口コミ影響力の最大化と顧客のビジネスプロセス統合
ソーシャルメディア上で能動的に顧客に働きかけ、関係性を構築していくエンゲージメント戦略。最終回となる今回は、ロイヤルカスタマーの発見と、その影響力の最大化を目指す「Energizing(活性化)」、顧客をビジネスプロセスに統合する「Embracing(統合)」の2つの戦略について、国内スモールビジネスと米国グローバルカンパニーの事例を通じて解説していく。
Case Study: Baby FootによるEnergizing ― ズルむけコンテスト
筆者が所属するIMJ統合型マーケティング戦略室が「Baby Foot」という商品のPR活動支援でお付き合いのある株式会社リベルタは、独自にソーシャルメディアでのマーケティング活動を実施し、Engerzingを体現する国内でも稀有な取り組みで成果を挙げている。
このBaby Footという商品は、足裏のトラブルに悩む男女向けのホームケアキットである。足裏の角質を専用のローションで剥がれやすくし、剥がれた後のかかとが植物エキスの成分によってつるつるになっているという特徴がある。この「削らない角質ケア」というコンセプトが受け、口コミで着実に売上を伸ばしている(図表1)。
かかとの角質が剥がれ落ちるのを目の当たりにしたBaby Foot使用者は、嬉しい驚きを感じる。そのポジティブな感情が、実際にかかとの角質が剥がれ落ちている様子を撮った写真という非常に粘着性の高いコンテンツをベースに、知人や友人にシェアしたいというモチベーションを与えることになる。そして、そのモチベーションは、Baby Foot使用者個人のブログやTwitter等のCGM上での投稿という行動につながっていく。
しかしながら、ここで問題となるのは、シェアされたコンテンツのインパクトである。個々のCGMは、アルファブロガーや多くのフォロワーを抱えているTwitterユーザーを除けば、インプレッション自体が少ないためロングテールコンテンツでしかなく、マーケティング上のインパクトをもたらすには至らない。通常、個々のCGMというものは分散しているため、コンテンツのインパクトが生まれにくいのである。
だが、このBaby Footの場合、自社メディア上のコミュニティサイト(プライベートソーシャルコミュニティ)で、「Baby Footズルむけコンテスト」というイベントを開催することによって、上記のような課題をうまくクリアしている(図表2)。
このコンテストという形式が、個々のCGMを自社サイト上のコミュニティ内に集結させ、コンテンツのインパクトを強めている。マスメディアや店頭で商品のことを知った見込み顧客がこのコミュニティサイトを訪れた時に、多くの使用者が嬉しさとともに投稿しているコメントや画像によって勇気づけられ、トライアル初回購入への第一歩を踏み出す強い動機になる。また、既存顧客にとっても、使用者の使用実感に関する反響が励みになり、フットケアを続けられる理由となっている。
さらに同社では、Amebaでのオフィシャルブログ、Twitterでのオフィシャルアカウントを開設するなどソーシャルメディアへも積極的に参加し、顧客との関係性構築に励んでいる(図表3、4)。
顧客とコミュニケーションをとる際、自然な会話の中でコンテストへの参加を呼びかけており、ソーシャルメディアから自社メディアへの誘導を、効果的に行っている(図表5)。
このように、Baby Footの場合、自社メディア上でのコミュニティ運用とソーシャルメディアへの参加を連携させることで、口コミがEnergizing(活性化)されているのである。
連載第1回の【図表5】でも解説したとおり、「ブランド体験の共有」に関する情報は、新規顧客にとっては購買プロセスにおいて極めて影響力のある情報ソースとなり得る。Energizingは、メディア情報よりも信頼されているインターネット上の口コミの影響力を最大化する戦略である。1件1件の口コミは興味をそそるレベルかもしれないが、それらを集結させることによって、説得力のあるレベルにまでインパクトを高めるのである。