本連載では、持続可能な社会に向けたマーケティングのあり方を企業の実践から考察している。第3回は、モノを次の人へつなぐマーケットプレイスを運営するメルカリを取り上げる。商品の購入後、長く使い、修理し、手放す――最初の持ち主の「購入後」は、次の持ち主の「購入前」へとつながる。この循環を促すには、出品の手間や購入の不安を和らげ、誰もが安心して参加できる仕組みが欠かせない。今回は、メルカリの課題解決やユーザー志向の取り組みを通じ、循環型市場を支える顧客体験と、その鍵を握るAIの活用法を考える。
モノが循環すると、次の商品選びはどう変わるか
家に眠るモノを、価値を感じる次の人へ渡す。その先には、メーカーやブランドとの新たな接点もある。
メルカリの経営戦略を担う河野秀治氏は、一次流通と二次流通の関係を「両輪が回っていく」と表現する。ここでいう二次流通とは、一度販売された商品が中古品などとして再び売買される流通、一次流通とは新品が初めて市場に出て消費者に販売される流通を指す。
「メルカリには、過去に生産された商品が再び市場に流通することで、モノの価値を最大限引き出すという二次流通ならではの側面があります。一方で、そこで得られた売却代金を使って、新たな商品を購入するという、二次流通と一次流通が両輪となっている側面もあると思っています」(メルカリ・河野氏)
さらに、もう1つの関係がある。
「そして、二次流通が、一次流通の入り口になっている側面もあります。たとえばメルカリで『これ、いいね』と見たことのない商品と出会って、その後、店頭でその新品を買おう、とするお客様もいます」
実際、メルカリの2024年調査では、中古品の購入を通じて「これまで知らなかったブランド・メーカーを知った」人が19.1%、「中古品を買って好きになったブランド・メーカーの新品を買った」人が8.6%だった。
一次流通と二次流通は競合するものではなく、相互に顧客を送り出す「両輪」である。自社商品が二次流通でどう評価され、どう次の持ち主へ渡っているかを把握することは、新しい顧客との出会いや次の購買機会を捉えるうえで不可欠な視点となる。
出品の手間と、購入の不安をどう支えるか
循環への参加を考えるうえで、メルカリが向き合うのが売り手と買い手双方のハードルだ。売り手には商品の撮影や説明文入力、発送の手間、買い手には商品の状態や品質に対する不安といった「摩擦」が存在する。
この点について、「お客様にとってマーケットプレイスへの出品の手間というコストがかかる部分があります。そのコストを払ってまで、出品するのか、と感じる人もいるでしょう。あまり安価な商品だと流通しづらいという別の問題もあります」と河野氏は言う。
こうした課題に対し、メルカリはAIと人間の役割を明確に使い分けている。出品時のタイトルや商品説明の作成を支援する「AI出品サポート」について、河野氏は「売り手の方々の取引の『摩擦』を極小化するサービスを設計・実装していくうえで、AIは有用なソリューションです」と語る。ユーザーの作業や「何を書けばよいか」という迷いをAIで軽減するアプローチだ。
一方、買い手側が抱く商品の品質や動作への不安に対しては、異なるアプローチを取る。河野氏は「買い手は、特にスマートフォンやタブレットなどの電子機器の動作確認で不安を感じており、バッテリーの劣化が怖いなどといった声も上がってきています」と話し、「そのような商品の品質が買い手から見えにくい場合は、買い手と売り手の間にAIではなく人間の『プロ』が介在したほうがハードルが下がると思います」と語る。
すべてのプロセスをデジタル化・自動化することが優れたCXではない。入力作業や手続きなどの「作業上の摩擦」はAIで限りなく削ぎ落とし、品質判定や安全性の確保といった「不安に関わる領域」にはあえて専門家や人間の手を介在させる。この役割分担と人が関与する領域の設計こそが、顧客が安心して参加できる仕組みの鍵となる。
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小口 裕(オグチ ユタカ)
株式会社ニッセイ基礎研究所 主任研究員
多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)。消費者行動の専門家として、エシカル消費、サステナブル・マーケティング、地方創生を中心に研究・政策提言を行う。過去、20年以上にわたり、自動車、食品・飲料、デジタルコンテンツ、自治体などの多岐にわたる分野の消費者調査や研究に従事。持...
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