのサイテーション機能では、生成AIがどの情報を根拠にしたのかがわかり、UGC(ユーザー生成コンテンツ)かどうかも含めてコンテンツの種類を分類できます。その上で、優先度の高い第三者サイトを特定し、連携して誤情報を訂正する。PRやアナリストとも連携しながら第三者サイト向けのコンテンツを作り、そこでの自社ブランドのプレゼンスを上げていきます。
──自社サイトの改善と、第三者サイトへの働きかけ。どちらを優先すべきでしょうか。
両方必要ですが、まずは自分でコントロールできる自社サイトからです。自社サイトに矛盾した情報があれば、生成AIは混乱してしまいます。実際に、生成AIに誤って語られる原因が、自社サイトに残っていた古いコンテンツだったとわかるケースもあります。
──最後に、日本のマーケターがAI検索対策を今日から始めるとしたら、最初の3ステップは何でしょうか。
次の3つです。
- それぞれの生成AIで、自社ブランドがどう表現されているかを理解する
- AIエージェントが自社サイトにどれくらいの頻度でアクセスし、何を理解していて何を理解できていないのかを特定する
- AIファーストのオーディエンスに向けて、改善をテストする
これからのマーケティングは、生成AIが自社ブランドをどう表現するかに集約されていきます。そこをコントロールし、改善するためにコンテンツを届けられるかが重要になる。まずは、自社が今どう語られているかを知ることからです。

