インタビュアー:工藤岳(takashi kudo) スウェーデンのゲーム雑誌+Nで働く、謎の日本人の編集者。年齢は30歳
あの“マリオ“がお出迎えしてくれる心地よさ
ゲームは他の文化にも影響を与えている、などと堅苦しく書かなくても、今日の映画、音楽、アートを創造している人々は、何らかの形で、ゲームからの影響を受けている。
例えば、子供のころの記憶や体験など、挙げればきりがない。でも、ゲーム文化は、いわゆる“社会活動”に、どんな味付けをしているのだろうか?
私たちは、有象無象の日本のIT業界において、今もっとも注目されるべき人物であろうTEAM LAB Incの猪子寿之氏にインタビューをお願いした。猪子氏が私淑する、任天堂、宮本茂氏(注1)の考え方がTEAM LABのビジネス、そして、彼自身にも大きな影響を与えていると氏は語った。
まず簡単に、TEAM LAB設立の経緯について触れよう。猪子氏は、まだ東京大学の学生であった2000年、同社を設立した。同社は、ITビジネスにカテゴライズされるが、彼らのビジネスは、ITビジネスという便宜上のカテゴリーの中には納まらない。そんなカテゴリーを吹っ飛ばすほどの、さまざまなものに挑戦している。
例えば、日本画の伊藤若冲の作品を取り扱ってみたかと思えば、スヌーピーの企画展でデジタル作品を発表してみたり。そして、もちろん、ブランドデータバンクといった“本来の”仕事も真面目に取り組んでいる。一見、節操なく見える彼らの仕事ぶりだが、どの仕事にも共通するひとつの会社理念がある。それは、“任天道”とでもいうべき、任天堂の会社哲学にも通じる部分が垣間見える。
東京は本郷にオフィスをかまえるTEAM LABの本社。2階にあるレセプションに、受付嬢の姿はない。その代わりに、黄色の台に乗った、懐かしのファミコンとスクリーンを目にすることになる。スクリーンには、誰もが知っているあの懐かしい、『スーパーマリオ』の光景が。しかし、これはあの『スーパーマリオ』ではなく、受付嬢なのだ。
訪問者はコントローラーを手にし、お目当ての部署名が冠されたワープ土管の上にマリオを移動。その土管に入れば、担当者が来るまでのしばし、きっとあなたのマリオは、ちょこちょこと、この世界を歩き回ることだろう。
「格好よくない?」と猪子氏。「このアイデアはとても気に入っている。こんなの誰も作ったことないんじゃないかな?」
猪子氏の生み出すアイデアは、まるで子供の視点のように、シンプルで面白い。それらのアイデアが、会社としてのビジネスになれば、高度な技術と知識に裏づけされる、それがTEAM LABのスタイルだ。
そして、彼らの会社理念は“日本再生”。子供の言葉のように、ナイーブでシンプルだが、志は非常に大きい。
『子連れ狼』はテロリスト
「まず最初に、日本と海外の根本的な違いを説明してみたい」と猪子氏は語りはじめた。